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高等部二年生
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朝、目の下にクマを作っているぼくを見た桜川くんは、休んだほうがいいと提案してきた。
早くベッドに入った割に、睡眠が取れていなかったらしい。
けど、こんなことで休んではいられない。
昨日一緒にいた親衛隊員の二人には口止めしているものの、人の口に戸は立てられないのが世の常だ。
外部生が結託をはじめているという話もある。
親衛隊が関わらないなら、ぼくの出る幕なんてないけど……生徒会長である怜くんの親衛隊は、内部生の代表格とも言える。巻き込まれないはずがない。
「心配かけてごめんね。顔は登校までに整えるよ」
「あまり無理はするなよ? 朝食と一緒に、栄養ドリンクも買ってきてやる」
「桜川くん、ありがとう」
桜川くんを見送って、コンシーラーを探す。
こういうときのために、顔色を隠す化粧品は備えてあった。
怜くんや眞宙くんも人に注目されることが多いので、体調の悪い日は、ファンデーションを持ち歩いていたりする。
人に弱ってるところを見せられない家柄の人は大変だ。
しかし頑張ってクマを隠したつもりでも、幼なじみにはバレバレなようで。
「保、大丈夫?」
「大丈夫。熟睡できなかっただけだから」
登校のため眞宙くんと部屋の前で合流するなり、顔を覗き込まれて心配された。
桜川くんもいつになく、背後でぼくを支えられるよう腕を伸ばしている。
どうやら自分が思っている以上に、酷い顔をしているみたいだ。
しっかりしなきゃ! と、桜川くんを振り返る。
「無理はしないって約束するから、桜川くんも心配しないで」
「分かった。……眞宙様、よろしくお願いします」
「任されたよ」
「では、いってらっしゃいませ」
朝の恒例行事。
腰を綺麗に折ってお辞儀する桜川くんに見送られながら、ぼくと眞宙くんは寮を出る。
そして玄関先で南くんとも合流した。
「おはようございます! あれ? 怜様はお休みですか?」
「そうだ! 怜くんは!?」
南くんの言葉で、大切な人の姿がないことに気付く。
寝不足は、ぼくから認識力をごっそり奪ってしまったらしい。
ぼくの反応に、眞宙くんが目を丸くした。
「えっ、今気付いたの? 保、やっぱり今日は休んだほうがいいんじゃないかな?」
「うぅ……さっき栄養ドリンク飲んだから、大丈夫なはず……。それより怜くんは!?」
「用事ができて先に登校してるよ。連絡入ってるはずだけど」
「あれ……?」
眞宙くんに言われてスマホを確認すると、確かに怜くんからメッセージが届いていた。
目のクマを隠すのに必死で、着信に気付かなかったみたいだ。
ぼくがスマホの画面を見つめている間、眞宙くんはぼくの額に手を当てて熱を計る。
「んー、熱はなさそうだね」
「ただの寝不足だからね」
「しんどくなったらすぐに言うんだよ。あと絶対、僕から離れてどこかへ行かないこと」
「はい……」
このままでは強制的に部屋へ戻されそうだったので、大人しく頷く。
「じゃあ手を繋いで行こうか」
「うん……うん?」
「あ、ボクも!」
「南くん?」
何故か南くんまで、空いているぼくの手を取った。
南くんが手を繋ぐなら眞宙くんじゃ……?
頭に疑問を浮かべながら、ぼくを真ん中にして三人並んで歩き出す。
その様子が人の視線を集めたのは、言うまでもなかった。
◆◆◆◆◆◆
お昼休み、怜くんの教室で顔を合わせるなり、怜くんに拳でこめかみをグリグリされる。
「お前という奴は!」
「えっ、なんで? 痛い、痛い!?」
理由も分からず悶えていると、眞宙くんが助け船を出してくれる。
「怜、保は今日調子悪いから、それぐらいにしてあげて」
「そうなのか?」
すると怜くんは手の位置を変えて、眞宙くんと同じようにぼくの熱を計る。
「熱はないな」
「ただの寝不足だからね。っていうか、イキナリ酷いよ!」
「お前が学習しないからだろうが。眞宙も眞宙だ、目立つのは分かってただろう!」
ぼくの抗議を一刀両断すると、怜くんは矛先を眞宙くんに向けた。
「また僕と保が噂にでもなってた? 怜は気にし過ぎだよ」
「お前、わざとじゃないだろうな?」
「朝のことなら、保が体調悪そうだったから、手を引いて歩いただけだよ」
「……とりあえず、そういうことにしておいてやる。少し話したいことがあるから場所を変えるぞ」
食堂に行くのかと思いきや、怜くんは生徒会室に向かって歩き出した。
その背を追いかけながら、昼食はどうするのか尋ねる。
「お昼は? 何か購買部で買って来る?」
「いや、食堂に配達を頼んである」
「そういえば、配達もしてくれるんだっけ。朝から頼んでおいてくれたの?」
「込み入った話になりそうだったからな」
生徒会室に着くと、ドアの前には既に食堂から配達にやって来た係の人が、昼食を載せたワゴンと一緒に待っていた。
お盆に載せられた定食を受け取り、いつも会議で使っている椅子にそれぞれ腰掛ける。
応接用のソファだと、ご飯は食べにくいからね。
「それで、怜、話っていうのは朝の用事のこと? それとも昨日の七瀬くんとのこと?」
「朝の用事も七瀬関連だから、総じて七瀬のことだと言えるな。まずは昨日のことから話すか」
「昨日の」という言葉に、一瞬動きが止まった。
