上 下
34 / 73

三大陸合同会談:2

しおりを挟む
 * * * * * * *


第四回 三大陸合同会談


魔王の世代交代が行われて、僅か三か月後。 突如、魔人族が各大陸に侵攻し始めた。

これには、各大陸の王家も自治領も慌てふためいた。

普通、戦争と言うものは。

兵士たちの兵糧や、武器などの資材。

それに、それらを動かす金が必要に為る。

だから、普通に考えると。 半年から1年は準備期間が必要に為る。

また、その準備期間で。 動きが分かるので対策は可能なのだが。

今回は、対策をする前に攻め込まれてしまい。

各大陸で被害が相次いでいる。

亜人族、獣人族の2つの部族は、割と早くに纏まりを見せたが。

逆に、一番まとまり無いのが。

そう、言わずもがな。 人族だ。


侵攻開始、僅か6ヶ月で。 亜人族、獣人族、各領地の5分の1を。

人族の大陸に至っては、3分の1を魔人族に取られていると言うのに。

自分の領地に被害は出ていないからと、派兵と支援物資を渋る、バルト共和国とスラブ帝国。

現在進行形で、領地に被害を出しながら魔人族と交戦中のレクサス王国。

今の所、戦火に全く影響を受けていないのは、人族の大陸中央の大部分を占めるホーデン王国と。

ホーデン王国の東に位置する、スミニ王国。

スミニ王国と言っても。 その面積は、ホーデン王国の6分の1の面積で、ホーデン王国とは何十世代も前から同盟関係を結んでおり。

現在のスミニ王国の統治者である、スミニ王はホーデン王の弟。

なんでも、スミニ王女に一目惚れして、スミニに婿養子として行き。 スミニ王に気に入られて、そのまま王になったとか。

ホーデン王の隣に座っているのが、現在のスミニ王でホーデン王の弟のスカトロ陛下。


そして、アキト。 そろそろヤバイな。 顔が真っ赤になってきている。

まぁ、この状況下でも、如何にして自分の国の損害を押さえて、相手国に対して有利に立とうとする人族の代表者たちを見てればね。

正直、俺も胸糞が悪い。

執政者としては、正しい姿勢なのかも知れないけど。

この人たち、すごく大事な事を勘違いしている。

「いいかげん」

ガンガンガン!

