ぼく、魔王になります

楢山幕府

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 スオーロをコボルトの村に戻してから、すぐにルフナは鳥でコラツィオーネ国に伺いを立てた。
 返事を待つ間もコボルト村に滞在させてもらい、薬草摘みに励むことにする。
 コラツィオーネ国には調合用の器具も揃っているみたいだから、少なくなっている高品質の薬を現地で調合できたらと思ったんだ。

「リゼの見識を広めるためにはじめた旅だが、俺のほうが色々教えられてる気がするな」
「エルフとしての知識なら、ぼくも持ってるからね。でもガルが教えたかったのは、別のことでしょう?」
「そうだな。リゼはどうだ? 村にいたときより、少しは考えが変わったか?」

 ガルの大きな手は繊細な作業には向かないので、今日は荷物持ちとして同行してもらっている。
 ちなみに今は、薬草を摘むため腕には抱えられていない。
 ディンブラもガルと同じで、彼はルフナと一緒に行動していた。

「んー、ぼくが思ってるより、魔力って人に影響するんだなぁって」
「ハーレムは特にそうだな。自分の魅力についても、わかってきたか?」
「まぁ……ちょっとは?」
「頼りねぇ返事だな」

 笑いながら頭をガシガシ撫でられる。
 ドライアドのニルギリや、ドラゴニュートのディンブラのことを思えば、人に好かれやすいのかとは思う。
 けどコボルトにとってはマズルが魅力の基準だし、種族によるところも大きいんじゃないかって。

「ぼくが精霊王様たちに祝福を受けたエルフだから……」
「それを引っくるめてリゼだろ? 第一、お前が気に入らない奴だったら、ディンブラも理解したいとか、守りたいとか言わねぇっての」
「そっか、ディンブラはちゃんとぼくを好いてくれてるんだね」
「俺もな。魔力の多さはきっかけにはなるだろうが、ディンブラだって、俺やルフナだって、生きるのには困ってねぇんだ。それでも誰かの傍にいたいって思うんだから、それだけ魔力に関係なく、リゼのことが好きなんだよ」
「うん……」

 ガルの言葉が嬉しくて、腰に抱き付く。

「第一夫人って役得だよなぁ。お袋が口を酸っぱくして言ってたのがよくわかるぜ」
「そうなの?」
「こうしてリゼを独占してても、文句言われねぇからな」

 いつものように抱き上げられて、唇が重なる。
 間近に迫った端正な顔を、ぼくは撫でた。

「ぼくもガルを独占できて嬉しい」
「ったく、んな笑顔見せられたら、ますます惚れるだろうが」

 くすぐるようなキスの雨が降ってきて、頬が緩むのを止められない。

「リゼ、愛してる」
「そんなこと言われたら、ますます惚れちゃうよ?」
「おう、惚れろ惚れろ」
「ガル、ぼくも愛してる」
「おう……」

 ガルの顔を覗き込むようにして言うと、ガルは表情を崩落させた。
 真っ赤に染まる頬に、今度はぼくのほうから口づける。

「ガル、大好き」
「……溶けちまいそうだから、それぐらいで勘弁してくれ」

 ちゅっちゅと音を立てて追い打ちをかけているところで、視界の端に漆黒の翼が映る。
 離れた場所で採取していたルフナとディンブラが戻ってきたみたいだ。

「……やはり、放置プレイは辛い」
「精進です。はぁはぁ」
「いつからいたの?」

 聞けば、ぼくらがイチャつきだしたときにはいたみたい。

「声をかけてよ」
「お邪魔するのも悪いと思いまして。私も、リゼ様のことを心の底より愛しております」
「こ、是も愛しているぞ!」

 負けじと声を上げるディンブラが可愛かった。
 幸せ者だなぁと思う。
 そしてこの幸せを守りたいとも。

「ルフナも、ディンブラも、愛してるよ」
「ありがたき幸せ……!」
「あ、ありがたき」
「ディンブラは、ルフナの真似をしなくていいからね?」

 また余計なことを教わってないか、心配になるから。

「そろそろコボルトの村に戻りますか? 私はここでも構いませんが」
「ここで何する気!?」
「なるほど、まだ放置プレイは続行と……」

 スオーロや勇者のことでお預けになっていた分、ルフナの思考が怪しくなっているようだった。
 さっきぼくとガルが見せ付けてしまったせいかもしれない。

「じゃあ小屋に帰ったらね。先に体も洗いたいから」
「あぁ、リゼ様……リゼ様……!」

 ルフナが抱き上げられたぼくの足に縋ろうとするのを、ガルがかわす。

「大丈夫か、こいつ?」
「エッチしたら治まるといいね……」
「せ、せめておみ足の臭いだけでも……!」

 答える代わりに、ガルは村へ向かって走り出した。
 薬草が入った籠を持つのも忘れない。

「ルフナの奴、変態度が増してねぇか!?」
「りーぜーさーまぁー!」
「怖っ!? 何で追いつけるんだよ!?」
「エルフは森を駆けるのが得意だから……」

 平地だと、ガルには追いつけないだろう。
 脚力に任せて走るガルとは違い、より確かな足場をルフナは瞬時に選んでいる。

「リゼ様、お慕いしておりますっ!」
「気持ちは十分、伝わってるよ!」

 そこは安心して欲しい。
 ぼくは血走ったルフナの目を見て、今後射精を我慢させるのは止めようと心に誓った。
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