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これからは衝動的じゃなく、確固たる自分の意思で力を振るう。
感情の波に、のまれないために。
後悔しないために、表明する。
「容赦はしない。例え、相手が勇者でも」
ゴォッ。
消えていた松明の火が、背後で燃え上がった。
後ろからくる熱風に、長い髪が揺れる。
視線を向ければ、火と風の下級精霊が一緒になってはしゃいでいた。
静寂に支配された部屋でも、彼らだけはいつも通りだ。
ふっと頬が緩み、いつの間にか緊張していた体から力が抜ける。
改めて顔を前に向ければ、ガルたちを除く、ドワーフ全員が床に頭を着けていた。
乱入者を押さえ込んでいた人たちも、それぞれ平伏している。
状況を理解できず目を瞬かせていると、通訳をしてくれていたルフナも、おもむろに片膝を着いた。
「エルフ一同、リゼ様のご意向に従います」
「オーガをまとめるのは任せろ。親父が張り切る」
「……是は一人だが、是の命はリゼのものだ」
ガルがぼくの頭を撫でる。
すぐ隣にはディンブラがいた。
「ありがとう三人とも。とても心強いよ。ぼく一人じゃ、何もできないから」
すっかり話が大きくなっている気がするけど。
……大森林を守るためには、真剣に考えないとね。
「ドワーフさんたちも、もう頭を下げなくていいから」
言いたいことは言った。
あとは彼ら次第だ。
様子を見る限り、これ以上悪いことにはならないかな?
「ーーーー!?」
通訳するルフナを眺めていたら、ドワーフたちにどよめきが起こる。
王様の顔が真っ青になり、乱入したドワーフが王様を睨んでいるようにも見えた。
「どうしたの?」
「リゼ様は火の精霊様と縁ある者か? と尋ねられたので、火の精霊王であるファロ様から祝福されていることを伝えました」
ぼくの視線に気付いた王様が、壊れた人形にように何度も頭を上げては床に打ちつける。
ゴンゴン音を鳴らす王様を、ぼくは慌てて止めた。
「いいから! あとはあなたたちの判断に任せるから……!」
「ドワーフはリゼ様の下僕だと言っています」
「とにかく、ぼくはエルフでしかないから」
「この際ですから、エルフの王でもあると伝えておきましょう」
「待って!? 勝手にそんなこと言ったら、みんな怒るよ!?」
「『移り人』を筆頭に、エルフは大歓迎ですが?」
「どういうことなの!? いきなり、そんな責任負えないからね……ぼくが責任持てるのはハーレムまで!」
「承知いたしました」
大丈夫かな、大言壮語してなきゃいいんだけど。
ぼくも人間語を勉強しよう……。
場はルフナが治めてくれたので、ぼくは昨晩やり損ねた薬の調合にとりかかる。
使わせてもらった分の補充もしないといけないしね。
「では、私はカネフォラ王国の使者と会ってきます」
「気を付けてね」
一人で行かせるのは心配だけど、「移り人」として会うなら一人のほうが疑われない。
ドワーフの外交担当も同伴するらしいから、いざとなったら助けてもらえるよう王様にも頼んでおいた。
ルフナを見送り、薬草を手にする。
「んー、ちょっと劣化してる……」
「俺には変わりなく見えるけどな」
「ほんのちょっとだからね。高品質の薬は問題なく作れると思うけど、大森林以外で高品質の薬が作りにくい理由がわかった気がするよ」
コラツィオーネ国は、他と比べれば魔素の多い国だと聞いている。
だから薬草の劣化も最小限で済んでいるんだろうけど、大森林に近いコボルトの村では劣化はなかった。
「ちゃちゃっと作っちゃうね」
ガルとディンブラは繊細な作業に向かないのもあって、ぼくを見守っている。
「そう言やぁ、勇者と戦うのか?」
