上 下
32 / 50

30話 貴族様が来ました

しおりを挟む
トントン。

ドアノッカーを叩く音がする。

「はい。」

アベルが、少しドアを開いて外を見る。

「突然の訪問失礼。

こちら、錬金術師殿の滞在する家と聞いてきたのだが。

合っているか?」

「合っています。お待ちを。」

ドアを閉めて、ドアチェーンを外してドアを開ききる。

「中へどうぞ。」

「失礼するよ。」

ソファーに座る、ルナとエリスを見て、軽くお辞儀をする男性。

2人も、男性に御辞儀を返す。

「お茶を持ってきますので。座って寛いでてください。」

男性を促し、アベルは台所に向かう。

男性は、ソファーの前で2人に視線を向けて。

「初めまして。お嬢さんがた。 私は、エギンと言います。」

「ルナです。」

「エリスです。」

そこにアベルが、お茶をカップに入れてエギンの前に置く。

そして、エギンの対面の席に腰を下ろす。

「今日は、突然の来訪の無礼を許し願いたい。」

そう言って、エギンはテーブルに置かれたカップを手に取り中身を口にれる。

その様子を見て、アベルが額に手を当てたまま首を垂れる。

「アベル?」

ルナが、アベルに声を掛ける。

「辺境伯様。出された茶を、口するなど不用心が過ぎませんか?」

「「!!?」」

アベルの言葉に、ルナと、エリスが驚く。

「おや? 一応、偽名を名乗ったはずだが?」

「英華の剣に所属の時に。1度だけですが、ご尊顔を拝見したことが御座います。」

「はっはははは! こりゃ参った。」

「それで、護衛も付けず。こんな所に何用ですか?」

「あ~。良い良い。今日は忍びで来ている。敬語は無しだ。

改めて、シグルート領、辺境伯のレイジだ。

なに、最近自領で噂になっている、錬金術師殿の顔を拝見したくてな。

激務を、前倒しで終わらせて来たと言う訳だ。

茶を口にしたのは、毒が入っていないのは判っていたからだ。

それで。どちらの女性が、錬金術師殿なのかな?」

「2人ともです。」

「2人とも、錬金術を使うのか?」

「はい。私も、エリスも、錬金術師アルケミストです。」

「ええ。使う術式は異なりますが。」

「ほう。 使う術式の違いは?」

「私は、錬金釜を使用しての錬金で。」

「私は、錬金陣を使用しての錬金です。」

「出来上がった物の性能の差に影響は?」

「付与効果に、多少の違いは出ますが。

出来上がった物に対しての劣悪の差は御座いません。」

「着く付与効果に関しては。素材での選別時で決定されるので。

素材固定の、付与効果以外の、付与に関しては、運任せになりますね。」

「ほう……。」

「それで?本題は?」

「ん? 本題?」

「「「えっ?」」」

「何を驚いている?」

「いや、お貴族様だから、てっきり無理難題を……。っと失礼。」

「お前、本当に失礼な奴だな。と言いたいが。

辺境伯なんぞしてると、礼節よりも、自領にとって、使えるか・・・・使えないか・・・・・の方が問題なんだよ。

実質。シグルートの周辺は、魔物モンスターの徘徊率が高い上に。

他の街と比べても、ダンジョンや危険地域の類も多い。

そんな場所で、貴族だからって、ふんぞり返っていてみろ。

速攻で、他の領地の貴族たちに良いように使われるってもんだ。

そこに来て、僅かに8か月で、商業大陸組合プラントライセンスを10等級から、4等級に上げたライセンス資格者が居ると聞いたら。

合わない訳には、いかんだろうに。」

レイジが言った言葉に、思わずルナに目線を向けてしまうアベル。

「おっ。そっちの嬢ちゃんか。 ルナだったな。」

「は、はい……。」

「そんなに、緊張するなってのも無理だよな。

何も、取って食おうって訳じゃない。

むしろ逆だ。」

「逆ですか?」

「そうだ。 お前たちを【囲いたい】。」

「囲うですか?」

「そうだ。 簡単に言うと。俺を。後ろ盾に着けろって話だ。」

「それは、辺境伯様の御用達に為れと?」

「本当は、それが一番いいんだがな。

此処に来る前に大陸商業組合プラントに寄って、お前たちの稼ぎをおおよそだが把握はしてる。

