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サーバー対抗戦:開戦3

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「ふう、これでやっと落ち着けるな。」

裕司から距離を取り、イクルが言う。


裕司は、イクルを見据えたまま構えを解いてはいない。

「先に言っておくけど。

君が最後に残ったのは、偶然じゃないからね。

俺が狙って、君だけを最後に残そうとして、時間がかかってしまった。と、言うだけだから。」


イクルの言葉に、困惑する裕司。



「君のお母さん。 ミリアさんから頼まれているんだ。

君の天狗に為った鼻を叩き折ってくれないかってね。」


そう言って、右手の みたらし団子のグラフィックを解除して、左の手には新しい武器をアイテムストレージから出す。


新しく、出した武器はロングソード。



「俺も、母さんと約束してるんだ。

アンタに、どんな事をしても勝てたら、今のままで良いって。約束を。」

イクルを見ながら、裕司も言う。


そして、チラリと水無月に視線を移す。

「安心して。裕君と先生の邪魔はしないから。」

裕司の視線の意味を理解していう水無月。



「先生?」

「そっ。SOX(ソード・クロス・オンライン)時代に、私に戦い方を教えてくれた人よ。イクルさんは。」

水無月の言葉に、驚きの表情を見せる裕司。



「水姉よりも強い?」

思わず、自分の素直な意見を水無月に聞いてしまう裕司。



「同じ戦闘職なら。間違いなく、私よりは強いはずよ。

USOでは、吟遊詩人(バード)だから何とも言えないけどね。

それを抜いても、単純な近接戦闘だけでなら強いわよ。先生は。

なにせ、今の戦闘でも、本気出していないからね。」




「おーい・・・。みぃちゃん。

余り、ハードルを上げないでくれないか・・・。

吟遊詩人(バード)なんだから、これでも結構本気モードなんだけど?」



「先生の言葉を信じる程に、私は人間が出来ていませんので。」

ジト目で、イクルを見返す水無月。


水無月の言葉を聞いて、アランが横で小さく笑い出す。


「そうそう。最初にネタ晴らしをしてくと。

俺の武器は、妖刀十六夜(ようとう いざよい)。

知っているとは思うけど。

全てのスキル攻撃を無効化できる代わりに、全ての戦闘用攻撃スキルを使用できなくなる。

こっちの剣は、固定ダメージ15のロングソードだ。」


★妖刀十六夜(ようとう いざよい):呪われた武器★
*相手のスキルに向かって振ると、全てのスキル効果(魔法含む)を相殺する事ができる。
*呪い効果で、全ての戦闘スキル(魔法含む)が発動で出来なく為る。





