ぼく、魔王になります

楢山幕府

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「ディンブラには、私が使っていた拡張用の道具を譲ることにしました」
「是、拡張頑張る」
「そ、そう」

 本人がやる気なら止めないけど、拡張されたら、もうぼくが責任を取るしかないよね……?

「……ドラゴン形態なら、今すぐできる」
「ドラゴン形態って、小屋ぐらいの大きさがあるよね!?」
「ツッコむところはそこなのか?」

 ガルに指摘されてハッとする。

「獣姦の趣味もないよ!?」

 それがディンブラだとわかっているなら、なくもな……いやいや、節操なさ過ぎでしょ、ぼく。
 おかしい、昨日は戸惑っていたはずなのに、一夜過ぎてディンブラをハーレムに受け入れようとしている自分がいる。

「まぁ、俺らはもう認めてるし、あんま気にすんな」
「多種族のハーレムを作れるなら、多いに越したことはありませんからね」

 ぼくを介して、ハーレムで力が増強できることをルフナに教えられる。

「私たちが本能的にリゼ様に足を開くのと同じで、リゼ様がハーレムを求められるのも自然のことです」
「お前と一緒にされたくはねぇが。ちゃんと相手は条件つけて選んでるから安心しろ」
「うん、ガルたちのことは信用してるよ」

 ハーレムが増えるスピードに、ぼくが対応しきれていないだけだ。

「俺の親父だって、十二人も娶ってるんだぞ? リゼならもっといけるだろ」
「ガルからすれば、まだまだ少ないんだ?」
「おうよ」

 バシバシと背中を叩かれて、気分が軽くなる。
 そうだ、お義父さんにガルを預けて良かったと思ってもらうためにも、もっと頑張らないと!

「現地妻のことも忘れないでね」

 ドライアドのニルギリがふわりと視界に現れる。

「忘れてないよ。魔力は十分そう?」
「えぇ。といっても、先はまだ長いけどね。また今度会ったときに精液を飲ませて」
「わかった」

 ドライアドに性欲がないせいか、実験に協力しているような感がある。
 けれどニルギリにとっては、子どもを育む大切な行為だ。
 できる限りのことはしようと思う。

「俺は小屋を作っとくぜ」

 現状だとトレントの集落では雨避けができない。今後も立ち寄ることを考えたら、小屋があったほうが便利だ。
 ガルは馴れた手つきで木材を組立ながら、トレントにも指示を出していた。
 小屋といってもオーガ基準なので、ぼくからしたら大きいんだけどね。
 程なくして、耳馴染みのある木を打つ音が響きはじめる。

「さて、リゼ様。ディンブラから兄弟が襲われたときの話を詳しく訊いたのですが、彼らを襲ったのは勇者パーティーで間違いなさそうです。特徴が一致しました」
「いつの間に訊いてたの?」

 昨夜から早朝にかけて、あれだけ盛っていたのに。

「ディンブラの股間が張り詰めて痛そうだったので、気分を落ち着かせてあげようと、リゼ様が眠られている間に」
「ディンブラ、大丈夫だった?」

 いくら何でも兄弟を亡くしたときのことは思いだしたくなかっただろうと、ディンブラを見上げる。

「……大丈夫。もう憤怒状態にはならない」
「特に恨みもないそうです」
「自然の理……弱い者は、生き残れない……」

 ドライアドの生態が、ぼくたちは丸っきり異なるように、ドラゴニュートの考え方も独特だった。
 考え方自体は、魔獣に近く思える。

「じゃあ復讐したいとは思わないの?」
「巣穴の子に、危害を加えられない限りは」

 仲間意識が低いのかな?
 よくよく考えれば、ドラゴニュートは一人で生活する。エルフやオーガのように集落を作ったりしないんだ。
 だったら……とぼくは考えながら口を動かす。

