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元の世界

研修医の清水先生

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僕が顔を顰めて考え込んでいたせいか、清水先生は申し訳なさそうな顔で言った。

「痛いかい?もう直ぐ終わるからね。…でも慎くんの綺麗な筋肉に傷痕って、何だか残念な様な、いや返ってカッコいい様な…。慎くんて、何か運動でもしていたのかな。随分鍛えられてるよね。」

インターンの清水先生は語り口は柔らかいけれど、体格の良いラグビーやアメフトでもやっていた様な感じのスポーツマンぽい若い先生だ。僕は行方不明の時の事をあんまり詮索されたくなくて話を変えた。


「…清水先生こそ、何かハードな運動とかやってたんでしょ?マッチョだもの。」

ガーゼ交換を終えた先生が、僕の病院着の紐をゆっくり結ぶのを眺めながら聞いた。
清水先生はちょっと驚いた顔で僕の顔を見つめると言った。

「え、慎くんが俺に興味持つなんて初めてじゃない?いつもクールだから、俺嫌われてるかと思って、頑張ってたんだよ?」

そう言うと、アメフト経験者なんだと爽やかに笑った。それから僕がこの病院で、リアル異世界転生者だとスタッフに面白おかしく噂されてる事も教えてくれた。本当の事なので、全然笑えないけどね、僕は。


「…慎くんて何か雰囲気が武士っぽいっていうか。戦闘してました感があるんだよね。だからスタッフが冗談半分、状況から本気半分、そんな話をするのも無理ないんだよ。当人は全く記憶がないって言うんだし。…でも俺は運び込まれてからの慎くんをずっと見てるからね。…ねぇ、ジュリアンって誰だい?」

清水先生は今までの明るい声音のトーンを急に落として、ジュリアンの名前を僕の耳元で囁いた。

僕はビクっと身体を強張らせると、足元のベッドフレームを見つめた。清水先生の目を見たら見透かされそうで目を合わせる事が出来なかった。


「ふふふ、なかなか尻尾を出さないね。別に俺は慎くんを追いつめようとか、そんなつもりは無いんだよ?ただ、困ってる事があったら一緒に悩んであげようと思ってるだけで。

本当は患者さんに深入りしちゃいけないんだけど、なんか慎くんはほっとけないんだよね。…誰にも言えない事で話したくなったら聞いてあげるよ。ほら、僕は医者で守秘義務に関してはプロだからね。」

そう言って爽やかに微笑むと、僕の頭を撫でてからまた来るねと言いながら歩き去った。僕は、いつか先生に話を聞いてもらうときが来るのだろうかとぼんやりと思いながら、先生の後ろ姿を見送った。


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