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と、ある男の少年期:4

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退院して、家に戻ると。

またもや、母さんの小言と、父さんからの制裁を受けた。

妹を危ない事に巻き込んだからだという理由で。


「お父さん!お兄ちゃんは私を助けてくれたのよ! なんで怒られないといけないのっ!」

「元をただせば、バカが下らん友達と付き合っているからだっ! 良いか瞳。 瞳は友達を選んで作るんだぞ。」

「お母さん!」

「お父さんの言う通りよ。 瞳を危ない目に合わせたのは聖人まさとなの。」

父さんに引きずられながら、離れに在る物置の前で俺を見て、妹が必死に両親に訴える。

「瞳を巻き込んで、すいませんでした。 瞳。ごめんな。」

瞳に向かって頭を深く下げる。

「お兄ちゃん・・・」

泣きそうな顔の瞳。

「上辺だけの謝罪などするなっ!」

そう言って、俺の顔面を殴りつける父さん。

「あぐっ!」

退院したばかりで怪我も治りきっていない状態で殴られて、膝から地面に崩れるように手を付く俺。

「お兄ちゃんっ!」

瞳が側に着て、俺の身体を優しく抱き込むように。

「瞳。ごめんな・・・。」

倒れた態勢で、両手を地面に着けて、頭を深く下げる。

脚の靱帯が切れているので、土下座にはなれないけれど。

「なんで・・・おにいちゃん・・・」

泣き出す妹。

両親が妹を立たせて俺から引き離す。

俺は、黙ったまま松葉杖を支えに立ち上がって物置の中に入って行く。

扉が閉まって、外からカギがかけられる音が聞こえた。

「・・・・・理不尽過ぎだろう・・・。」

自然と涙が出てきた。

「・・・く・・・く・・・」

狭い物置の中で、壁に背を預けて左足を伸ばした姿勢でうずくまり声を殺して泣く。


もし、身体測定の時に、あの校医の先生じゃなかったら。

カビなんて仇名を付けられていなかったら。

もうちょっと、マシなんだったんだろうかなぁ~。

「爺ちゃん・・・婆ちゃん・・・。」

優しかった祖父母の顔を思い出す。

5歳まで、俺の面倒見てくれた祖父母。

俺は、武彦たけひこ叔父さんに連れられて。 妹は両親と一緒に何度か田舎にも帰った。

田舎では、父さんも、余り俺の事は殴らないでいたので、祖父母の目には良い父に見えていただろう。

正直、外面そとづらだけは取り繕って良い両親だった。


武彦たけひこ叔父さん・・・・・。 俺・・・もうヤバイかも・・・・」

涙が止まる事なく出てくる。

「たすけてよ・・・・。 もうやだよぉ・・・・いやだよぉ・・・・・」


どれくらいの時間を泣いたのだろうか。

泣き疲れて寝ていた。

もぞりと身体を動かすと。 右足に何かが当たる感触が。

暗い中、足に当たった何かを手探りで手繰たぐり寄せる。

物置の中は、お仕置きとして何度も入れられているので、中に何が置かれているのかはある程度は把握していた。

右脚に当たったソレは、俺の記憶には無い物だったから。


「懐中電灯?」

手繰り寄せて、手に取ってみて分かった。

懐中電灯を点けて、物置の中を見渡す。

「?」

背中を預けている壁の横に置いてあるダンボール箱。

こんなのあったっけ?

と思い、箱を開ける。

中には、水筒が2つに、パンが4つ。 それと封筒が入っていた。

封を開けて中を見る。

【これだけしか隠せなくてゴメンね。 お兄ちゃん、ありがとう。】

と、書かれていた。

両親の目を盗んで、物置の中に隠すだけでも大変だったろうに。

少ない自分の小遣いでパンを買ってくれたのか。

・・・ずっ・・・・ずっ・・・。

涙と鼻水を啜りながら、水筒を開けて中の水を飲む。

封を開けてパンを齧る。


「・・・・りがとう・・・・ありがとう・・・・・」

聞こえるはずのない感謝の言葉を、妹の顔を思いながら飢えを凌いだ。


___________


「暑い・・・・」

妹のお陰で、多少の飢えと渇きは凌げた。

勿論、食いカスは、水筒といっしょに、ダンボール箱の中にしまって元の位置に戻してある。

もし見つかったら、ひとみが怒られる。


今は、9月の半ば過ぎ。

残暑が残る暑さの中で、物置の中はサウナ状態に為って居る。

最後に水を飲んでから、どのくらいの時間が過ぎたのか。

暗い中で、天井の隙間から光が見えるので日中だとは思う。

全身は汗でびっしょり。


さらに時間が過ぎて、すでに汗も出なくなってきて、口の中の唾液も出なくなってきている。

唇はカサカサになり、視点も合わせにくくなってきた。

唇を舐めるが、既に唾液も出ない状態になって来ているので潤わない。

声を出すのもしんどい。

そのうちに、だんだんと眠くなってきた。

壁にもたれたまま、瞼を閉じた。
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