ぼく、魔王になります

楢山幕府

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 トレントの集落に戻ったぼくたちは、川であったことをドライアドのニルギリに伝えた。

「わかったわ。川の方面一帯に幻惑の魔法をかけるから、そっちには近寄らないようにしてね。リゼ様だったら大丈夫だと思うけど」

 魔法は、個人の魔力や装備による魔力耐性で無効化できる場合がある。
 ぼくの場合は、ママの服で耐性が強化されてるのもあって、毒以外の状態異常にもまずかからなかった。
 そういう意味では、ガルの腰布もママ製だから耐性があるはずだけど、念のためみんなで川のほうには近寄らないことを決める。

「しかし一難去ってまた一難ね。相手が人間となれば、トレントたちも襲われそう」
「勇者がいましたから、もし遭遇した場合は戦わず木に扮してください」
「そうね、勝ち目はなさそうだし、もしものときは動かないよう言い聞かせておくわ」

 ルフナの言葉に、ニルギリは神妙な顔付きになる。
 ニルギリにとっては勇者よりも、人間の動向が気になるようだった。

「いるのは少人数なのよね?」
「勇者を合わせて四人組だよ」
「だったら無理な伐採や、森を焼いたりはしないわよね?」

 それは大丈夫だとルフナが請け負う。
 人間の場合、伐採には相応の装備と荷車が必要だからだ。森を焼くにしても、少人数ですることはないという。
 ニルギリはほっとするものの、人間の集落周辺では、森がどんどんなくなっていることを、ぼくたちに語った。
 木の精霊とも呼ばれるドライアドにとっては、由々しき事態のようだ。

「大森林は魔族や魔獣が多く住むから、まだ手を付けられていないみたいだけど……」

 たまに外から逃げ込んでくるドライアドがいて、そういった子から人間の情報が伝えられるという。

「人間もエルフのように間伐の範囲で木材を使ってくれたらいいんですけどね。きっと人口の増加に、木の供給が追いついていないんでしょう」
「木は色んなことに必要だもんね」

 材料然り、燃料然り。

「魔導具で代用できるものもありますが、人間は魔力が少ないですからね」
「照明に魔導具使うのはエルフぐらいだろ」
「そういえば、ガルの家だとロウソクを使ってたね」

 オーガは個人の魔力の大半を身体強化に使うから、エルフのように魔法の扱いには馴れていない。
 他の魔族も身体強化に使うことが多いから、確かに魔導具を使うのは少数派かも。

「あ、話の途中だけど、今ドラゴニュートが目を覚ましたみたいよ!」

 ドラゴニュートを見張っていたトレントの動きを、ニルギリが教えてくれる。
 ぼくたちはすぐに彼の元へ向かった。

「トレント……?」

 まだ意識がはっきりしていないのか、体を起こしたドラゴニュートはぼんやりと自分を囲むトレントたちを見上げている。
 体を綺麗にしたときに気付いたけど、起きた顔を見ても若そうに感じられた。
 ドラゴニュートもエルフと同じ長命種だから、ぼくと同じくらいか少し年上なぐらいかな? 身長はぼくよりずっと高そうだけど。
 ルフナがぼくたちを代表して、青年を窺う。

「体の具合はどうですか?」
「エルフ? 体……そうだ、これは最後に溺れて……」

 意識を失う前のことを思いだしているのか、俯いた拍子に長い前髪で青年の顔が隠れる。
 濡れたような黒髪に、漆黒の翼は夜をまとっているようだった。
 上半身は裸で、下だけ革のパンツを履いている。これが人の姿のときの基本なのかな?
 瞼が重たそうだけど、憤怒状態じゃないときは、瞳も黒い。

「兄弟は……ダメだったか……?」
「兄弟がいたんですか?」
「ちょうど巣立ちを迎えて、飛び立ったばかりだった。兄弟とは別の方角に向かったのだが、兄弟の悲鳴が聞こえて……駆け付けたときには遅かった……」

 記憶を反芻するように、ドラゴニュートは語る。
 彼が憤怒状態になった理由がわかった。兄弟の死が、引き金になったんだ。

「人間に襲われていた。是も戦ったが、人間は強かった……隙を見て逃げたが、深い傷を負った……あの剣は質が悪い」
「北の森に逃げたのはあなたですか?」
「北……? そうだな、北へ逃げた。けど痛くて……痛くて……」

 北の森でも度々意識を失っていたみたいだ。

「やっと傷が塞がってきたが……兄弟のことを思いだして……」
「落ち着いた頃に、憤怒状態が再発したんですね。それでこちらに飛んできたんですか?」
「おそらく……塞がった傷が開いた感覚があった……痛い雨に打たれたときは、死を覚悟した」

 痛い雨は水の槍のことだろう。話を聞いていると申し訳なくなってくる。

「でも前より傷が治ってる……どうしてだ?」
「回復薬を塗ったからでしょう。意識が戻ったらなら、飲んでください」

 言うなり、ルフナはドラゴニュートへぼく製の回復薬を渡す。
 迷うことなくドラゴニュートは飲み干した。

「お、おお……力が漲る……」

 心なしか、黒髪にも艶が戻ったように見えた。

「そういえば名前は何て言うの?」
「……」

 ドラゴニュートがガルを見て、ぼくを見る。
 そして目をゆっくり見開くと、動きを止めた。
 魔法で攻撃したのがぼくだってバレたかな?

「えっと、あのときはぼくもルフナ、きみの目の前にいるエルフを助けるので必死だったんだ」

 今はやり過ぎたことを反省していると伝える。

「お互い様でしょう。我を忘れていたとはいえ、先に襲ってきたのはそちらです」
「……すまなかった。迷惑をかけたみたいだ」

 ルフナの言葉に、再起動したドラゴニュートはぼくやドライアドのニルギリ、トレントたちを見回して頭を下げた。

「是の名前は、ディンブラ。……ところで、エルフはドラゴニュートとつがえるのか?」

 頭を上げたディンブラは、熱のこもった瞳でぼくを見た。
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