【完結済み】 50のオッサン 異世界に行く

眼鏡の似合う女性の眼鏡が好きなんです

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思惑

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魔王城は、城下町の中央に在るのではなく。

城下町から見て、最北端の位置に存在している。

既に、城下町の内外では。 三大陸の兵士達が騒ぎを起こして、魔人族たちの注意を城周辺から逸らしてくれている。

アキト達勇者パーティーは、その混乱に乗じて魔王城への道を突き進む。


「変ですね。」

スタンが呟くように言う。

「変?」

アキトが歩を進めながらも聞き返す。

「順調すぎます。」

「良い事だろう?」

スタンの言葉にアレンが返す。

そう。此処まで。 城の入り口まで。 抵抗らしい抵抗も。 敵との遭遇も、ほぼ無いと言って良いほどに何もなかった

「誘いこまれてる?」

スタンの言葉に、イライザが問う。

「へっ。 返って好都合じゃないか。 つまりは奴さん魔王も、アキトに会いたいって事じゃないのか?」

白虎ホワイトタイガーのトーマが言う。

「その可能性は高いですね。」

そして、アキト達は、魔王城の城門前に辿り着いた。


 * * * * * * *


「・・・ホントに釣れましたね。」

「予想以上に釣れたな。」

ウザソの言葉に、苦笑で返しながら眼下の様子見るイクル。

魔人族の大陸に、三大陸の戦力が向かっている頃。

人族の大陸では、人族同士での争いが起きていた。

そう。 大陸の王族や、統治者の戦力が少なくった時を待っていた。人族たちの謀反が。

謀反を起こしたのは、人族各国の有力貴族。

その数は、過半数以上の貴族たちを巻き込んでの反逆。

「魔人族に支配されれば、他の種族は根絶されるかも知れないのにっ。」

レクサス王国の公爵である。ウザソは、ホーデン王国の王城の門の上から眼下を見下ろして悔しそうな声をあげている。

「だからだろう。 本当に、魔王が魔人族以外の人種を根絶やしにしようとは思っていないんだろう。」

ウザソは、この数日で変わった。

元から大公としての教養や素養も有ったし。 人望もそれなりに在った。

ただ、大公と言う立場に溺れていただけで。

イクルと出逢って数日で。 それこそ、人として変わったと言える。

人は、何かを起点に。 変われる人は、変わる事が出来る。

時間を掛けて、ゆっくりと変わる人も居れば。

ウザソの様に、急激に変わる事も。

「こんなんじゃ、勇者様が救われませんよ。」

「何か。勘違いしてそうだから言ってやるが。

アキト達は、自分の為に動いているだけで。

世界を救うとか言うのは、ついでに過ぎないからな。」

「はっ?」

ウザソが、間抜けそうな表情でイクルを見る。

「人間ってのはさ。 基本的に利己的なんだよ。」

そう。誰かに何かして嬉しいと思うのも。

全部。自分がしたいからやっているんだ。

「極論で言うと。 自己満足だ。」

誰かを救って良い気分に為る。

誰かに優しくして優越感に浸る。

誰かに何かして満足する。

そう、全ては自己満足。

何かをされた人が、本当に感謝してるのなんて。 当の本人にしか分からない。

小さな親切。余計なお世話。 なんてことわざもあるくらいだ。

「だけどな。 大半の人は。 自分にされて嬉しいと思えることは。

他人にしても、嬉しいと思えるんだよ。 俺は。」

そう、だから。 俺の子供たちには、自分の嫌な事は他人に出来るだけしない様に言っている。

するなとは言えない。 俺も知らずに他人を傷つける時があるからだ。

「だからさ。 アキト達は、自分の守りたい物を守るために魔王に戦いを挑んでいる。」

アキトは、ソニアの事が好きだ。

ソニアも、アキトの事が好きだ。

だからアキトは、魔王を倒し、世界を救うと言う事で、姫であるソニアと釣り合おうと行動している。と、俺は思う。

よこしま

正論だけ言って、周囲を巻き込むだけ巻き込んで、何も解決しない勇者より遥かにマシでしょう。

だから、俺もガラにもなく、こんな事をしているのだろう。

何人無事に帰ってこれるのかは知らないが。

帰って来た奴が、安心して暮らせるようにと。

人族の【うみ】出し。

魔人族側に寝返ってでも、自分たちの保身に走る者たち。

世界が変わろうとしているのに、世界が変わる事で自分たちの権威と権力が無くなるのが手放せない者たち。

こう言う奴らをあぶり出す為に。

魔人族討伐の名目で、騎士たちの9割が討伐隊に出放ったと情報を流した。

まぁ、実際に加わっている騎士たちの総数は、全体の6割ほどだ。

何せ、船団員は囮。

魔人族の大陸部で暴れているのも囮。

本命は、精鋭中の精鋭のアキト達のパーティー。

そして、噂に釣られて出てきたのが。目の前に居る連中。

が。 まさか、ここまでアホウが多いとは・・・。

「主犯格の成人男性及び女性は、全員処刑。

年端のいかない子供は保護をしても良いが。貴族扱いでなく、孤児として平民扱いで生きる事を。」

「投降して来る者は?」

「一族郎党、平民扱いで。 不服なら死ねと言っておけ。」

それだけ言うと、イクルはきびすを返して、その場から離れていく。

そのイクルの背中を見ながら、ウザソが頭を下げる。



 * * * * * * *


ウザソと別れて、廊下を歩いていると。

反対側から人影が近づいて来る。

「本当に良いのか?」

ホーデン王国国王。 エンスト王。

「本当に、王族の名前を出す気は無いのだな?」

「有りません。」

「頑固者め。」

「魔人族との戦争が終わった後に。

バラバラになった人族の国や、他の種族たちを纏める人が必要です。

その時に、王族や各国代表者の力が必要に為ります。

そんな時に、今回の事で棘が立つのは宜しくない。

だから、俺が汚名を被る。

そう、言いましたよね。」

「理屈では理解していても、気持ちの問題だ。」

「なら、気持ちは心の奥底にでも沈めておいてください。

必要なのは理屈で動く事なのですから。」

「すまんな。」

「どう致しまして。」

そう言って、その場を離れようとすると。

「これを持って行け。」

エンスト王が、イクルに向かって紙包みを差し出す。

「胃薬だ。 後で飲んで置け。」

「配慮、感謝します。」

「普通に言え。」

「有り難う御座います。」

エンスト王に向かって頭を下げて、足早に去っていくイクル。
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