アキトが切れそうになったので、お玉と鍋を叩き合わせる。

当然、皆の視線はアキトではなくて、俺に注目される。

「さっきから、気にはなっていたが。誰なのかね君はっ!?」

レクサス王国の代表者。 カローラ宰相。

「陛下。発言の許可をいただいても。」

「許可する。続けよ。」

右手を胸に当てながら頭を軽く下げ、ホーデン王に許可を貰い言葉を続ける。

わたくし 勇者アキトの同郷・・の者で、アキト達の保護者をしております。

イクル・タカナシと言うものです。」

アキトと俺。 交互に視線が集まるが、アキトは黙ったままだ。

「まずは、皆さま。 お茶にいたしましょう。 美味しい物を飲んで口にすれば。 違う言葉が見つかると思いますので。」

そう言って、パンパンと2度、手を打ち鳴らす。

ワゴンテーブルの載せられた、ポットに入れたお茶と、茶菓子が持ち込まれて、代表者たちの前に並べられた。

「毒などは入っておりませんので、ご安心ください。」

そう言って、ホーデン王の椀を手に取り口に運んで飲み込む。

冷たい お茶が喉を潤してくれて気持ちいい。

そして、ホーデン王の前に椀を戻す。

ルカさんが、椀に お茶を注ぎ直す。

そして、ホーデン王は、俺が口に付けた椀を気にする様子を見せずに口に運んで飲み干した。

この行動に、獣人族以外の代表者たちから驚きの声が上がる。

「見ての通りに、陛下とは懇意の仲でして。 公儀の場以外では、良く陛下の愚痴に付き合わされております。」

そう言って、肩を窄める。

「ささ。 まずは、お茶で喉を潤してください。」

「おっ!うまいなコレ!」

言い終わるか終わらないかのタイミングで、獣人族 西部都市の代表。 白虎のホワイトタイガートーマが菓子を食べながら言う。

「あら。ホント美味しいわね。 甘すぎないし、かといって物足りない甘さでも無いわ。 それに、ヒンヤリして不思議な感じだわ。」

エルフ族と、グラスランナー族の代表。 エルフのサライ。

「見た目が煎餅せんべいなのに、柔らかいのう。 それに、甘い癖に酸味が効いておる。 これなら甘いものが苦手な儂でも食べれるわい。」

獣人族 東部都市代表、黒山羊のブラックゴートガイラン。

「酒の摘みにはならんが。 たしかに美味いわ。」

ドワーフ族と、ノーム族の代表。 ドワーフのグリコ。

「あこれ!僕たちが集めた蜜を使ってるっ!」

フェアリー族と、ホビット族の代表。フェアリーのナナイ。

「新作か?」

これは、ホーデン王。

「はい。 塩煎餅であんを挟み。餡の中に柑橘系のゼリーを入れております。

煎餅とゼリーは、保冷庫の中で3時間ほど冷やしております。

固い煎餅を、敢えて湿気を含ます事で、また違った食感を楽しんでいただけます。」

他国の重鎮達が、口に含んでいって安心したのか。

人族の代表者たちも、お茶に菓子を口に運んでいく。


「お喜び戴き光栄です。 さて、落ちつたいた所で陛下。」

「続けろ。」

「は。陛下の許可も頂いたので。 ますは、こちらの資料を。」

俺の言葉と共に、メイドさん達が紙を配っていく。

紙には。

156822/1256

 18639/210

239786/3468

 2658/468

126489/2363

  520/48

  328/0

  138/0

  437/12  ・・・・・・・・・・。

この他にも、かなりの数字が表記されている。



「さて。 この数字が、何の数字か分からない・・・・・事として、敢えてお尋ねしますが。

この数字は、何の数字だと思われますか?」

当然、誰からの声も上がってこない。


「まず左側の数字ですが。 これは、魔人族侵攻によって滅ぼされた町と村。

そして、人族の大陸で最初に侵攻を受けて滅んだニセカンダル連合国の住人の数です。

先に言って置きますが。 この数字は、住民登録されていて分かっている数字で在って。 未登録者の数までは含まれておりません。

そして、右側の数字ですが。

右側の数字は・・・・。 生存者の数です。

なお、この生存者の数字は、一般市民達だけの数字で。 かつ、市民登録されていた者の数字なので、多少の誤差はあると思いますので御了承を。

戦いで散っていった兵士としての者たちも入れると、相当数の死者を出しているのが御理解を頂けると思います。」

部屋の中で、ザワザワと声が流れる。


「市民たちは抵抗したのか?」

質問したのは、レクサス王国のカローラ宰相。


「いいえ。 隠密たちの話では。 抵抗どころか、逃げ惑う人々を襲っていたそうです。」

「なぜ助けなかったのですか!」

バルト共和国外務大臣アンナ・ヴィッチ。

「奇な事をおっしゃいますね。アンナ外務大臣殿。

たった、数人の隠密に、どうしろと?」

「っ。」

「彼らとて、救いたいと思う気持ちはあったでしょう。 同じ人族・・なのですから。

しかし、彼らが生きて帰って来たからこそ。 この情報が私たちの手元にあるのです。

この情報を持ち帰るために、20人送った密偵の6人は死亡、4人は捕まって生存不明に。 そこは御考慮いただきたい。」

「感情で口を挟んだ事を謝罪します。」