「わからない。もし次会ったときも、誰かを傷つけようとするなら戦うけど……」
そもそも戦闘は苦手……というより、経験がなかった。
「ルフナに稽古をつけてもらおうかな」
「身を守るには必要だが、戦闘自体は俺らに任せりゃいい」
「でも目の前でガルたちが傷つくのを見るのは嫌だよ」
「かすり傷ぐらいどうってことねぇさ。後方から支援してくれりゃあいいだろ」
勇者パーティーにいた黒髪の女の子を思いだす。
あの子のように、後ろから魔法を使えばいいのかな。
「……リゼが戦ったら、一瞬で片がつくのでは?」
「ぼく弱いよ?」
「あーディンブラが言いてぇのはあれだよ、木の加工みたいにスパッと敵を攻撃すりゃ済むってことだろ」
「スパッと……」
勇者がガルに向かって剣を振っていた。
もし攻撃をガルが避けられなかったら……これ以上は、想像したくない。
けど、向き合わないといけないことだ。
ガルがぼくの頭をポンポンする。
「いいんだよ、リゼは守ることを考えてくれりゃあ」
「ううん、ぼくだって攻撃することに忌避感はないんだ」
ガルやルフナ、ディンブラのためだったら、相手が傷ついても心は痛まない。
「今までしてこなかったのは……自分でも、怖いんだと思う」
他人を傷つける力は、間違ってしまえば身内をも傷つける。
「力が敵に向かってるときはいいけど、もし混乱して味方に向いたらって」
「憤怒状態か? リゼなら大丈夫だと思うがな。これまでだって怒るときはあったが、憤怒状態にはなってないだろ?」
「ディンブラのときは森を傷つけちゃったよ」
「力の及ぶ範囲が、予想以上に大きかったからだろ。お前は、自分が思ってる以上に、冷静だよ」
そうだろうか、と首を傾げる。
自信はない。
「憤怒状態だったら、ディンブラみたいに話すらできねぇって。お前はルフナと話せてただろ」
頭に置かれるガルの手が温かい。
「ありがとう。いつだってガルは、ぼくを励ましてくれるね」
「当然だ。お前のためなら何だってしてやるよ。ほら、おっぱいでも揉むか?」
胸の下で腕を組んで、ガルがおっぱいを強調する。
「くっ、ガルのおっぱいは大好きだけど……!」
今は薬の調合中だし、ダメな気がする!
つい大好きだと口走ってしまったからか、今度は頬におっぱいを押し付けられた。
「ほらほら」
「ぐぬぬ」
むにっとする感触が堪らない。
「……こ、是も寄せれば」
「ディンブラは無理しなくていいからね」
みんな違って、みんな良いんだ。
感情の波に、のまれないために。
後悔しないために、表明する。
「容赦はしない。例え、相手が勇者でも」
ゴォッ。
消えていた松明の火が、背後で燃え上がった。
後ろからくる熱風に、長い髪が揺れる。
視線を向ければ、火と風の下級精霊が一緒になってはしゃいでいた。
静寂に支配された部屋でも、彼らだけはいつも通りだ。
ふっと頬が緩み、いつの間にか緊張していた体から力が抜ける。
改めて顔を前に向ければ、ガルたちを除く、ドワーフ全員が床に頭を着けていた。
乱入者を押さえ込んでいた人たちも、それぞれ平伏している。
状況を理解できず目を瞬かせていると、通訳をしてくれていたルフナも、おもむろに片膝を着いた。
「エルフ一同、リゼ様のご意向に従います」
「オーガをまとめるのは任せろ。親父が張り切る」
「……是は一人だが、是の命はリゼのものだ」
ガルがぼくの頭を撫でる。
すぐ隣にはディンブラがいた。
「ありがとう三人とも。とても心強いよ。ぼく一人じゃ、何もできないから」
すっかり話が大きくなっている気がするけど。
……大森林を守るためには、真剣に考えないとね。
「ドワーフさんたちも、もう頭を下げなくていいから」
言いたいことは言った。
あとは彼ら次第だ。
様子を見る限り、これ以上悪いことにはならないかな?
