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魔王 VS 勇者

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 * * * 視点:勇者VS魔王 * * *


生来イクルが、他次元ゲルドの神と戦いだしてすぐに。

アキトも、魔王ゼアルと剣を交えていた。

他次元の神が、魔王ゼアルの身体から追い出されたとはいえ。

どうやら、魔王ゼアルの意識は、他次元の神に浸食されたままの状況らしい。

アレス、スタン、セリア、イライザ、ソニアの5人で結界を張っているのに、魔王ゼアルがアキトに襲い掛かったので。

慌てて、セリアが熾天使眼セラフィム・アイで魔王ゼアルを見たところ。

魔王ゼアルが、他次元世界の神からの支配が完全に消えていないとの事だった。

視点は定まっておらず。 しかし、剣筋は鈍っておらず。

他次元の神と比べて、剣速も動き自体も遅くなったと言え。

十分に、手強いと言えるレベルだった。


「少しづつ、魔王ゼアルを覆う黒いもやの様なのが薄れてるから。

もう、数分もすれば消えるはずよっ!」


《もっと正確な時間教えてよっ!》

っと、内心で思ってしまうが。

声に出して言う余裕などアキトにも無い。

ほんの数分前まで、他次元の神憑きドーピング状態の魔王ゼアルと戦っていたのだ。

2段階変身弱体変化されての連戦状態。

身体中が悲鳴を上げているのを実感している。

幾度となく、魔王ゼアルと剣戟を重なるアキト。

《ん?》

魔王ゼアル死闘を繰り広げていると。

アキトが微かに違和感を感じる。

《あれ??》

結界は、まだ効いていない。

他次元の神ドーピングの影響が切れれば、セリアが皆に知らせて結界を張り直すから。

《大分、薄れてきたけど。 まだ時間が掛かりそうだわ。》

セリアが、魔王ゼアルを見て、そう思った時だった。

アキトの神剣が魔王の胴体を薙ぎ払った。

「「えっ!?」」

アキトと、セリアの、間の抜けた声が。 見事に同じタイミングで吐き出された。

「「「・・・・・・・」」」

イライザ、ソニア、スタン、アレスの4人は。 一瞬、理解が追い付かずに沈黙。

「えぇ~~っと・・・倒せちゃった?」

アキトが後ろの5人を見ながら言う。

「結界。効いてなかったわよね?」

「うん」

セリアの言葉に、微妙な表情で返事を返すアキト。

「なんで?」

主語は無いが、なにを言いたいのかはアキトにも判る。

「えっと。 さっきより剣速が遅くなってきたから。 いけるかな?って思って・・・」

どうやら、要約すると。

他次元の神憑き魔王ゼアルと剣を交えていた事によって。

アキトが戦いの中で、他次元の神憑き魔王ドーピング状態ゼアルの剣速に慣れてしまい。

2段階変身(弱体化)した、魔王ゼアルの剣速に戸惑ったのも最初の内だけで。

他次元の神憑きの力が弱まっていくにつれて、魔王ゼアルの剣速を完全に見切れてしまったようだ。

床に倒れる魔王ゼアルの方を見ると。

魔王ゼアルの姿が、徐々にではあるが、男性から女性へと変身を始めていた。


 * * * * * * *


他次元の神ゲルドの攻撃を、受け止め受け流しながら、イクルも攻撃を繰り出す。

イクルの身体には、致命傷こそは避けているものの。 結構な数の傷は身体中に刻まれている。

さすがに、イクルも結界の維持をしながら、これ以上は無理だと思い。 奥の手を使う。

(ブースト。)

イクルが、思考の中で、そう唱えた瞬間。

イクルの存在値が上昇していく。

ギンっ! っと甲高い音を立てて、他次元の神の剣を、イクルのカタナが弾き返した。

その、イクルの様子を見て。 他次元の神ゲルドが、ニヤリと嬉しそうに笑みを浮かべる。


ブースト:シオンがイクルに回数制限付きで、存在値の底上げを出来るようにしたもの。

 所謂いわゆる、自己バフだとでも思ってくれればいい。


「ほほおぉ。 格を上げたのか?」

ニヤリと言う。表現が合いそうな顔で、イクルを見て口角を上げる他次元の神ゲルド。

「今更。正々堂々とか、卑怯だとか言うなよ。」

イクルも負けじと、ニヤリと口角を上げてゲルドを視線を向けて言う。


客観的に見て。 今の状況なら、イクルの方が優勢な存在値を持っている。

「言わないさ。」

そう言って、他次元の神ゲルドの存在値が上がる。

(ちっ。 隠し玉くらい持ってるよな・・・。)

元人間のイクルとは違い。 元から神格を持っている他次元の神ゲルド。

そこに、の力が加わっているのだ。


「卑怯とか言うなよ。」

ゲルドが、イクルを見て口角を上げながら言う。

「言いたいよ。」

その瞬間、ゲルドの姿が消えて。 ガインっと。右手に持つイクルの刀が、ゲルドの剣を受け止めていた。

目は離していなかった。

単に、ゲルドの動きが早すぎて、消えたように錯覚しただけだ。

上下左右から襲い来るゲルドの剣戟を、イクルはわずかに目で追える剣筋を半分以上感で受け止めきる。

ドンッ! っと音がして。凡そ、金属同士の音がぶつかり合う音とはかけ離れた音と共に、イクルとゲルドが立って居た床が瓦解する。

床が崩れて行く中で、2人の身体が宙に浮く。

だが、重力に反して。 2人の身体が下に落ちる事は無く。

イクルの囲った結界の中で、2人の身体は空中に浮かんでいた。


(ん~。どうすっかねぇ・・・。)

ゲルドと距離を取り。

睨み合う形で、空中で構える。

ゲルドの目的は。

イクルが追い詰められて。 結界を解き、自分と全力での闘いをさせる事。

そのため、今のゲルドは、ワザと手を抜いている。

その気になれば、イクルに深手を負わせる事も出来るのだろうが。

敢えて、手を抜きイクルを追い込もうとしている。

そして、それはイクルも理解していた。

結界を解けば、ゲルドと同等の存在値を出せるだろう。

しかし、結界を解くと。 アキト達が巻き込まれて死ぬ。

神人と為ったばかりとは言え。 イクルとて神人の本質を忘れている訳では無い。

神人の本質とは、を降す事であって。 その為には、何をも犠牲をいとわない。

しかし、神人に為ったばかりと言う事も在って。

今のイクルには、かなり人間寄りの精神状態に近い。

これが、アキト達との付き合い時間が短かったのなら。

神人の使命感が優先されて、アキト達を簡単に見捨ててもを降しにかかったのだろうが。

如何いかんせん。

アキト達と過ごした時間は、イクルの深層意識の中で捨てがたい物と為って居た。

を降す優先順位の意識の方が上なのだが。 アキト達も助けたい。

この矛盾した心境こそが、神であって神で無く。 人であって人で無い。 神人かみびとと言う存在なのだ。


その時。 イクルとゲルド。 そして、アキト達に声が聞こえた。
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