上 下
49 / 82

049.???

しおりを挟む
「見ましたか? あの彫像のような容貌を」
「確かに気味が悪いくらい整っておったな」
「あれだけ大勢に囲まれて、ピクリとも表情を変えないなんてあり得ません」

 先日の夜会での光景。
 ウッドワード家の嫡男は、大人に囲まれても、王妃派の子どもたちに囲まれても、顔色一つ変えなかった。
 その薄気味悪さといったら、霊にでも取り憑かれているようで――。

「ううっ、今思いだしても、背筋が寒くなります」

 所詮は子どもだと、高をくくっていた。
 社交界デビューを終えたといっても、まだ十二歳。高等学院にも入学していない。
 だから今のうちに思い知らせてやろうと、ウッドワード家の悪評を流した。
 敵の多さを知れば、殿下に取り入って伸びた鼻を、へし折ってやられると思ったからだ。

「あれでは父親の生き写しではありませんか」
「顔は母親に似たようだがのう」

 憎たらしい。
 どれだけ母親に似た美しい顔を持っていても、父親のように愛想がなければ宝の持ち腐れだ。
 笑いもしなければ、怒りもしない。
 涙の一つでも流せば、温情が生まれたものを。

「少しでも痛い目を見れば……」
「滅多なことを言うでない」
「しかしこのままでよいのですか?」

 どのような手を使っているのかわからないが、ウッドワード家は地位を欲しいままにしている。
 父親の足場を崩すのは難しくとも、息子相手なら、まだやりようはあるのではないか。

「だから子どもを使っておろう」
「成果があるようには、見受けられませんが?」
「根気だよ。今から孤立させていけば、高等学院での生活は辛くなるだろうて」
「孤立させられるのですか」

 王妃派があるように、ウッドワード家に与する派閥がある。
 パーシヴァル家に同じ年の子はいないようだが、三男が懐いていると聞く。夜会では長男とも親しげだった。
 ジラルド家が息子を近づけさせるとは考えられないが、現状は孤立していると言いがたい。

「すぐには難しかろう。だが王妃派の子どもたちへの刷り込みはできている。対立させるのは簡単だ」
「子どもでは限界があるでしょう」

 実際、夜会での手応えは皆無だった。

「だからとて、どうする? 子ども相手だから、まだウッドワード卿も静観しておるのだ。儂らが動けば、流石に黙ってはおらぬぞ」
「バレなければよいのです」

 何も直接手を下す必要はない。
 使い捨てできる人間を雇えばいいのだ。
 子どもの悪口程度では顔色が変わらなくとも、命の危険を感じれば流石に怖気立つだろう。
 少年の彫像のような顔が、恐怖に歪むのを想像する。
 それは、どれほど甘美だろうか。

「あてはあるのか」
「お任せください。金で動く連中に心当たりがあります」

 ふふ、命までは取らないでおいてやる。
 侯爵家の跡取りが害されたとなれば、王家も動かざるを得ないからな。
 しかし少し借りるぐらいなら、ウッドワード卿も被害を訴えにくい。
 幸い、声が変えられる魔導具も所有している。
 あの母親似の美しい顔が、自分の足に縋り、助けを求める姿を想像する。

 なんと心躍ることかっ!

 恐怖で泣き叫んでもいい、声を失ってもいい。
 失禁するだろうか、二度と外を歩けなくなるだろうか。
 あぁ、可哀想に。
 少年はウッドワード家に生まれた我が身を呪うことになるのだ。

 ――待っていろ。

 今にわたしが、真の恐怖というものを教え込んでやるからな。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

家ごと異世界ライフ

ねむたん
ファンタジー
突然、自宅ごと異世界の森へと転移してしまった高校生・紬。電気や水道が使える不思議な家を拠点に、自給自足の生活を始める彼女は、個性豊かな住人たちや妖精たちと出会い、少しずつ村を発展させていく。温泉の発見や宿屋の建築、そして寡黙なドワーフとのほのかな絆――未知の世界で織りなす、笑いと癒しのスローライフファンタジー!

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...