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高等部二年生
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昼食の取り方は人それぞれだけど、一番生徒の利用数が多いのが食堂だった。
食堂での食事は全て無料だからね。
料理は個別に注文するか、ビッフェ形式か選べる。
午前中に連絡すれば配達サービスも受けられるけど、こっちは有料。
他にも、人混みを嫌う生徒なんかは、購買部や喫茶スペースなどの有料サービスを利用していた。
食堂は広く、一階に二百席が設けられている他、テラス席もある。
更に一階より一メートルほど床を上げた半二階席もあり、ぼくたちはそちらへ向かう。
腕を組んで歩くなんていつぶりだろう? すぐに思いだせないほど昔なのは確かだ。
つい手と足が同時に出てしまいそうになるのは許して欲しい。
だってなんか気恥ずかしいんだもん! 怜くんはエスコートに馴れてるから、動じてないけどさ!
階段でつんのめりそうになりながら、ぼくは意識して足を動かした。
学園には常に「目立つ生徒」というのが存在する。
半二階席は、そんな彼らであっても他の生徒の視線を気にすることなく食事が取れるようにと、学園側の配慮で造られたものだ。
だから自ずと使用者は限られる。
怜くんなんて、その代表みたいなものだよね。
今も食堂に姿を見せただけで、一階席の生徒がざわついてたし。
ソファが置かれた歓談スペースを通り過ぎ、円卓の席に腰を下ろす。
席に着くと、係の人がメニューを持ってきてくれた。
これも半二階席ならではのサービスだ。
一階席は利用者数が多いから、セルフサービスとなっている。
うーん、シェフの日替わりランチでいいかな。今のところハズレはない。
係の人にメニューを伝えると、怜くんも決めたらしくメニューを返しているところだった。
「もう落ち着いたか?」
「うん、怜くん、ごめんね。腰大丈夫だった?」
「それはもう忘れろ。お前の腕はどうなんだ」
「腕……?」
何のことかと首を傾げれば、朝の、と答えがあって合点がいく。
もしかしてずっと心配してくれてたのかな?
「忘れてたぐらいには大丈夫!」
えへへ、と笑いかければ、怜くんは肩から力を抜いた。
「ならいいが。それと、今後は嫉妬にかられたとしても穏便に頼むぞ」
「はい……」
何度も怜くんの体に痣を作っている身としては、素直に反省するしかない。
今回のは痣にならなかったよね?
「でも、とても情熱的な告白でした!」
「南くんはマネしないようにね」
「眞宙様に抱き付くなんて、ボクには恐れ多くて無理です!」
どうやら南くんの目には、ぼくが怜くんに勢い良く抱き付いたように見えたみたいだ。
間違いではない……のかな?
「そういえば怜は、何を楽しそうに話してたの?」
眞宙くんの怜くんへの質問に、ぼくはテーブルの下でギュッと手を握った。
聞きたいような、聞きたくないような……そんな相反する感情に、胸がざわつく。
一方尋ねられたほうの怜くんは、困ったように視線を宙に彷徨わせた。
「何を……と言われてもな。俺にはあまり自覚がないんだが」
あぁ、無意識の内に笑顔になるほど楽しかったんだ。
やっぱりゲーム主人公くんは凄いな。
きっと簡単に怜くんの心を開いてしまったに違いない。
「強いて面白かったことと言えば、圭吾が友人を作っているのを目撃したことか? あんな口の悪い奴相手と関係を築こうなんて、物好きもいたものだな、と」
ほら、やっぱりゲーム主人公……くん? あれ?
「怜くんが、ゲ……じゃない、えーと、編入生くんと喋ってたんじゃないの?」
「別に何も話してないぞ? 圭吾は話してたがな。外部生同士で話が合ったんだろ」
あれぇー?
ちょっと待って、ゲーム主人公くんが出会うのって桜川くんのほうが先だっけ? ……そっか、友達枠だもんね。じゃあ怜くんとは?
記憶の中から、ゲーム主人公くんが怜くんと出会うイベントを探す。
えーと……なるほど、始業式や教室では一方的に見てるだけだったんだね。目立つ人がいるなーと。
ってことは、完全にぼくの早とちりじゃないか! 恥ずかしいっ!
そりゃ突然怜くんにタックルかまして、睨み付けられたらゲーム主人公くんも驚くよね!
「保、どうしたの? 顔が真っ赤だけど」
「今はそっとしておいて……」
額に手をやって熱を計ろうとしてくれる眞宙くんに、大丈夫だからと答えながら、両手で顔を覆う。
落ち着こう、落ち着くんだ。
まだイベントが発生していないということは、正式な怜くんとの出会いイベントが別にあるはずで。
確かゲーム主人公くんの存在感を見せ付ける一幕だった。
「うわっ、なんだここ!?」
「半二階席は、特別仕様なんだ。一般生徒は使わない」
少年らしい高めの声と、低い声が聞こえてきて、階段のほうを振り向く。
そこには半二階席に上がってきた、もっさりとした黒髪に分厚い瓶底眼鏡のゲーム主人公くんと、風紀委員長になった上村くんの姿があった。
ゲーム主人公くんの背は高くなく、上村くんのほうが、顔半分ほど高い。
二人が並んでいる光景を見て、ぼくは怜くんとの出会いイベントを思いだした。
そうだ! 食堂の造りの違いを見たゲーム主人公くんが、それはおかしいって言い出すんだ!