頭を軽く下げるアンナ。

「そちらの隠密の練度が足りなかっただけでは無いのか。」

厭味ったらしく言ったのは。

スラブ帝国外務大臣次官。 アブノ・マール。

「そうですね。 スラブ帝国の密偵に比べると、練度が足りなかったのかも知れません。」

そう言って、ルカにアイコンタクトを流すと。 ルカがアブノ外務大臣次官の前に1枚の用紙を差し出した。

差し出された用紙に目を通して、アブノ外務大臣次官が俺を睨みつける。

「何を驚きになっているのでしょうか? そちらの密偵の名前を書いているだけですよ。

当然。 そちらも、こちらが送り込んでいる密偵の数と名前くらいは押さえておられるのでしょう。」

「ふん!、当たり前だっ!」

「それは何より。 うちも、最低でも20人は各国に送り込んでいますので。」

この言葉に、人族の代表者たちの表情が一気に険しくなる。

どこの国でも種族でも。 密偵と言うのは放っている。

それでも、人族代表たちが驚いているのは、自分たちが把握していた人数よりも多いと言う事だったのだろう。

「いやぁ、練度が低いので。 もっと見つかっているのかと思ってましたよ。 いやいや、安心しました。

練度が低くても、結構やっていけるものなのですね。 はははっ。」

最後は、アブノ外務大臣次官の方を見て、思いっきり小馬鹿にしたように笑ってやったよ。

お~お~。 顔を真っ赤にしちゃって。 外務大臣次官の癖にポーカーフェイスも出来ないのかね。




この後、獣人族、亜人族と続けて、魔人族の侵攻で被害を表記した用紙を配る。

そこにも、同じように住んでいた住人のおおよその人口と、侵攻後に生き残った人数を表記していた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠
ファンタジー
ひょんなことから異世界を訪れた兄妹。 そんな兄妹を、数々の難題が襲う。 旅の中で増えていく仲間達。 戦い続ける兄妹は、世界を、仲間を守る事が出来るのか。 天才だけど何処か抜けてる、兄が大好きな妹ペスカ。 「お兄ちゃんを傷つけるやつは、私が絶対許さない!」 妹が大好きで、超過保護な兄冬也。 「兄ちゃんに任せろ。お前は絶対に俺が守るからな!」 どんなトラブルも、兄妹の力で乗り越えていく! 兄妹の愛溢れる冒険記がはじまる。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜

墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。 主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。 異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……? 召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。 明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

聖女として召還されたのにフェンリルをテイムしたら追放されましたー腹いせに快適すぎる森に引きこもって我慢していた事色々好き放題してやります!

ふぃえま
ファンタジー
「勝手に呼び出して無茶振りしたくせに自分達に都合の悪い聖獣がでたら責任追及とか狡すぎません? せめて裏で良いから謝罪の一言くらいあるはずですよね?」 不況の中、なんとか内定をもぎ取った会社にやっと慣れたと思ったら異世界召還されて勝手に聖女にされました、佐藤です。いや、元佐藤か。 実は今日、なんか国を守る聖獣を召還せよって言われたからやったらフェンリルが出ました。 あんまりこういうの詳しくないけど確か超強いやつですよね? なのに周りの反応は正反対! なんかめっちゃ裏切り者とか怒鳴られてロープグルグル巻きにされました。 勝手にこっちに連れて来たりただでさえ難しい聖獣召喚にケチつけたり……なんかもうこの人たち助けなくてもバチ当たりませんよね?

迷宮に捨てられた俺、魔導ガチャを駆使して世界最強の大賢者へと至る〜

サイダーボウイ
ファンタジー
アスター王国ハワード伯爵家の次男ルイス・ハワードは、10歳の【魔力固定の儀】において魔法適性ゼロを言い渡され、実家を追放されてしまう。 父親の命令により、生還率が恐ろしく低い迷宮へと廃棄されたルイスは、そこで魔獣に襲われて絶体絶命のピンチに陥る。 そんなルイスの危機を救ってくれたのが、400年の時を生きる魔女エメラルドであった。 彼女が操るのは、ルイスがこれまでに目にしたことのない未発見の魔法。 その煌めく魔法の数々を目撃したルイスは、深い感動を覚える。 「今の自分が悔しいなら、生まれ変わるしかないよ」 そう告げるエメラルドのもとで、ルイスは努力によって人生を劇的に変化させていくことになる。 これは、未発見魔法の列挙に挑んだ少年が、仲間たちとの出会いを通じて成長し、やがて世界の命運を動かす最強の大賢者へと至る物語である。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

処理中です...