「関係性は違うけど、ガルやルフナのことは、同じ巣穴にいるもの同士だと思って欲しい。ぼくにとって彼らはとても大切な人だから」
「承知した」
「あ、ディンブラも大切だからね! 嫌なことは嫌だって言うんだよ?」
「そのあたりのことは、私からもよく教えておきます」

 種族が異なれば、慣習も変わる。
 考え方にだって違いがあって当然だ。
 無理のない範囲で、お互いを理解し合えればいいと思う。
 ルフナは人に教えるのが上手だから、任せておけば問題は……うん、性に関してだけは、確認するようにしよう。
 話を勇者パーティーに戻す。
 気になったのか、ドライアドのニルギリも会話に入ってきた。

「ディンブラさんの兄弟を襲ったのが勇者パーティーなら、リゼ様たちが会ったのも、ディンブラさんを追いかけてきたからかしら?」
「その可能性が高いでしょう。ドラゴンは希少価値の高い素材です。相手が手負いであるなら、欲が出ても不思議ではありません」
「……リゼが欲しいなら、やる」

 ディンブラの申し出にぎょっとするけど、訊けば鱗は生え替わるようで、数枚ぐらいなら簡単に取れるそうだ。

「お義母様に贈られてはどうでしょう? 欲しくても手に入らない素材なので、喜ばれますよ」
「じゃあ一枚だけ貰おうかな。服の装飾に使うなら、一枚で十分だろうし」

 問題はどうやって運ぶかだ。
 指輪を介しての運搬は、ママからぼくへの一方通行だった。

「時間がかかってもいいなら、トレントに運ばせるわよ? エルフの村なら安心して行かせられるわ」

 エルフがトレントを攻撃することはない。
 集落の近くには他の魔獣も近寄らないので、お使いに出しても心配がないらしい。

「じゃあお願いしようかな」
「任せて。一番足の速い子に任せるわね」

 ぼくが歩く半分ぐらいのスピードかな? 急ぐ必要はないから、問題ない。
 任されたトレントは、やる気を見せて枝を震わせた。

「それで、リゼ様たちはこれからどうするの? 勇者パーティーが川を渡ってこっちに来た様子はないけど」
「ということは東へ引き返したのでしょうか……」

 大森林は大陸の西南に位置している。
 ディンブラは大森林の東にある森から、北の森へと飛来したらしい。
 勇者パーティーがディンブラを追ってきたなら、東から大森林へ入ったんだろう。

「大森林のすぐ北には、勇者を召喚したカネフォラ王国があります。引き返したならば、来た道を戻り、東から大森林の縁側をなぞるよう北上して、いったん国に帰ることが考えられますね。遭遇を避けるなら、東に向かうのは避けたほうが良さそうです」
「じゃあ北の森へ行く?」

 ルフナの使っていた本来のルートも、北の森を通って大森林を抜けるものだ。

「そうですね、脅威がなくなった今、北の森へ向かいましょう」
「……人間の国へ向かうのか?」
「国境の街で勇者の情報を集めたいところですね。リゼ様たちには直前の村で待機していただいて、街には私一人で入りましょう」

 ディンブラも人間の国には近付きたくないようだった。
 身に起きたことを考えれば当然か。

「ルフナ一人で行くの?」
「元々一人で行商していましたら、そのほうが怪しまれません。リゼ様製の薬が手に入るなら、街の人間も口が軽くなりますよ」

 どちらにしろガルは人間の街へは連れていけない。
 だったらルフナの邪魔にならないよう、待機してるほうがいいだろうか。

「話はまとまったか? だったらこいつを借りていくぞ」

 そう声をかけてガルが、ディンブラを連れていく。
 エルフと違い、ドラゴニュートは見た目以上に力が強い。
 オーガのようにまとめて木材を運ぶことはできないものの、一本なら簡単に扱えるようだった。

「完成した小屋は、あたしが責任を持って管理するわね。うふふ、小屋で主人の帰りを待つなんて、現地妻っぽいわ~」

 ガルたちが小屋を建てる間、ぼくとルフナは小さめの木材を使って、家具の製作に取りかかった。
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