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と、ある男の その後:2

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それから半年。 見習いとして高橋さんの工場で働く。

俺の教育係として、矢野 源一さん68歳が指導してくれた。

源一さんこと、源さんは。 昔の怪我と高齢も相まって、現場仕事は出れなくなったけど。

高橋さんが会社を設立した頃から、一緒に頑張ってきた人で、今は倉庫の管理者として置いて貰っているとの事。


源さんに、半年間みっちりと教え込まれて、溶接の基礎と配管の仕方を教えて貰った。


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1年後。

初めて、俺は現場を任せられた。

頑張ったが、予定よりも一月ひとつき近くも遅れが出てしまった。

申し訳なさで、頭を下げたら。

高橋さんと、源さんの予想では、二月ふたつきは遅れるだろうと予想していて、最初から余分に工期を取っていたらしい。

こっちとしては、会社に損害を出したと思って心配してたのに。

ちょこっとカチンと来たので、何か欲しい物は無いかと聞かれたので、意趣返しのつもりで、家が欲しいです。っと言ったら。

「家は無理だが。 たしか、旧倉庫跡の更地があったな。 土地を安く売ってやるから、そこに家を建てるか?」

と、言われてしまった・・・・。


結局、坪3000円と言う安価で売ってもらい、家を建てることに。

家のローンに、元からの借金。

子供の養育費に、生活費。

もっと稼がないと。


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年明けに、翔子さんが2人目を身ごもる。

もっと稼ぐために、長期出張に。

出張先は、北海道の泊村にある原子力発電所の4号炉新造。

最初は、年末までの6カ月の出張予定。

四ヶ月経った。

そろそろ2人目の出産時期だ。

翔子さんに電話して、一度戻ると伝えると。

「産むのは私。 あんたが戻ってきても、どうしようもないんだから。 ちゃんと働きなさい。」

と言われてしまった。

女性は子供を産むと強くなると言うけれど・・・。 強くなり過ぎじゃない?

そして年末。

年明け10日までは休みだ。

最後の最後まで、仕事の調整書類の整理をしていたら、大晦日おおみそかの31日。

飛行機の切符は予約しているので心配はない。

と、思っていたら・・・。

海も空も大荒れ模様で、海空共に出港停止。

結局、5日まで切符が取れずに、その年の帰省は断念。

翌年は、この地方には珍しく、豪雪で湾岸線も山道も通行不可能に為って、これまた帰省を断念。

三年目に帰省した時には、次男の孝也たかやを抱っこしたらギャン泣きされた。

翔子さんの後ろに隠れて、俺を誰だって?顔で見て、抱っこしたらギャン泣きするんだよ! そりゃ、ヘコむっての。

その事を、社長(高橋さん)に爆笑されて。

嫌がらせで、社長(高橋さん)に、中身が白紙の辞表を出しに行ったくらいだ。

結局、北海道には4年半の滞在。

その後も、沖縄と九州を除く地方を網羅した。
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武彦たけひこ父さんと、菜々美ななみ母さんが行方不明になった。

警察の話では、車で走行中に、車線を越えてきた対向車を避けようとして海に車ごと転落したらしい。

死体が見つかっていないので、行方不明扱い。

義信よしのぶ兄さんには、希望は持たない方が良いと言われた。

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翌年の出張中に、高橋の親父さんが死んだ。

死因は脳卒中のうそうちゅう

会社は、てんやわんやの大混乱。

高橋さんの息子の孝史郎こうしろうが後を継ぐも、経営状況はかんばしくない。

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2010年。 福島県に子会社を作る。

家のローンは払い終わったし。 経営が軌道に乗ったら、みんなを、こっちに呼ぼうと思う。

息子たちが卒業するまでは、翔子さんも来ないだろうけど。

高校卒業すれば、後は息子たちの人生だ。好きにさせるさ。

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2011年。

ようやく機材も資材も揃って運転開始。と思った矢先。


2011年 3月11日

そう、東日本大震災。


あの日は、たまたま愛知の本社に呼び出されて、再び北海道出張での短期工期の打ち合わせに向かっていた。

その、お陰と言うべきか。

津波が来た時に、俺は福島から離れていたので、命は助かった。

仕事仲間の幾人かは、波に攫われて行方不明に。

俺は、命は拾ったが。

せっかく作った会社は全壊。 店開きに入ると同時に潰れてしまった。

残ったのは、借金だけ。 いや、命もか・・・。


何とか家族を説得して、愛知県の土地を売って借金の返済に。

地方開発の為に、地価は上がってたので助かったと言うのが本音だ。

翔子さんとも離婚をする事に決めた。

もっとも、翔子さんが、なかなか承諾してくれなくて、離婚成立まで3年かかってしまったけど。

正直、心が折れた。

虐められた小中学時代。

やっと解放され、奥さんと息子を持った。

武彦たけひこ父さんと菜々美ななみ母さんの死。

途方に暮れた所を救ってくれた高橋さんの死。

作った会社は潰れる。

奈落から必死に這い上がって、また奈落に叩き落された気分だ。

これで、折れるなと言う方が無理だろ。

壊れなかったのは、家族が居たからだと言える。

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俺は、レイラさんに、幼少時代からの事を、本当に掻い摘んで話した。

中には、こっちの言葉に合わせるのが難しい言葉も有ったので多少は苦労したけど。

「中々に、面白い人生だな。」

苦笑しながら言うレイラさん。

「まあね。 世界で1番不幸だとは思ってないけど。 それなりの、不幸自慢なら負けないと思うぞ?

で、セリア。 何で隠れてる?」

俺の言葉に、テントの入り口からセリアが中に入って来る。

「レイラに呼ばれたのよ。 貴方の様子が変だから来いって。」

セリアの言葉に、レイラさんを見る。

「なに。 好きな男性がうなされていたんだ。 私だけ抜け駆けするのは悪いだろう? 本当なら、ファルナも呼んでやりたいくらいだ。」

そう言って、ニカっと笑顔を見せるレイラさん。

「いや、流石にファルナさんを呼んじゃマズいからね?」

呼んでないよな? そう思って、テントの入り口に視線をやる。

「安心しろ。さすがに呼んでないし。 ここまでは来れないだろう。」

まぁ、確かに。 今頃は、城で朝飯の仕込みをしている頃だろう。

「さってっと。 こっちも朝食の準備をしますか。」

「手伝うぞ。」

「私も。」

レイラさんと、セリアが手伝ってくれるらしい。

「んじゃ、ついでに。アキト達を呼んでやれ。」

「もう呼んでるわよ。 そろそろ着く頃よ。」

準備の良いこって。

2人を連れて、テントから出て朝食の準備を3人でする。
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