箸を持つ手が震えそうになる。
……けど、これは向き合わないといけないことだ。
眞宙くんは一度ぼくに視線を向けてから、怜くんのほうへ向き直った。
早くベッドに入った割に、睡眠が取れていなかったらしい。
けど、こんなことで休んではいられない。
昨日一緒にいた親衛隊員の二人には口止めしているものの、人の口に戸は立てられないのが世の常だ。
外部生が結託をはじめているという話もある。
親衛隊が関わらないなら、ぼくの出る幕なんてないけど……生徒会長である怜くんの親衛隊は、内部生の代表格とも言える。巻き込まれないはずがない。
「心配かけてごめんね。顔は登校までに整えるよ」
「あまり無理はするなよ? 朝食と一緒に、栄養ドリンクも買ってきてやる」
「桜川くん、ありがとう」
桜川くんを見送って、コンシーラーを探す。
こういうときのために、顔色を隠す化粧品は備えてあった。
怜くんや眞宙くんも人に注目されることが多いので、体調の悪い日は、ファンデーションを持ち歩いていたりする。
人に弱ってるところを見せられない家柄の人は大変だ。
しかし頑張ってクマを隠したつもりでも、幼なじみにはバレバレなようで。
「保、大丈夫?」
「大丈夫。熟睡できなかっただけだから」
登校のため眞宙くんと部屋の前で合流するなり、顔を覗き込まれて心配された。
桜川くんもいつになく、背後でぼくを支えられるよう腕を伸ばしている。
どうやら自分が思っている以上に、酷い顔をしているみたいだ。
しっかりしなきゃ! と、桜川くんを振り返る。
「無理はしないって約束するから、桜川くんも心配しないで」
「分かった。……眞宙様、よろしくお願いします」
「任されたよ」
「では、いってらっしゃいませ」
朝の恒例行事。
腰を綺麗に折ってお辞儀する桜川くんに見送られながら、ぼくと眞宙くんは寮を出る。
そして玄関先で南くんとも合流した。
「おはようございます! あれ? 怜様はお休みですか?」
「そうだ! 怜くんは!?」
南くんの言葉で、大切な人の姿がないことに気付く。
寝不足は、ぼくから認識力をごっそり奪ってしまったらしい。
ぼくの反応に、眞宙くんが目を丸くした。
「えっ、今気付いたの? 保、やっぱり今日は休んだほうがいいんじゃないかな?」
「うぅ……さっき栄養ドリンク飲んだから、大丈夫なはず……。それより怜くんは!?」
「用事ができて先に登校してるよ。連絡入ってるはずだけど」
「あれ……?」
眞宙くんに言われてスマホを確認すると、確かに怜くんからメッセージが届いていた。
目のクマを隠すのに必死で、着信に気付かなかったみたいだ。
ぼくがスマホの画面を見つめている間、眞宙くんはぼくの額に手を当てて熱を計る。
「んー、熱はなさそうだね」
「ただの寝不足だからね」
「しんどくなったらすぐに言うんだよ。あと絶対、僕から離れてどこかへ行かないこと」
「はい……」
このままでは強制的に部屋へ戻されそうだったので、大人しく頷く。
「じゃあ手を繋いで行こうか」
「うん……うん?」
「あ、ボクも!」
「南くん?」
何故か南くんまで、空いているぼくの手を取った。
南くんが手を繋ぐなら眞宙くんじゃ……?
頭に疑問を浮かべながら、ぼくを真ん中にして三人並んで歩き出す。
その様子が人の視線を集めたのは、言うまでもなかった。
◆◆◆◆◆◆
お昼休み、怜くんの教室で顔を合わせるなり、怜くんに拳でこめかみをグリグリされる。
「お前という奴は!」
「えっ、なんで? 痛い、痛い!?」
理由も分からず悶えていると、眞宙くんが助け船を出してくれる。
「怜、保は今日調子悪いから、それぐらいにしてあげて」
「そうなのか?」
すると怜くんは手の位置を変えて、眞宙くんと同じようにぼくの熱を計る。
「熱はないな」
「ただの寝不足だからね。っていうか、イキナリ酷いよ!」
「お前が学習しないからだろうが。眞宙も眞宙だ、目立つのは分かってただろう!」
ぼくの抗議を一刀両断すると、怜くんは矛先を眞宙くんに向けた。
「また僕と保が噂にでもなってた? 怜は気にし過ぎだよ」
「お前、わざとじゃないだろうな?」
「朝のことなら、保が体調悪そうだったから、手を引いて歩いただけだよ」
「……とりあえず、そういうことにしておいてやる。少し話したいことがあるから場所を変えるぞ」
食堂に行くのかと思いきや、怜くんは生徒会室に向かって歩き出した。
その背を追いかけながら、昼食はどうするのか尋ねる。
「お昼は? 何か購買部で買って来る?」
「いや、食堂に配達を頼んである」
「そういえば、配達もしてくれるんだっけ。朝から頼んでおいてくれたの?」
「込み入った話になりそうだったからな」
生徒会室に着くと、ドアの前には既に食堂から配達にやって来た係の人が、昼食を載せたワゴンと一緒に待っていた。
お盆に載せられた定食を受け取り、いつも会議で使っている椅子にそれぞれ腰掛ける。
応接用のソファだと、ご飯は食べにくいからね。
「それで、怜、話っていうのは朝の用事のこと? それとも昨日の七瀬くんとのこと?」
「朝の用事も七瀬関連だから、総じて七瀬のことだと言えるな。まずは昨日のことから話すか」
「昨日の」という言葉に、一瞬動きが止まった。
箸を持つ手が震えそうになる。
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