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二度目の砦生活
意識を取り戻した第二王子
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血の巡らない重い身体を時間をかけて引き起こすと、従者ハミットの手を借りてやっとの思いでベッドボードに寄り掛かった。
急いでやって来た医官に診察を受けながら、何が起きたのか苦々しい思いで思い返していた。
あの時、あの従騎士は閨の魔法の支配された甘やかな肢体をくねらせて、私の愛撫を楽しんでいた。最初のピリついた口づけには警戒したものの、その後は特にそんな事もなくすっかり油断させられた。…今でも耳に残る彼奴の言葉。
『…ああっ、お願い。もっと…口づけて。』
まんまと罠に嵌ったのか。その甘い誘惑は喉に焼けつく痛みを与えて、更には胸の芯の動きさえも凍りつかせたに違いない。
薄れる意識の中で縋るように見つめた彼奴の黒い目に映っていたのは何だったか。憎しみか、否。憐れみか、否。そこにあったのはただひたすら生き抜こうとする真っ直ぐな力強い目だった。
私が込み上げる笑いに身体を震わせると、周囲に居た人間たちを怖がらせたようだ。怯えた目をしたハミットに笑いながら命じた。
「…ケブラを呼べ。」
「殿下、肝が冷えましたぞ。」
厳しい顔をしてベッド上の私を見下ろす団長と、ケブラは機嫌が悪そうだ。私は口元に笑みを浮かべて言った。
「まんまとやられた。見事なものだ。ククク、この私がここまで手玉に取られるとは、悔しいを通り越して感心するぞ。」
「笑い事ではありません、殿下。医官曰く、命の危機もあったとの事です。」
相変わらずケブラには遊び心が無い。その点団長の方が余裕がある。その証拠に口元が緩んでいる。
「団長、そちも気になるだろう?あ奴は敵にすると手強いが、味方に出来れば有効だぞ。とは言え、魔神信仰の我が国では親和性に欠けるだろうがな。」
黙っていた団長が口を開いた。
「…なぜ殿下に奴の魔法が効いたのでしょうか。」
私は団長の顔をじっと見つめてから人払いさせると、団長とケブラを前に言った。
「私にその問いを直接尋ねたお主の勇気に免じて答えてやろう。他言無用だ。
…私が幼き頃より魔の加護が付かない事は事実だ。魔神信仰の王族あるまじきこの事実に、我が王は頭を悩ませたものよ。しかし一方で私は魔法に影響されない利点を見い出したのだ。私自身は魔法が使えるというのに。
私には魔の魔法攻撃は効かぬ。この国では私を力以外で倒すことはできぬ。魔の加護を使うお前たちには私は倒せぬ。
だが、今回はどうだ。私の中に直接注ぎ込む事で白い魔法は効果を表した。皮肉にも私の芯の中心には魔の加護があったというわけだ。だが、それは何を意味する?閨以外の場では、お前たちの肌を切り裂くあの白い魔法の力は、私の前では無だ。
彼奴を葬るのは惜しいが、手に入れても楽しめないのではしょうがない。…私の脅威は滅する。ククク、残念だ。」
急いでやって来た医官に診察を受けながら、何が起きたのか苦々しい思いで思い返していた。
あの時、あの従騎士は閨の魔法の支配された甘やかな肢体をくねらせて、私の愛撫を楽しんでいた。最初のピリついた口づけには警戒したものの、その後は特にそんな事もなくすっかり油断させられた。…今でも耳に残る彼奴の言葉。
『…ああっ、お願い。もっと…口づけて。』
まんまと罠に嵌ったのか。その甘い誘惑は喉に焼けつく痛みを与えて、更には胸の芯の動きさえも凍りつかせたに違いない。
薄れる意識の中で縋るように見つめた彼奴の黒い目に映っていたのは何だったか。憎しみか、否。憐れみか、否。そこにあったのはただひたすら生き抜こうとする真っ直ぐな力強い目だった。
私が込み上げる笑いに身体を震わせると、周囲に居た人間たちを怖がらせたようだ。怯えた目をしたハミットに笑いながら命じた。
「…ケブラを呼べ。」
「殿下、肝が冷えましたぞ。」
厳しい顔をしてベッド上の私を見下ろす団長と、ケブラは機嫌が悪そうだ。私は口元に笑みを浮かべて言った。
「まんまとやられた。見事なものだ。ククク、この私がここまで手玉に取られるとは、悔しいを通り越して感心するぞ。」
「笑い事ではありません、殿下。医官曰く、命の危機もあったとの事です。」
相変わらずケブラには遊び心が無い。その点団長の方が余裕がある。その証拠に口元が緩んでいる。
「団長、そちも気になるだろう?あ奴は敵にすると手強いが、味方に出来れば有効だぞ。とは言え、魔神信仰の我が国では親和性に欠けるだろうがな。」
黙っていた団長が口を開いた。
「…なぜ殿下に奴の魔法が効いたのでしょうか。」
私は団長の顔をじっと見つめてから人払いさせると、団長とケブラを前に言った。
「私にその問いを直接尋ねたお主の勇気に免じて答えてやろう。他言無用だ。
…私が幼き頃より魔の加護が付かない事は事実だ。魔神信仰の王族あるまじきこの事実に、我が王は頭を悩ませたものよ。しかし一方で私は魔法に影響されない利点を見い出したのだ。私自身は魔法が使えるというのに。
私には魔の魔法攻撃は効かぬ。この国では私を力以外で倒すことはできぬ。魔の加護を使うお前たちには私は倒せぬ。
だが、今回はどうだ。私の中に直接注ぎ込む事で白い魔法は効果を表した。皮肉にも私の芯の中心には魔の加護があったというわけだ。だが、それは何を意味する?閨以外の場では、お前たちの肌を切り裂くあの白い魔法の力は、私の前では無だ。
彼奴を葬るのは惜しいが、手に入れても楽しめないのではしょうがない。…私の脅威は滅する。ククク、残念だ。」
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