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第3章
32:明彦
しおりを挟む何もない空間。
星も無く。 光も無く。
ただ、無限の闇が広がるだけの中。
神と竜が戦っていた。
神の名前は、女神エルリーディア。
竜の名前は、邪竜アロファスルンド。
数千年。 いや、数万年。
時間の経過など、とうの昔に忘れてしまっていた。
或る時。 女神エルリーディアが攻撃をしなくなった。
いくら邪竜アロファスルンドが攻撃をしても、反撃をしなくなった。
不思議に思い。 邪竜アロファスルンドは思わず女神に話しかけた。
「どうした。 何故、反撃をしない?」
「やっと、話しかけてきたわね。」
少しの間、お互いに見つめ合う。
「いやね。 アンタとも、随分と長い間戦ってるけど……。」
黙ったまま、女神の言葉を聞く邪竜アロファスルンド。
「そもそも、私たちが戦っている原因って、何だったのかしら?」
「……。 忘れたな。」
「私もよ。」
漂う沈黙。
「正直言って。 飽きちゃったのよ。 アンタと戦うのもね。」
女神エルリーディアの言葉を、黙って聞く邪竜アロファスルンド。
「でさ。 提案なんだけど。 休戦しない?」
「休戦…。」
「そう。 休戦よ。 どう?」
「判った。」
こうして、長きに渡る戦いは、一旦、幕を閉じた。
そして、長い時間が流れ。 お互いに時を過ごしていくと。
今度は、暇を持て余してくる。
いい加減、戦う事には、女神エルリーディアも、邪竜アロファスルンドも飽きていた。
「ねえ。 アロファスルンド。」
「なんだ。」
「宇宙を創ってみない?」
「宇宙を創る?」
「そう。宇宙。 ちょうど、此処ってなにも無い空間みたいだし。」
「確かに。 俺たちが、数万年以上も争っていたのに、何も生まれようとしない空間だったからな。」
「なら決まりね。」
こうして。神と邪竜は、お互いの神力を使い。
何も無い空間に宇宙を創造した。
ただ宇宙を創っただけでは、何もない空間と同じだ。
そこで、今度は、宇宙に漂う塵を集めて星を創り出す。
無数の星を創り出し。 それは、銀河となった。
しかし、今度は星を創るのにも飽きてきた。
女神と邪竜は話し合った。
自分たちが住む星を創ろうと。
その時に、女神エルリーディアは言った。
地球と言う星を創ってみたいと。
まだ、女神エルリーディアが、邪竜アロファスルンドと争う前に。
何処かの宇宙神が管理する宇宙に存在した惑星。 地球。
エルリーディアと、アロファスルンドは、出来上がった地球に降りる。
だが、ここで。
エルリーディアとアロファスルンドすら、理解を超えたモノと邂逅する。
「赤ん坊?」
「人族の?」
エルリーディアと、アロファスルンドの目の前には、いつの間にか人族の赤ん坊が現れていた。
何も身に着けず。 さっきまでは、確かに何もいなかった場所に。
いまは、赤子が泣き声をあげながら居る。
「お前が作ったのか?」
アロファスルンドの言葉に、フルフルと顔を横に振るエルリーディア。
「まっ。 放っておけば? 勝手に死ぬでしょう。」
「そうだな。」
エルリーディアと、アロファスルンドにすれば。
赤子など、どうでも良い事柄なのだ。
疑問は持ったが、自分たちの創った星に勝手に現れたのだ。
赤子を放置したまま、地球と言う星の環境を整えていく。
その作業だけで、7日を費やした。
「なぜ生きている?」
エルリーディアと、アロファスルンドが、赤子の所に来ている。
理由は何となくだ。
「エルリーディア。 人族の赤子と言うのは、7日も飲まず食わずで生きている物なのか?」
「普通は死ぬわね。」
そう。 赤子は生きていた。
この地球は、ようやく植物を創り出したばかりの星。
水はともかく、赤子が食せるものなどないはず。
なのに。 いま現在。 元気に手足を動かし、ハイハイしながら二人の所に向かってきている。
赤子は、二人の前に来ると、ペタンと座り。
「だぁ~!」
両手を挙げて、元気に声をあげた。
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