怜くん、ごめんね!親衛隊長も楽じゃないんだ!

楢山幕府

文字の大きさ
上 下
37 / 50
高等部二年生

036

しおりを挟む
「それにしても話をしていただけの割には、長いこと部屋に戻ってこなかったね?」
「何が言いたい?」

 しかもぼくが自分の考えをまとめている間に、話題が核心に迫ってる!?

「話だけで終わらなかったんじゃないの? だから全然部屋に戻ってくる気配がなかった」

 暗に、ぼくを慰める時間はたっぷりあったと眞宙くんは言いたいんだろうか。
 うう、その節はお世話になりました!
 ビックリな提案もされたけど、待ってくれると言う眞宙くんの優しさに、心を打たれたのも事実だった。
 いくら次男と言えども、佐倉家の子息が孫を望まれないわけがないのにね。
 ……だからこそ、ぼくは甘えてばかりじゃダメなんだ。

「お前が何を想像してるのかは知らんが、言うべきことは何もない」
「そう……はぐらかすんだ?」

 あくまで怜くんは話をしていただけだと言う。
 そりゃいくら友人に対してでも、エッチなことをしてましたとは言えないよね……。
 怜くんの返答を聞いた眞宙くんは、チラッとぼくに視線を送った。

「待て、お前ら、何を知っている!?」

 明らかに動揺する怜くんに、ぼくは受け入れるしかないことを悟った。
 ちゃんとBLゲーム「ぼくきみ」のイベントが進んでいることを。
 これは喜ばないといけないことだ。
 怜くんは一歩ずつ、恋に向かって歩みはじめている。
 つい視線が下がってしまうけど、頑張るんだと自分に言い聞かせて、怜くんのほうへ顔を向けた。
 その瞬間、机の上に置いていたぼくと怜くんのスマホが同時に着信を知らせる。

「何だ?」

 怜くんの声を聞きながら、ぼくも着信を確認した。
 同時にスマホが鳴るなんて、嫌な予感しかしない。
 届いたメッセージは、風紀委員長の上村くんからのもので――。

〈七瀬が名法院の親衛隊員に襲われた。七瀬は保健室、親衛隊員は風紀委員室に連行している〉

 内容を理解することを頭が拒んだ。
 しかし体は動き、立ち上がって風紀委員室を目指す。
 今にも走り出したいけど、それは怜くんに腕を掴まれて止められた。

「人の目がある。動揺を見せるな」

 ぼくが慌てた行動を取れば、周囲にすぐ何かあったと気付かれてしまう。
 ぼく自身に関することならまだいいけど、今回は違った。
 頷いて、怜くんの言う通りにする。
 従う様子を見せると、怜くんはぼくの腕から手を離した。
 触れられた温もりが切ない。
 昨日はこの手で、七瀬くんに触れていたんだ……。

「ぼくは風紀委員室に行くよ」
「分かった。俺は七瀬の様子を見てくる。眞宙は保に付いてやってくれ」
「言われるまでもないけど……何があったの?」

 怜くんが当然のように七瀬くんの名前を口に出すのを聞いて、胸が痛い。
 その痛みに気付かないフリをしながら、眞宙くんに届いたメッセージを見せると、彼は息を飲んだ。

「これは、急いだほうが良さそうだね」

 眞宙くんの言葉に、怜くんと二人で頷き返し、生徒会室を出る。
 すぐに怜くんとは分かれ、ぼくと眞宙くんは会議室を二つ挟んだところにある風紀委員室へ向かった。
 風紀委員室に着くと、そこには連絡をくれた上村くんと、加害者であろう、見覚えのある怜くんの親衛隊員二人がいた。
 七瀬くんの隣室に部屋を持っている、あの二人だ。

「上村くんもこっちにいたんだ」

 てっきり上村くんもBLゲーム「ぼくきみ」の攻略キャラだから、七瀬くんのほうにいると思った。
 そういえば忘れがちだけど、眞宙くんもぼくの傍にいることが多い。
 これは七瀬くんが、怜くんのルートに入っているということなんだろうか。

「七瀬には、俺と同行していた風紀委員を付けてある。……できれば部外者には出ていて欲しいんだが」

 ぼくに答えた上村くんは、鋭い視線を眞宙くんへ向けた。
 しかし、眞宙くんは軽く両肩を竦めただけだった。

「……佐倉には言うだけ無駄か」
「怜同様、僕に命令できる人間なんて上級生にもいないからね」

 いくら外界から隔たれていると言っても、家の威光が全く届かなくなるわけじゃない。
 財閥五家に名を連ねる人物を、敢えて敵に回したい生徒は、この学園には存在しなかった。
 七瀬くんだけ、ちょっと考えが違うかもしれないけど。

