ぼく、魔王になります

楢山幕府

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 コボルト村にある建物は、当然だけど、コボルトの大きさに合わせて建てられている。
 唯一客人用に大きく作られた家は、重症患者を受け入れているので使えない。
 と、いうことで。

「ここでも小屋を建てることになるなんてな」

 トレントの集落に続き、ガルが生活しやすいよう、小屋を新築することになった。
 コボルトにとっては、小屋とは呼べないみたいだけど。
 北の森が近いから木にも困らない。
 空いてる場所もあり、建ててくれるなら喜んで! と村長をはじめとした村人全員が、尻尾を大きく振って快諾してくれた。可愛い。

「コボルトって見てると和むよね」
「陽気で素直だしな」
「……リゼは、ここでも現地妻を娶るのか?」
「そういう意味じゃないから!?」

 小屋を建てるので、ディンブラは勘違いしたらしい。
 コボルトは可愛いと思うけど……むしろ可愛すぎて性欲が湧かなかった。
 それにコボルトにとっても、他種族は対象外のようだ。マズルっていう、口から鼻にかけて高くなっている顔の部分が重要で、美醜の基準にもなっている。

「リゼ様、リゼ様! 手伝うことある!?」

 切った木を運んで村に戻れば、すぐにコボルトたちが寄ってくる。
 まぁ、ぼくは木と一緒にガルに運ばれてたんだけど。
 ルフナのおかげでエルフの印象が良いおかげか、コボルトたちはガルやディンブラよりぼくに懐いた。単に背が近いからかもしれない。

「どうしよう、ガル。木の加工を手伝ってもらう?」
「そうだな」

 コボルトも自分たちで家を建ててるだけあって、木材建築には精通していた。
 大きさが違うことだけ注意してもらい、加工を任せる。
 ぼくは一緒に摘んできた薬草で、簡単な薬を作ることにした。
 高品質な薬のおかげで重傷者の治療が進み、次に必要になったのは、ルフナの言う通り、大量の低品質な薬だった。完治までには長期的な治療が必要になるからだ。
 それにエルフの村と違って、他種族の村では薬不足なのが常で、あるに越したことはない。

「……リゼは、ハーレム以外も助けるのか」

 精霊にお願いするぼくと違って、道具を使ったコボルトの加工はそれなりに時間がかかる。
 休憩がてら、ガルとディンブラはぼくの近くで腰を落ち着かせていた。

「共存っていうんだよ。ドラゴニュートと違って、ぼくたちは集団で暮らすほうが生活が楽なんだ」
「俺とリゼみたいに、それぞれ得意なことが違うからな。助け合って暮らしてんだよ」

 ディンブラには理解しにくいだろうから、ぼくとガルで説明を重ねる。

「リゼなら、命令すればいい」
「強者ならってことかな? 命令する立場の人もいるよ。村長とかね。けど、そういう人にも、ちゃんと役目がある。長期的な付き合いを考えたら、助け合うのが一番いいんだ」
「お前も、俺たちと長く付き合いたいなら、助け合いが必要ってこった」
「是にできることなら何でもする」
「即答かよ。お前、案外現金だな」
「リゼと一緒にいられるなら、何だってする」
「無理のない範囲でね」

 ドラゴニュートの独立した一強のイメージとは違い、ディンブラはとても献身的だ。まだ若いからかな?
 年齢を聞いたら四十才だった。ぼくと十しか変わらない。

「今だって索敵とか、ガルの手伝いとかで助かってるから」
「だがお触りは禁止だぞ」

 そっとぼくに触れようとしていたディンブラの翼をガルが叩く。

「……まだダメなのか」
「せめてルフナが戻ってきてからだな」

 しかし……とディンブラの視線が、ぼくのあるところに集中した。

「気になって仕方がない」
「あー、気持ちはわかる」

 ガルもディンブラと同じところを見る。

「スカートが気になるの? それともハイソックス?」
「その間に見える部分だな」

 今日の装いは、トレントの集落で受け取った暗めの赤のワンピースに、黒のハイソックスだ。

「間っていうと……太もも?」
「スカートに隠されてるんだが、たまに白い肌がチラチラして気になんだよ。ルフナは絶対領域とか言ってたが」
「あぁ、ママのこだわりだね」

 絶対領域は、ママから聞かされたことがある。
 見えそうで見えなかったり、肌の一部分だけ意図的に見せるデザインをいうみたい。
 太ももの一部を見せるのは典型的なんだとか。

「えっと、太ももだとソックスの締め付けが、柔らかさを強調していいんだっけ?」
「そう……! 締め付けでリゼの柔肌が盛り上がってな! それが発酵中の白パンを連想させんだ!」

 ぐっとガルは鼻息荒く拳を握る。

「き、気に入ってもらえてるんだったら、ママも喜ぶと思うよ」
「義母さんは天才だ!」
「……発酵中の白パン?」
「白いパンだ。エルフの村で食える、柔らかいパンだよ」
「酵母は持ってきてるから、あとで作ろうか。焼く前にどんな感じか見せてあげるね」

 訊けば、ドラゴニュートはオーガと同じ肉食で、魔獣のお肉以外は食べたことがないみたい。

「でもここまでは野菜も気にせず食べてたよね?」
「リゼが作ったなら、何でも」
「うまいからな。エルフと生活すると、舌が肥えて仕方ねぇ」

 ディンブラの言葉をガルが引き継ぐ。お口に合って嬉しいです。

「話してると腹が減ったな。ちょっと魔獣を狩ってくる。ディンブラはリゼの護衛についてくれ。お触りは禁止だぞ?」
「……」
「おい、返事」
「……わかった。護衛に異論はない」

 ディンブラに興奮した様子はないけど、絶対領域が気になるのはガルと同じらしい。
 ディンブラの背後では、ずっと大きな尻尾がうねっていた。
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