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ウッドワード家の盾のエンブレムが入ったペンダントを弄びながら、殿下の設定を思いだす。
アルフレッド・ロングバードの固定武器は、王家のエンブレムにもなっている光剣。魔力を通すことで、スキルとして光属性の攻撃が可能になるものだ。
ゲーム主人公との交流で新たなスキルを取得でき、二人で力を合わせて必殺技を繰り出すのも、ゲームの魅力だった。
壁にかけられた王家のエンブレムを眺めていると、先案内してくれた侍女が戻ってくる。
「……お待たせいたしました」
どこか疲れた様子の侍女に案内され、分厚い木造のドアが開かれるのを待つ。
部屋の様子が露わになった瞬間、僕の視界は遮られた。
「帰れ! どうせオマエもオレに取り入りたいだけだろ!」
声高な拒絶と共に、ぼふんと顔に何かが直撃する。
落ちていく影を追うと、それはクマのぬいぐるみだった。
隣にいた侍女は、あまりの事態に固まってしまっている。
どうやら殿下の粗暴さは、幼少期からのものらしい。
しかし、視線を向けたソファには――赤毛の天使がいた。
直毛で重そうに見える僕の黒髪とは違い、殿下の髪はふわふわしていて綿毛を連想させる。
りんごのような赤い頬は、触れたら溶けてしまいそうだ。
ゲームでは十六歳だった。
その六年前というだけで、こうも幼い印象を受けるのか。
大きな目を釣り上げているのも、子猫が威嚇しているようで微笑ましい。
「……な、何か言ったらどうだ!」
「失礼いたしました。ウッドワード侯爵家のルーファスと申します。以後お見知りおきを」
つい見入ってしまい、慌てて挨拶する。
しまった、髪が乱れたままだ。
さり気なく直しながら、落ちたままのぬいぐるみを拾う。
「殿下、よろしいですか?」
「そ、そこにいたオマエが悪いんだからな!」
ぬいぐるみを渡そうとして、殿下の言い分に首を傾げた。
もしかして、僕に当てる気はなかった?
最初から当てるつもりなら、「そこ」なんて曖昧な言い方はしないのではないか。
近づいてみると、殿下はあたふたと手を動かして落ち着かない。
彼の隣にぬいぐるみを置けば、きょとんと見上げられた。
「お、怒らないのか?」
「驚きましたが、痛くはありませんでしたので。座らせていただいても、よろしいですか?」
「ダメだっ、さては何か企んでるんだろう! お母様がウッドワード家は信用ならないって言ってたぞ!」
父上、王妃様に信用されてないんですか。
アルフレッド・ロングバードの固定武器は、王家のエンブレムにもなっている光剣。魔力を通すことで、スキルとして光属性の攻撃が可能になるものだ。
ゲーム主人公との交流で新たなスキルを取得でき、二人で力を合わせて必殺技を繰り出すのも、ゲームの魅力だった。
壁にかけられた王家のエンブレムを眺めていると、先案内してくれた侍女が戻ってくる。
「……お待たせいたしました」
どこか疲れた様子の侍女に案内され、分厚い木造のドアが開かれるのを待つ。
部屋の様子が露わになった瞬間、僕の視界は遮られた。
「帰れ! どうせオマエもオレに取り入りたいだけだろ!」
声高な拒絶と共に、ぼふんと顔に何かが直撃する。
落ちていく影を追うと、それはクマのぬいぐるみだった。
隣にいた侍女は、あまりの事態に固まってしまっている。
どうやら殿下の粗暴さは、幼少期からのものらしい。
しかし、視線を向けたソファには――赤毛の天使がいた。
直毛で重そうに見える僕の黒髪とは違い、殿下の髪はふわふわしていて綿毛を連想させる。
りんごのような赤い頬は、触れたら溶けてしまいそうだ。
ゲームでは十六歳だった。
その六年前というだけで、こうも幼い印象を受けるのか。
大きな目を釣り上げているのも、子猫が威嚇しているようで微笑ましい。
「……な、何か言ったらどうだ!」
「失礼いたしました。ウッドワード侯爵家のルーファスと申します。以後お見知りおきを」
つい見入ってしまい、慌てて挨拶する。
しまった、髪が乱れたままだ。
さり気なく直しながら、落ちたままのぬいぐるみを拾う。
「殿下、よろしいですか?」
「そ、そこにいたオマエが悪いんだからな!」
ぬいぐるみを渡そうとして、殿下の言い分に首を傾げた。
もしかして、僕に当てる気はなかった?
最初から当てるつもりなら、「そこ」なんて曖昧な言い方はしないのではないか。
近づいてみると、殿下はあたふたと手を動かして落ち着かない。
彼の隣にぬいぐるみを置けば、きょとんと見上げられた。
「お、怒らないのか?」
「驚きましたが、痛くはありませんでしたので。座らせていただいても、よろしいですか?」
「ダメだっ、さては何か企んでるんだろう! お母様がウッドワード家は信用ならないって言ってたぞ!」
父上、王妃様に信用されてないんですか。
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