怜くん、ごめんね!親衛隊長も楽じゃないんだ!

楢山幕府

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高等部一年生

007

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 ぼくが生徒会室に戻ると、そこには怜くんと眞宙くんの姿しかなかった。

「あれ? 他の人たちは?」
「必要事項は決まったから、今日はもう帰らせた。明日からは準備で忙しくなるぞ」
「そうだね、ポスター用の怜くんの写真撮影もあるしね!」
「……」

 ぼくが答えると、怜くんはこめかみを指で押さえた。
 何か不安なことでもあるんだろうか。
 ぼくとしてはゲーム主人公くんを気にしないで過ごせる最後のイベントなので、否応にも力が入る。

「大丈夫だよ! 撮影は写真部に任せることになってるけど、意気込みも凄いらし……痛い、痛い!」

 おもむろに近付いてきた怜くんに、アイアンクローをかけられる。
 怜くん、ぼくの顔を片手に収めるのが好きだね!?

「お前は、それ以外にないのか」
「だってこれがメインイベント……」
「な、わけあるか! メインは、新しい役員の募集だ!」
「そんなの募集しなくても集ま……痛い! 顔が歪んじゃう!」

 事実を口にしただけなのに、怜くんは気に入らなかったらしい。
 ぼくが叫ぶと、締める力を少し緩めてくれるところに、優しさを感じます。

「まぁまぁ、二人ともジャレるのはそのくらいにして。保、親衛隊の件は大丈夫だったの? 怜もそれを心配してたんだよ」
「俺は別に心配してないぞ」

 眞宙くんが間に入ってくれたことで、アイアンクローは外された。
 無愛想に言い放つ怜くんに眞宙くんは苦笑するけど、いつものことといえば、いつものことだ。
 ぼくがチャラ男先輩の親衛隊の子が襲われた話をすると、二人とも揃って天井を仰いだ。
 それぞれの銀髪とワインレッドの髪が宙を揺らぐ。

「またか」
「板垣先輩が素行を正さない限り、なくならないだろうね」

 ごもっともである。
 ぼくとしては親衛隊への風評被害をどうにかしたいところだけど、これといった解決策は浮かばなかった。

「保も気を付けてね」
「うん、上村くんにも注意されたところだよ」

 灯台下暗しの意味は分からなかったけど。
 ぼくが眞宙くんに頷く傍ら、怜くんは眞宙くんから生徒会室のドアへと視線を投げる。

「話は終わったな。じゃあ、眞宙は先に帰れ」
「怜、今の話聞いてた? どうして僕が、怜と保を二人っきりにすると思うの」
「合意の上なら、問題ないだろう?」

 次に怜くんは、じっとぼくを見つめた。
 碧い瞳に正面から見つめられ、一瞬にしてぼくの鼓動は早まる。
 えぇっと……これは……そういう流れなわけで。
 怜くんと二人っきりになった後のことを考えると、じわじわと頬が熱くなるのを止められない。

「保、嫌なら嫌だって言うんだよ?」
「俺は今まで無理強いしたことはないぞ」
「言うまでもなく、それが当たり前なんだけどね?」

 怜くんは生徒会室から眞宙くんを追い出すと、ぼくの手を引いて、応接用の黒い本革のソファに座らせる。
 二人がけのソファに並んで腰を下ろすと、ギシッとスプリングが沈む音がした。
 あああ、どうしよう! 真横に怜くんがいる! いや、いつものことなんだけど!
 これから行為に及ぶ恥ずかしさから、膝に拳を乗せて固まる。
 そこへ怜くんの手が重ねられた。

「大丈夫か?」
「だ、だいひょ」
「落ち着け。お前の周りに怪しい奴はいないか?」
「あ、親衛隊のこと? ぼくのところは大丈夫だよ」

 話を振られて少し気が抜ける。
 あれ? もしかしてぼくの早とちりだった? それはそれで恥ずかしい……っ!
 俯くと、力が緩んだ拳を指でなぞられた。
 怜くんの指先に、指の間を撫でられてくすぐったい。

「緊張が解けたのはいいが、まだ気を抜くのは早いぞ」
「え?」

 声と共に端正な顔が近付いてきて、ちゅっと軽く耳にキスされる。
 間近で聞こえるリップ音が生々しい。

「ぴぇっ!」
「お前は鳥か」
「れ、れれ怜くんが!」
「うん、俺が?」

 顔を向ければ、楽しそうな怜くんが目に入る。
 絶対からかってる……!
 怜くんは、ぼくの拳から手を離すと、人差し指でぼくの顎を持ち上げた。

「俺が、何だ?」
「か、格好良い……じゃなくて、からかわないでよ!」
「からかってない、と言ったら?」
「えっと」

 どう答えたらいいのかわからなくて目が泳ぐ。
 そんなぼくの頬に、怜くんの唇が触れた。

「お前が欲しい」
「~~~っ」

 腰に! 響く! 声は! 反則だよね!?
 顔だけじゃなくて声も良いなんて、天は怜くんに二物も三物も与え過ぎだよ!
 ソファに倒れ込みそうになったところで、腰に怜くんの腕が回される。
 もう片方の手で、そっと髪を撫でられた。

「俺は保だけでいい」

 怜くんと肌を重ねるようになったのは、ご多分に漏れず高等部に進学してからだ。
 けれどチャラ男先輩とは違って、怜くんがぼく以外の親衛隊の子に手を出すことはなかった。

「まだ馴れないか」
「多分ずっと無理……」

 正直に白状すると、珍しくふっと笑った雰囲気が怜くんから伝わってくる。
 数センチも離れていない距離に、怜くんの綺麗な顔があるのだと思うと心臓に悪い。
 普段はできるだけ意識しないようにしてるけど、二人っきりになってしまうとダメだった。
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