食堂での食事は全て無料だからね。
料理は個別に注文するか、ビッフェ形式か選べる。
午前中に連絡すれば配達サービスも受けられるけど、こっちは有料。
他にも、人混みを嫌う生徒なんかは、購買部や喫茶スペースなどの有料サービスを利用していた。
食堂は広く、一階に二百席が設けられている他、テラス席もある。
更に一階より一メートルほど床を上げた半二階席もあり、ぼくたちはそちらへ向かう。
腕を組んで歩くなんていつぶりだろう? すぐに思いだせないほど昔なのは確かだ。
つい手と足が同時に出てしまいそうになるのは許して欲しい。
だってなんか気恥ずかしいんだもん! 怜くんはエスコートに馴れてるから、動じてないけどさ!
階段でつんのめりそうになりながら、ぼくは意識して足を動かした。
学園には常に「目立つ生徒」というのが存在する。
半二階席は、そんな彼らであっても他の生徒の視線を気にすることなく食事が取れるようにと、学園側の配慮で造られたものだ。
だから自ずと使用者は限られる。
怜くんなんて、その代表みたいなものだよね。
今も食堂に姿を見せただけで、一階席の生徒がざわついてたし。
ソファが置かれた歓談スペースを通り過ぎ、円卓の席に腰を下ろす。
席に着くと、係の人がメニューを持ってきてくれた。
これも半二階席ならではのサービスだ。
一階席は利用者数が多いから、セルフサービスとなっている。
うーん、シェフの日替わりランチでいいかな。今のところハズレはない。
係の人にメニューを伝えると、怜くんも決めたらしくメニューを返しているところだった。
「もう落ち着いたか?」
「うん、怜くん、ごめんね。腰大丈夫だった?」
「それはもう忘れろ。お前の腕はどうなんだ」
「腕……?」
何のことかと首を傾げれば、朝の、と答えがあって合点がいく。
もしかしてずっと心配してくれてたのかな?
「忘れてたぐらいには大丈夫!」
えへへ、と笑いかければ、怜くんは肩から力を抜いた。
「ならいいが。それと、今後は嫉妬にかられたとしても穏便に頼むぞ」
「はい……」
何度も怜くんの体に痣を作っている身としては、素直に反省するしかない。
今回のは痣にならなかったよね?
「でも、とても情熱的な告白でした!」
「南くんはマネしないようにね」
「眞宙様に抱き付くなんて、ボクには恐れ多くて無理です!」
どうやら南くんの目には、ぼくが怜くんに勢い良く抱き付いたように見えたみたいだ。
間違いではない……のかな?
「そういえば怜は、何を楽しそうに話してたの?」
眞宙くんの怜くんへの質問に、ぼくはテーブルの下でギュッと手を握った。
聞きたいような、聞きたくないような……そんな相反する感情に、胸がざわつく。
一方尋ねられたほうの怜くんは、困ったように視線を宙に彷徨わせた。
「何を……と言われてもな。俺にはあまり自覚がないんだが」
あぁ、無意識の内に笑顔になるほど楽しかったんだ。
やっぱりゲーム主人公くんは凄いな。
きっと簡単に怜くんの心を開いてしまったに違いない。
「強いて面白かったことと言えば、圭吾が友人を作っているのを目撃したことか? あんな口の悪い奴相手と関係を築こうなんて、物好きもいたものだな、と」
ほら、やっぱりゲーム主人公……くん? あれ?
「怜くんが、ゲ……じゃない、えーと、編入生くんと喋ってたんじゃないの?」
「別に何も話してないぞ? 圭吾は話してたがな。外部生同士で話が合ったんだろ」
あれぇー?
ちょっと待って、ゲーム主人公くんが出会うのって桜川くんのほうが先だっけ? ……そっか、友達枠だもんね。じゃあ怜くんとは?
記憶の中から、ゲーム主人公くんが怜くんと出会うイベントを探す。
えーと……なるほど、始業式や教室では一方的に見てるだけだったんだね。目立つ人がいるなーと。
ってことは、完全にぼくの早とちりじゃないか! 恥ずかしいっ!
そりゃ突然怜くんにタックルかまして、睨み付けられたらゲーム主人公くんも驚くよね!
「保、どうしたの? 顔が真っ赤だけど」
「今はそっとしておいて……」
額に手をやって熱を計ろうとしてくれる眞宙くんに、大丈夫だからと答えながら、両手で顔を覆う。
落ち着こう、落ち着くんだ。
まだイベントが発生していないということは、正式な怜くんとの出会いイベントが別にあるはずで。
確かゲーム主人公くんの存在感を見せ付ける一幕だった。
「うわっ、なんだここ!?」
「半二階席は、特別仕様なんだ。一般生徒は使わない」
少年らしい高めの声と、低い声が聞こえてきて、階段のほうを振り向く。
そこには半二階席に上がってきた、もっさりとした黒髪に分厚い瓶底眼鏡のゲーム主人公くんと、風紀委員長になった上村くんの姿があった。
ゲーム主人公くんの背は高くなく、上村くんのほうが、顔半分ほど高い。
二人が並んでいる光景を見て、ぼくは怜くんとの出会いイベントを思いだした。
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