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アキト
しおりを挟む「生来さん・・・」
イクルの死を知って、アキトが呟くように言う。
「まだ本気を出さぬか。 もう1人2人、死なぬと本気を出せぬか。
回復役が邪魔だな。」
そう言って、ゼアルが再び左手をかざす。
そのゼアルの左手が、何の前触れも無く跳ね上がった。
アキトが、ゼアルの左腕を蹴り上げていた。
「ふっ。」
ゼアルは口角を上げると、嬉しそうにアキトを見る。
* * * * * * *
アキトの思考はクリアだった。
生来が死んで、もっと激情に駆られるのかと思ったが。
自分でもビックリするくらいに冷静だった。
アキトにとって、生来とは、年の離れたような兄の様な存在だった。
年が離れているにもかかわらず。
年上ぶらずに、自分の言葉をキチンと受け止めて真面目に返してくれる。仲の良い親友とも呼べるような存在だった。
そして、アキトが尊敬していた存在だった。
女性陣の中では、余りのアキトと生来の仲の良さに、アキト同姓愛説が出回るほどに。
《もっと、色々と話したかった。》
ゼアルに向かって、神剣を振り下ろす。
ゼアルはアキトの攻撃を受け止めて、切り返す太刀でアキトに攻撃をする。
《もっと、色んな事を教えて欲しかった。》
ゼアルの攻撃を受け流して、神剣で切り返す。
徐々に、アキトとゼアルの打ち合う速度が上がっていく。
キッ!キッ!キッ! っと。
アキトの神剣と、ゼアルの持つ剣の音だけが部屋の中に響く。
一合、二合、三合・・・・。十合。
剣と剣とが打ち合う音だけが。
最初こそは、アキトの攻撃を片手で受けていたゼアルだが。
徐々に上がっていくアキトの攻撃速度に、余裕がなくなって来たのか、いつの間にか両手でアキトの攻撃を受け止めていた。
「ようやく、本気を出してきたか。 だが、まだだ。 もっとだっ! もっと本気を出せっ!」
歓喜の声を上げながら、ゼアルが剣を振るう。
《守れなくて!ゴメンなさいっ!》
ついに、アキトの神剣が、ゼアルの肩を切りつけた。
肩口から、血を滴らせて、ゼアルが吠えた。
「もっとだ! もっと我を楽しませろ! ゆうしゃあぁぁぁああああああっ!」
* * * * * * *
『母様っ!』
『私も感じた。 死んだのだな。』
シノンと雪は、世界中を飛び回っていた。
理由は、三大陸の船団と魔人族との船団とを、分断して結界で閉じ込めていたからだ。
生来の、出来るだけ死者は出したくないと言う、甘い甘い理由の為に。
『うん。 でも、おかしいの。』
『何が?』
『彼との契約が切れていないの。』
契約は、契約者が死ぬと解除される。
それが解除されていない。
『相も変わらず、ビックリ箱人間ですね・・・。 色んな理を無視しまくっています。』
言葉とは裏腹に、シノンの表情は嬉しそうだった。
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