市民権を買っても、お釣りがくる稼ぎだってのはな。

なのに、市民権を買おうとはしない。

つまりは、フリーで居たい。もしくは、何か在った時に、いつでもシグルートの街から離れられる状況にしておきたい。

違うか?」

「……。その通りです。」

「そこで、俺の出番だ。

お前たちの言う厄介事。つまりは、俺たち貴族の事だ。」

降参。と言わんばかりに、アベルが両手の手の平を上に向けて上げる

「俺の爵位は、知っての通り辺境伯だ。

爵位の順位で言えば、王族を除けば上から4番目だ。

俺より上ってのは、大公。公爵。侯爵。

この3爵位と王族だな。

でだ。俺の後ろ盾が無い場合。

お前たちは、間違いなく、貴族間の揉め事に巻き込まれる。

確実に。」

「何で言い切れるんですか?」

ルナが訊ねる。

「有用だからだ。

自覚が無いようだから教えて置いてやる。

お前さん方が扱う錬金術。

それな、古代の秘法とまで言われてんだよ。」

「古代の秘法? 確かに、錬金の使い手は珍しいと思いますが。

そこまで珍しい物では……。」

言いかけて言葉を止めるアベル。

「気が付いたようだな。」

「ええ。2人が作った武器ですね。」

「大当たりだ。」

「でも、アレは誰にも言わないと約束して。」

「そう!誰にも言ってない! それは保証できる。」

「ならなんで?」

「忘れてないか? 職業ジョブスキルの事を。」

「……!」

大きく目を見開いて、レイジを見るアベル。

「そうだ、鑑定の職業ジョブスキルだ。

偶然、鑑定持ちの職業ジョブが居て。

偶然、あの武器を鑑定したんだ。

本当に、気まぐれで。 いい武器使っているなぁ~。くらいの感覚で鑑定をした。

が。 それが不味かった。

なんせ、付いてる付与効果が5つだ。

もはや、国宝級と比べても遜色のない出来だ。」

そこまで言って、残りの茶を一気に飲み干すレイジ。


 * * * *

本日は、もう一本。

21時に公表予定です。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

妹を見捨てた私 ~魅了の力を持っていた可愛い妹は愛されていたのでしょうか?~

紗綺
ファンタジー
何故妹ばかり愛されるの? その答えは私の10歳の誕生日に判明した。 誕生日パーティで私の婚約者候補の一人が妹に魅了されてしまったことでわかった妹の能力。 『魅了の力』 無自覚のその力で周囲の人間を魅了していた。 お父様お母様が妹を溺愛していたのも魅了の力に一因があったと。 魅了の力を制御できない妹は魔法省の管理下に置かれることが決まり、私は祖母の実家に引き取られることになった。 新しい家族はとても優しく、私は妹と比べられることのない穏やかな日々を得ていた。 ―――妹のことを忘れて。 私が嫁いだ頃、妹の噂が流れてきた。 魅了の力を制御できるようになり、制限つきだが自由を得た。 しかし実家は没落し、頼る者もなく娼婦になったと。 なぜこれまであの子へ連絡ひとつしなかったのかと、後悔と罪悪感が私を襲う。 それでもこの安寧を捨てられない私はただ祈るしかできない。 どうかあの子が救われますようにと。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

追放したんでしょ?楽しく暮らしてるのでほっといて

だましだまし
ファンタジー
私たちの未来の王子妃を影なり日向なりと支える為に存在している。 敬愛する侯爵令嬢ディボラ様の為に切磋琢磨し、鼓舞し合い、己を磨いてきた。 決して追放に備えていた訳では無いのよ?

王子は婚約破棄をし、令嬢は自害したそうです。

七辻ゆゆ
ファンタジー
「アリシア・レッドライア! おまえとの婚約を破棄する!」 公爵令嬢アリシアは王子の言葉に微笑んだ。「殿下、美しい夢をありがとうございました」そして己の胸にナイフを突き立てた。 血に染まったパーティ会場は、王子にとって一生忘れられない景色となった。冤罪によって婚約者を自害させた愚王として生きていくことになる。

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...