「ーーーー!?」
通訳するルフナを眺めていたら、ドワーフたちにどよめきが起こる。
王様の顔が真っ青になり、乱入したドワーフが王様を睨んでいるようにも見えた。
「どうしたの?」
「リゼ様は火の精霊様と縁ある者か? と尋ねられたので、火の精霊王であるファロ様から祝福されていることを伝えました」
ぼくの視線に気付いた王様が、壊れた人形にように何度も頭を上げては床に打ちつける。
ゴンゴン音を鳴らす王様を、ぼくは慌てて止めた。
「いいから! あとはあなたたちの判断に任せるから……!」
「ドワーフはリゼ様の下僕だと言っています」
「とにかく、ぼくはエルフでしかないから」
「この際ですから、エルフの王でもあると伝えておきましょう」
「待って!? 勝手にそんなこと言ったら、みんな怒るよ!?」
「『移り人』を筆頭に、エルフは大歓迎ですが?」
「どういうことなの!? いきなり、そんな責任負えないからね……ぼくが責任持てるのはハーレムまで!」
「承知いたしました」
大丈夫かな、大言壮語してなきゃいいんだけど。
ぼくも人間語を勉強しよう……。
場はルフナが治めてくれたので、ぼくは昨晩やり損ねた薬の調合にとりかかる。
使わせてもらった分の補充もしないといけないしね。
「では、私はカネフォラ王国の使者と会ってきます」
「気を付けてね」
一人で行かせるのは心配だけど、「移り人」として会うなら一人のほうが疑われない。
ドワーフの外交担当も同伴するらしいから、いざとなったら助けてもらえるよう王様にも頼んでおいた。
ルフナを見送り、薬草を手にする。
「んー、ちょっと劣化してる……」
「俺には変わりなく見えるけどな」
「ほんのちょっとだからね。高品質の薬は問題なく作れると思うけど、大森林以外で高品質の薬が作りにくい理由がわかった気がするよ」
コラツィオーネ国は、他と比べれば魔素の多い国だと聞いている。
だから薬草の劣化も最小限で済んでいるんだろうけど、大森林に近いコボルトの村では劣化はなかった。
「ちゃちゃっと作っちゃうね」
ガルとディンブラは繊細な作業に向かないのもあって、ぼくを見守っている。
「そう言やぁ、勇者と戦うのか?」
「わからない。もし次会ったときも、誰かを傷つけようとするなら戦うけど……」
そもそも戦闘は苦手……というより、経験がなかった。
「ルフナに稽古をつけてもらおうかな」
「身を守るには必要だが、戦闘自体は俺らに任せりゃいい」
「でも目の前でガルたちが傷つくのを見るのは嫌だよ」
「かすり傷ぐらいどうってことねぇさ。後方から支援してくれりゃあいいだろ」
勇者パーティーにいた黒髪の女の子を思いだす。
あの子のように、後ろから魔法を使えばいいのかな。
「……リゼが戦ったら、一瞬で片がつくのでは?」
「ぼく弱いよ?」
「あーディンブラが言いてぇのはあれだよ、木の加工みたいにスパッと敵を攻撃すりゃ済むってことだろ」
「スパッと……」
勇者がガルに向かって剣を振っていた。
もし攻撃をガルが避けられなかったら……これ以上は、想像したくない。
けど、向き合わないといけないことだ。
ガルがぼくの頭をポンポンする。
「いいんだよ、リゼは守ることを考えてくれりゃあ」
「ううん、ぼくだって攻撃することに忌避感はないんだ」
ガルやルフナ、ディンブラのためだったら、相手が傷ついても心は痛まない。
「今までしてこなかったのは……自分でも、怖いんだと思う」
他人を傷つける力は、間違ってしまえば身内をも傷つける。
「力が敵に向かってるときはいいけど、もし混乱して味方に向いたらって」
「憤怒状態か? リゼなら大丈夫だと思うがな。これまでだって怒るときはあったが、憤怒状態にはなってないだろ?」
「ディンブラのときは森を傷つけちゃったよ」
「力の及ぶ範囲が、予想以上に大きかったからだろ。お前は、自分が思ってる以上に、冷静だよ」
そうだろうか、と首を傾げる。
自信はない。
「憤怒状態だったら、ディンブラみたいに話すらできねぇって。お前はルフナと話せてただろ」
頭に置かれるガルの手が温かい。
「ありがとう。いつだってガルは、ぼくを励ましてくれるね」
「当然だ。お前のためなら何だってしてやるよ。ほら、おっぱいでも揉むか?」
胸の下で腕を組んで、ガルがおっぱいを強調する。
「くっ、ガルのおっぱいは大好きだけど……!」
今は薬の調合中だし、ダメな気がする!
つい大好きだと口走ってしまったからか、今度は頬におっぱいを押し付けられた。
「ほらほら」
「ぐぬぬ」
むにっとする感触が堪らない。
「……こ、是も寄せれば」
「ディンブラは無理しなくていいからね」
みんな違って、みんな良いんだ。
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