「生憎と、俺は戦闘スキルは取得していないのでね。」

そう言って、公開表示で自分の取得スキル項目を、大きめにして皆に見える様に
映し出すイクル。

「「「・・・・・・・・・」」」

3人が、映し出されたスキル表示を黙って見詰める。


うん・・・。

見事に、戦闘系スキルがない。



アランと、水無月が、あきれたような表情でイクルを見る。



「バレても、問題ないから見せてる。」



そう言って、裕司を見据えるイクル。




「それじゃ、始めようか。 裕司君。」




 * * * 視点移動 * * *



サクラは、目の前のプレイヤーと戦闘を行っていた。


最初は、3対3での戦闘だったのだが。


最後に残ったのは、目の前の男性プレイヤーとサクラだけだった。


目の前の男性プレイヤーのネームプレートに目をやると【ガイ】と表示されていた。



2人の距離は、少し離れた所で、お互いの顔を見ている。






「強いわねぇ。」

野太すぎる声で、サクラがガイを見て言う。



本来は女性のアバターなのだが、魔剣ティルフィングの呪いの効果で、サクラは男性のアバターに為っている。

なので、この喋り方が、サクラの本来の話し方なのだが。



「オカマ?」

サクラの言葉使いを聞いて、ガイが思わず口走ってしまう。



「魔剣ティルフィング。

呪われたカース武器ウェポンで。

その効果は、アバターの性別を強制的に変える呪い。」

呪われたカース武器ウェポンを使っているという事は。

呪いの代わりに、特殊な効果が有る武器って事か。」

「そうね。 流石にそれを言うほど、私もお人よしではないし。」

武器を構えて、野太すぎる声で、可愛らしく話すサクラ。

違和感が、半端なく在り在りだ。


「まぁ、聞いた所で、やる事に変わりは無い訳だし。」

そう言って、ガイが自分の持つ向日葵(ひまわり:グラフィック転化したケイオスハルバード)をクルリと回して構える。


「フィーアサーバー。

花騎士(フラワーナイト)所属。サクラ。」


「ツヴァイサーバー。

幽霊騎士団(ファントムナイツ)、ガイ。」


サクラが名乗ったので、ガイも名乗りを返す。


「推して参るっ!」

サクラが声を上げて、ガイに向かって突進する。


サクラが、魔剣ティルフィングで切り付けながら、盾でもガイの体制を崩そうと攻撃を繰り出す。



ガイは、サクラの剣戟を向日葵(斧槍部分)で受けて、受けた時の衝撃を利用して茎(くき:柄尻の部分)で盾の攻撃を弾き返す。



普通なら、ハルバードの様な長物の武器は、懐に入られると不利なイメージを受けるが。


それは、使う人の感性(センス)の問題だ。


斧槍部分を短めに持ち、柄尻の方を長めに出す事で、ハルバードと言う武器を変幻自在に使いこなしている。

その様は、まるで斧と棒とを持って戦っているかのように。




幾度となく、サクラの剣と、ガイのハルバードが激しく打ち合わされる。





「ふっ!」

サクラの剣の攻撃を柄で受け止め、力いっぱいサクラを押し返す。



ガイの力に押されて、サクラが体制を崩しかける。


咄嗟に、少し後ろに後退してしまうサクラ。


そこに、ガイが半歩後ろに下がりながら、身体を半回転させて斧槍の部分をサクラ目掛けて叩き込もうとする。


サクラは、ガイの攻撃をさらに後ろに下がって攻撃を回避しようとするが。


サクラが思ってた以上に、ハルバードが伸びてきて、ガイの攻撃を、まともに体に受けてしまう。


サクラの生命力(HP)ゲージが、一気に3割以上持っていかれる。



ハルバード等の、長物の武器の一番の怖さはココにある。


先程、ガイは。

身体を半回転させた時に、柄を握る握力を落として、柄の長さを調整して攻撃を繰り出したのだ。



下手をするとファンブル(武器すっぽ抜け)物だが、上級者同士の戦いでは、間合いと言う物を狂わされると、想像以上に対処に困る。


ガイは、そのままの距離で、ハルバードを振るい、サクラに攻撃を仕掛ける。


サクラも、黙っている訳ではない。


左手の盾で、ガイの攻撃を受けて、そのまま盾を滑らせながら、ガイの懐に入り込むと同時に、「パラス!」盾スキルを発動させる。


★パラス:盾スキル★
*盾ごと相手に体当たりして、相手にダメージを与える。
*よろめき効果:ノックバック効果あり。

サクラの盾スキルのパラスを食らい、ガイの体制が崩れて軽く後ろに下がってしまう。

盾当てバッシュ!」

サクラが更に盾スキルを発動。

盾で殴りつけ、相手を少しの間行動不能にする盾当てバッシュ

盾当てバッシュのモーションに入る為に、少し盾を後ろに引いた所で。

加速突きアクセル・プロット!」

今度は、ガイが刺突スキルの加速突きアクセル・プロットを発動。

刺突系で、技の出が最速の加速突きアクセル・プロット

サクラの盾当てバッシュは、ガイの加速突きアクセル・プロットで相殺されてしまう。


だが、サクラはお構いなしに、盾でガイを殴りつける。

もちろん、スキル効果など有る筈もないが、サクラの攻撃でガイの体制が崩れる。

そこに、魔剣ティルフィングでの攻撃がガイに襲い掛かる。

その時、一瞬。何かのエフェクトが、魔剣ティルフィングに走る。

ガイも、防御に回るが、少しの差で間に合わず、サクラの攻撃を受けてしまう。

ガイの予想を上回るダメージが入る。

サクラの通常攻撃で、ガイの生命力(HP)は4割近くも持ってかれたのだ。

いくらサクラの使う、防御力無視効果の特性を持つ魔剣ティルフィングでも、通常攻撃でここまで生命力(HP)を奪う事は出来ない。


今の攻撃、サクラはBBバースト・ブレイクを使用したのだ。

BBバースト・ブレイク):特殊アイテム効果★
*1回の攻撃につき、1個のBBバースト・ブレイク消費で、与ダメージ100%アップの効果。
*対人戦では50%アップの与ダメージ。


ガイも、サクラも、お互いに対人特化の装備を使用している。

攻撃力も、ほぼ互角。

PSプレイヤースキルも、ほぼ同等。

勝敗を握るのは、プレイヤーのリアルラック

お互いに、出し惜しみをしている場合ではない。

ガイも、BBバースト・ブレイクを使う。

向日葵(ケイオスハルバード)にエフェクトが走る。

ガイが、サクラを見て、にやりと笑みを浮かべる。

サクラも、ガイを見ながら笑みを浮かべる。

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