「他言無用で頼むぞ」
「もちろん。それに僕も、そこにいる二人が動いた理由に心当たりがあるから、話に参加できるよ」
「本当か? 順に話を聞くから、座ってくれ」

 風紀委員室にも、生徒会と同じように会議用の長机が置かれていた。
 長机に合わせて一列に置かれた椅子に促される。
 ぼくは顔を青くして先に席についていた、親衛隊二人の隣に腰を下ろした。
 椅子に座ると、隣から小さくすみません、と声をかけられる。ぼくに対して謝るのは、お門違いなんだけどね。
 自分たちが問題を起こしてしまった自覚はあるみたい。
 更にぼくの隣の席に、眞宙くんが座った。
 上村くんはぼくたちと対面する形で、正面の席についている。
 その両隣を風紀委員が固めていて、長机を間に挟み、五対三で向き合うことになった。

「先にぼくとしては、彼らが取った行動について訊きたいんだけど」

 文面には「襲われた」とあっただけで、七瀬くんがケガをさせられたのかどうかも分からなかった。
 ケガをしていなければいいという話でもないけど、ぼくとしては傷がないことを祈るしかない。

「そうだな。端的に告げるために『襲われた』と表記したが、私が発見したときは、そっちの……新山が七瀬の胸ぐらを掴んでいるところだった」

 新山と名前を呼ばれた親衛隊員が肩をビクつかせる。

「じゃあ、七瀬くんにケガは?」
「幸いなことに、ない。念のため隠れた場所にケガをしていないか保健室には行かせたが、同行させている人間からも、今のところケガは見当たらないと報告を受けている」

 ケガはないと聞いて安心した。
 ぼくは七瀬くんに対して嫌がらせをしないといけない立場だけど、最初から他の隊員まで巻き込みたいとは思っていない。
 だからこそ昨日のことは内密にしたんだけど、まさかその二人が行動を起こすとは……予見できなかったぼくの落ち度だよね。

「なんだ。それなら襲ったというより、新山くんが七瀬くんに詰め寄ったっていうほうが、正しいんじゃないのかな?」

 上村くんの話を聞いて、眞宙くんがそう発言する。
 けど上村くんは、彼らの行動を軽くは見ていないようだった。

「それはあくまで私が彼らを止めた結果だ。人気のない場所に七瀬を呼び出している時点で、後ろめたい行動を取るつもりでいたのは明白だろう」

 どうやら昼休みの風紀委員の巡回で、彼らは見つかったらしい。
 親衛隊員は不審な人物を見付けたら、風紀委員に連絡するけど、風紀委員の巡回ルートは知らされていない。
 親衛隊員が問題を起こさないとも限らないからだ。
 案の定、その通りになって、ぼくは複雑な気持ちになった。
 これは相互監視の穴だ。
 普段から問題行動の多い生徒なら、みんな気をかけるけど、今回のように突発的に行動を起こした生徒を見張る目はない。
 しかもこれ、完全にぼくの責任なんだよね……。
 ならば、とぼくは一つ息を吸って、上村くんを見つめた。

「上村くん、彼らは七瀬くんに詰め寄っただけだよ」
「どうしてそう言い切れる?」
「だってぼくがそう指示したからね」
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

さがしもの

猫谷 一禾
BL
策士な風紀副委員長✕意地っ張り親衛隊員 (山岡 央歌)✕(森 里葉) 〖この気持ちに気づくまで〗のスピンオフ作品です 読んでいなくても大丈夫です。 家庭の事情でお金持ちに引き取られることになった少年時代。今までの環境と異なり困惑する日々…… そんな中で出会った彼…… 切なさを目指して書きたいです。 予定ではR18要素は少ないです。

【完結済み】乙男な僕はモブらしく生きる

木嶋うめ香
BL
本編完結済み(2021.3.8) 和の国の貴族の子息が通う華学園の食堂で、僕こと鈴森千晴(すずもりちはる)は前世の記憶を思い出した。 この世界、前世の僕がやっていたBLゲーム「華乙男のラブ日和」じゃないか? 鈴森千晴なんて登場人物、ゲームには居なかったから僕のポジションはモブなんだろう。 もうすぐ主人公が転校してくる。 僕の片思いの相手山城雅(やましろみやび)も攻略対象者の一人だ。 これから僕は主人公と雅が仲良くなっていくのを見てなきゃいけないのか。 片思いだって分ってるから、諦めなきゃいけないのは分ってるけど、やっぱり辛いよどうしたらいいんだろう。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

【完結】『ルカ』

瀬川香夜子
BL
―――目が覚めた時、自分の中は空っぽだった。 倒れていたところを一人の老人に拾われ、目覚めた時には記憶を無くしていた。 クロと名付けられ、親切な老人―ソニーの家に置いて貰うことに。しかし、記憶は一向に戻る気配を見せない。 そんなある日、クロを知る青年が現れ……? 貴族の青年×記憶喪失の青年です。 ※自サイトでも掲載しています。 2021年6月28日 本編完結

処理中です...