ぼく、魔王になります

楢山幕府

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「ガル、昼食を持ってきたよ! 休憩にしよ!」
「おう、もうそんな時間か」

 滴る汗を拭いながら、ガルが振り向く。
 張りのある褐色の肌が陽光を受けて、輝いて見えた。
 ぼくは盛り上がった筋肉を伝う汗から目が離せなくなる。

「言付けてくるから、ちょっと待っててくれ」
「うん」

 エルフとオーガは、種族の垣根を越えて協力することが多い。
 非力なエルフは力仕事をオーガに頼り、忍耐力のないオーガは薬や服作りをエルフに頼る。
 今、ガルの村のオーガたちは、ぼくの村で家の建設を手伝ってくれていた。
 大きな丸太を数本まとめて運ぶ姿は圧巻だ。
 仕事の対価は、物で支払われる。
 特にママの服は、魔力耐性があるからオーガたちにも人気だった。
 オーガは額の両端に角があるのと、体が大きくて筋肉質なこと以外は、エルフと体の構造が変わらない。
 けどオーガって、エルフから見たら下着しかつけないんだよね……。
 しかも布を巻いて、紐で結ぶだけっていう簡単さ。
 とくに男の人は、腰布を巻くだけで胸を隠さないから、目のやり場に困る。
 だってエルフの薄い胸板と違って、オーガは男の人でもおっぱいが大きいんだよ!?
 力んだら硬くなるけど、普段はぽよんぽよんで柔らかいんだよ!?
 隠そうよ!?

「待たせたな。じゃあ行くか」

 ガルのおっぱいも大きかった。
 ぼくは軽々と抱き上げられて、ガルの片腕に腰かける格好になる。
 太ももには、ふにっとした弾力が。
 うぅ、ドキドキする……。

「今日は黄色のワンピースか。丈が長いんだな」
「昼食が終わったら、薬草の採取をする予定だからね」

 いつもより丈の長いスカートにガルの視線が向く。
 ガルと違って、今日のぼくは長袖で露出が少なかった。
 藪を通ったりするからね。
 ちらっと、何気ない動作でガルがスカートの裾を捲る。

「ガル!?」
「中が気になったんだよ」
「ぼくの足があるだけだよ!?」
「隠されると気になるだろうが」
「えええ」

 ぼくは隠されてないガルのおっぱいが気になるけど!?
 意識しちゃダメだと思うほど、意識しちゃうのは何でかな。
 気を紛らわそうと、間近にある端正な横顔を見る。
 ガルは白髪を刈り上げて、短髪にしていた。
 おかげで男らしい太い首筋や、項が露わになっている。
 力仕事をしていたからか、汗を拭ってもそこには濃い体臭が残っていて――。

 だ、ダメだ、ダメだ! これじゃ悪循環……!

 というか、こんなに素肌をさらされて興奮するなっていうほうが無理!
 全身からフェロモンが出てるんじゃないかな!?
 ガルは目つきが険しいから強面に見えるけど、彫りの深い顔は整ってるし!
 どこを取っても格好良いって何!!?
 しかも。

「あんま見んなよ。照れるだろ」

 うきゅーーーっ! 恥ずかしがって頬を染めるとか、反則。
 可愛い。格好良いのに可愛いがすぎる。
 好きが溢れて胸が苦しい。

「おい、大丈夫か?」
「ぴゃい!?」

 あば、あばばばばば。
 胸を押さえていたせいか、心配されておでこをごっつんこされた。
 ごっつんこされた!
 こ、これ、ガルの高い鼻先がぼくのとあたって……。

「チッ、今日もおままごとかよ」

 ガルとの急接近に目が回りそうになっていたところで、冷や水が浴びせられる。

「アミーコか。俺はこれから昼休憩に行くんだよ」
「チッ、だったらテメェ一人で行けばいいだろうが」

 オーガのアミーコは、ガルの幼なじみだ。
 そしてぼくの恋敵でもある。
 ぼくとガルが二人でいると、絶対邪魔してくるんだよね。今も睨まれてるし。

「別にいいだろ。お前も昼にしろよ」
「ケッ、言われるまでもねぇよ」

 ガルにとっては幼なじみだから、アミーコを邪険にすることはない。
 それがわかっているからか、アミーコもガルに嫌われない程度に話しかけて――ぼくたちの邪魔をして――去るのが恒例だ。
 しかし去り際、アミーコがガルの肩を撫でるのをぼくは見逃さなかった。
 つい頬を膨らませるぼくに、ガルが笑う。

「あいつのことは気にすんな」
「ぷすー」

 ちょんちょんと突かれて、すぐに空気は抜けた。

 土埃が舞う建設現場から離れて、人気のない木陰を昼食場所に選ぶ。
 持ってきたバスケットから布を取り出し、地面に敷いたらセッティングは完了!
 腰を下ろして、ガルと一緒にサンドウィッチを頬張る。
 うん、やっぱりパンは、酵母を使った柔らかいのがおいしいよね。

「味付けがたまんねぇな」

 ガルは挟まれている照り焼き肉の、とろりとした甘辛いタレに舌鼓を打つ。
 オーガは肉食で、その調理法も焼くだけというシンプルなものだ。
 対してエルフは薬を扱うのもあって、調味料や野菜を使った料理が得意だった。
 植物の効能に詳しいから、お肉と合わせることで、より効率的に魔力が摂取できるのを知ってるんだよね。
 体の大きさが違うぼくたちだけど、必要な魔力量に差はあまりない。
 むしろぼくのほうが、ガルより摂取量が多いくらいだ。
 けどたくさん食べるのは大変。
 だから楽においしく摂取できるよう、料理の研究にも余念がなかった。いくら味が良くても、食べ過ぎると飽きちゃうからね。

「そういえば、成人の儀は無事に終わったのか?」
「んぐっ」

 訊かれるとは思ってたけど、予想以上に動揺が走って、ぼくは口の中のものをそのまま飲み込んだ。
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