ぼく、魔王になります

楢山幕府

文字の大きさ
上 下
49 / 61
本文

047

しおりを挟む
 これからは衝動的じゃなく、確固たる自分の意思で力を振るう。
 感情の波に、のまれないために。
 後悔しないために、表明する。

「容赦はしない。例え、相手が勇者でも」

 ゴォッ。
 消えていた松明の火が、背後で燃え上がった。
 後ろからくる熱風に、長い髪が揺れる。
 視線を向ければ、火と風の下級精霊が一緒になってはしゃいでいた。
 静寂に支配された部屋でも、彼らだけはいつも通りだ。
 ふっと頬が緩み、いつの間にか緊張していた体から力が抜ける。
 改めて顔を前に向ければ、ガルたちを除く、ドワーフ全員が床に頭を着けていた。
 乱入者を押さえ込んでいた人たちも、それぞれ平伏している。
 状況を理解できず目を瞬かせていると、通訳をしてくれていたルフナも、おもむろに片膝を着いた。

「エルフ一同、リゼ様のご意向に従います」
「オーガをまとめるのは任せろ。親父が張り切る」
「……是は一人だが、是の命はリゼのものだ」

 ガルがぼくの頭を撫でる。
 すぐ隣にはディンブラがいた。

「ありがとう三人とも。とても心強いよ。ぼく一人じゃ、何もできないから」

 すっかり話が大きくなっている気がするけど。
 ……大森林を守るためには、真剣に考えないとね。

「ドワーフさんたちも、もう頭を下げなくていいから」

 言いたいことは言った。
 あとは彼ら次第だ。
 様子を見る限り、これ以上悪いことにはならないかな?

「ーーーー!?」

 通訳するルフナを眺めていたら、ドワーフたちにどよめきが起こる。
 王様の顔が真っ青になり、乱入したドワーフが王様を睨んでいるようにも見えた。

「どうしたの?」
「リゼ様は火の精霊様と縁ある者か? と尋ねられたので、火の精霊王であるファロ様から祝福されていることを伝えました」

 ぼくの視線に気付いた王様が、壊れた人形にように何度も頭を上げては床に打ちつける。
 ゴンゴン音を鳴らす王様を、ぼくは慌てて止めた。

「いいから! あとはあなたたちの判断に任せるから……!」
「ドワーフはリゼ様の下僕だと言っています」
「とにかく、ぼくはエルフでしかないから」
「この際ですから、エルフの王でもあると伝えておきましょう」
「待って!? 勝手にそんなこと言ったら、みんな怒るよ!?」
「『移り人』を筆頭に、エルフは大歓迎ですが?」
「どういうことなの!? いきなり、そんな責任負えないからね……ぼくが責任持てるのはハーレムまで!」
「承知いたしました」

 大丈夫かな、大言壮語してなきゃいいんだけど。
 ぼくも人間語を勉強しよう……。
 場はルフナが治めてくれたので、ぼくは昨晩やり損ねた薬の調合にとりかかる。
 使わせてもらった分の補充もしないといけないしね。

「では、私はカネフォラ王国の使者と会ってきます」
「気を付けてね」

 一人で行かせるのは心配だけど、「移り人」として会うなら一人のほうが疑われない。
 ドワーフの外交担当も同伴するらしいから、いざとなったら助けてもらえるよう王様にも頼んでおいた。
 ルフナを見送り、薬草を手にする。

「んー、ちょっと劣化してる……」
「俺には変わりなく見えるけどな」
「ほんのちょっとだからね。高品質の薬は問題なく作れると思うけど、大森林以外で高品質の薬が作りにくい理由がわかった気がするよ」

 コラツィオーネ国は、他と比べれば魔素の多い国だと聞いている。
 だから薬草の劣化も最小限で済んでいるんだろうけど、大森林に近いコボルトの村では劣化はなかった。

「ちゃちゃっと作っちゃうね」

 ガルとディンブラは繊細な作業に向かないのもあって、ぼくを見守っている。

「そう言やぁ、勇者と戦うのか?」
「わからない。もし次会ったときも、誰かを傷つけようとするなら戦うけど……」

 そもそも戦闘は苦手……というより、経験がなかった。

「ルフナに稽古をつけてもらおうかな」
「身を守るには必要だが、戦闘自体は俺らに任せりゃいい」
「でも目の前でガルたちが傷つくのを見るのは嫌だよ」
「かすり傷ぐらいどうってことねぇさ。後方から支援してくれりゃあいいだろ」

 勇者パーティーにいた黒髪の女の子を思いだす。
 あの子のように、後ろから魔法を使えばいいのかな。

「……リゼが戦ったら、一瞬で片がつくのでは?」
「ぼく弱いよ?」
「あーディンブラが言いてぇのはあれだよ、木の加工みたいにスパッと敵を攻撃すりゃ済むってことだろ」
「スパッと……」

 勇者がガルに向かって剣を振っていた。
 もし攻撃をガルが避けられなかったら……これ以上は、想像したくない。
 けど、向き合わないといけないことだ。
 ガルがぼくの頭をポンポンする。

「いいんだよ、リゼは守ることを考えてくれりゃあ」
「ううん、ぼくだって攻撃することに忌避感はないんだ」

 ガルやルフナ、ディンブラのためだったら、相手が傷ついても心は痛まない。

「今までしてこなかったのは……自分でも、怖いんだと思う」

 他人を傷つける力は、間違ってしまえば身内をも傷つける。

「力が敵に向かってるときはいいけど、もし混乱して味方に向いたらって」
「憤怒状態か? リゼなら大丈夫だと思うがな。これまでだって怒るときはあったが、憤怒状態にはなってないだろ?」
「ディンブラのときは森を傷つけちゃったよ」
「力の及ぶ範囲が、予想以上に大きかったからだろ。お前は、自分が思ってる以上に、冷静だよ」

 そうだろうか、と首を傾げる。
 自信はない。

「憤怒状態だったら、ディンブラみたいに話すらできねぇって。お前はルフナと話せてただろ」

 頭に置かれるガルの手が温かい。

「ありがとう。いつだってガルは、ぼくを励ましてくれるね」
「当然だ。お前のためなら何だってしてやるよ。ほら、おっぱいでも揉むか?」

 胸の下で腕を組んで、ガルがおっぱいを強調する。

「くっ、ガルのおっぱいは大好きだけど……!」

 今は薬の調合中だし、ダメな気がする!
 つい大好きだと口走ってしまったからか、今度は頬におっぱいを押し付けられた。

「ほらほら」
「ぐぬぬ」

 むにっとする感触が堪らない。

「……こ、是も寄せれば」
「ディンブラは無理しなくていいからね」

 みんな違って、みんな良いんだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ゲーム世界の貴族A(=俺)

猫宮乾
BL
 妹に頼み込まれてBLゲームの戦闘部分を手伝っていた主人公。完璧に内容が頭に入った状態で、気がつけばそのゲームの世界にトリップしていた。脇役の貴族Aに成り代わっていたが、魔法が使えて楽しすぎた! が、BLゲームの世界だって事を忘れていた。

兄たちが弟を可愛がりすぎです

クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!? メイド、王子って、俺も王子!? おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?! 涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。 1日の話しが長い物語です。 誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

禁断の祈祷室

土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。 アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。 それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。 救済のために神は神官を抱くのか。 それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。 神×神官の許された神秘的な夜の話。 ※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。

丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。 イケメン青年×オッサン。 リクエストをくださった棗様に捧げます! 【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。 楽しいリクエストをありがとうございました! ※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

処理中です...