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本編
神子は万能なようです
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「すみません、一から説明してもらえますか」
言いながら、エヴァルドたちにもクレアーレ神の姿が見えているのかと振り返る。
そこには微動だにしないエヴァルドとファビオがいた。
月光を受ける宙に舞う塵さえも、位置が固定されている。
「ときを止めてるんだ。だからぼくたちの会話は彼らには聞こえないよ」
「わかりました。では時間をかけても大丈夫ですね」
「うう、怒らないでね?」
「内容によります」
わかってやっているのか、瞳を潤ませながらクレアーレ神はあざとくイリアを見上げる。
「見た目の通り、ぼくは神として幼くてさ。存在を保つために世界を創造する必要があったんだけど、一から作り出すのは難しくて……」
だからファンタジアの世界観を真似たのだという。
というか、コピーした。
その際、イリアにGMが入っていたのは、クレアーレ神にとっても想定外だったらしい。
「現実での私はどうなっているんです?」
「それは安心して! 君はコピーされてここにいるから、元の君とは別の個体になってるんだ。コピー元は変わらない生活を送ってるよ」
「裏を返せば、私は戻れないんですね?」
「うう、ごめんなさい……」
案外、ログアウトできないと知ったときより衝撃は少なかった。
親を悲しませたり、迷惑をかける事態になっていないとわかったからだろうか。
「けど、あの、この世界での生活は保障するよ! というか、君はぼくたち神々よりも万能だからね!」
「どういうことですか?」
神々より万能だと言われて、首を傾げる。
普通に考えるとあり得ない。
しかしクレアーレ神は、よくぞ訊いてくれました! と言わんばかりに、月光で金髪を煌めかせながら大きく両手を開く。
「ぼくは世界を創造したけど、神のあり方はファンタジアに準ずるんだ! ぼくたちは人に加護を与えられても、接触することはできない。例外はきみとソトビトだね。ただし、ソトビトの場合も」
「イベント――条件を満たさなければ神とは会えない、ということですか?」
クレアーレ神の言葉をイリアが引き継ぐと、美少年姿の神は満足げに頷いた。
「流石GM、話が早いね! あとぼくたちは、手を貸せても自分が司る範囲に限定されるんだ。水の神アクアなら、火にまつわることには手出しできない。その点、君は違うでしょ?」
イリアは職業にとらわれずスキルが使える。
それこそ水であれ火の魔法であれ、何でも。
「だから万能なんですね」
「それだけじゃないよ! 管理画面を使えば、人々の行動ログも見られるでしょ? ぼくたち神も観察はできるけど、過去を遡れるのは時間の神テンポだけなんだ。他にもGMとしてシステムが扱えるから、きみは万能なんだよ」
だから生活は安心してね! とクレアーレ神は太鼓判を押した。
「『神子の守り人』も相性の良い人を選んだから、頼るといいよ!」
「体の?」
相性といわれ、つい聞き返してしまった。
クレアーレ神はきょとん、としたあとケラケラ笑う。
「魂のだよー!」
「……魂の概念があるんですね。どうして第一子のヴィルフレードは選ばれなかったんですか?」
笑われてから恥ずかしさがこみ上げ、誤魔化すように質問を重ねる。
「単純にヴィルフレードより弟のエヴァルドのほうが、きみと相性が良かったんだ。彼のこと嫌いじゃないでしょ?」
「そういうことなんですね……」
エヴァルドに嫌悪感を抱かない自分が不思議だったけれど、これで合点がいった。
けれど何故か心は晴れない。もやもやとしたものが胸に残る。
「結局、エヴァルドは私に付き合わされただけなんですね」
もしイリアが単なるNPCとしてコピーされていたら、「神子の守り人」は順当にヴィルフレードだったかもしれない。
GMとして巻き込まれてしまったために、エヴァルドの運命もねじ曲がってしまったのだ。
俯くイリアを見て、クレアーレ神は首を傾げる。
「それはちょっと違うかなー?」
「どうしてです? 私がいなければ……」
「んー、あり得た未来については、芸術と予言の神アポロの管轄だから、ぼくは答えを持たないけど……イリアのさっきの発言は、エヴァルドの意思を無視してない?」
聞き返されて、体が固まる。
辛うじて動いた口が、言葉を綴った。
「でも、魂の相性が良かったせいで」
「魂に心を操る強制力はないよ。あったらそれは、プログラミングされたものと何ら変わらないよね? 魂はあくまで、その人の一部に過ぎないんだ。まぁ、多少の影響はあるから、選んだんだけど」
イリアとエヴァルドの出会いは、神の思し召しに過ぎないんだとクレアーレ神は笑う。
「覚えておいて、ぼくは創造の神クレアーレ。この世界の神々が人に与える力は微々たるものなんだ。そしてきみは万能の神子。きみが会いに来てくれたら、神々は喜んで姿を現すよ」
そしてクレアーレ神は姿を消した。
止められていた時間が動き出す。
神に会えたら確認したかったこと。欲しかった答えを得られたのかは、イリアにもわからない。
けれど全ての答えをもらうには、管轄外だよ、とクレアーレ神に笑われる気がした。
言いながら、エヴァルドたちにもクレアーレ神の姿が見えているのかと振り返る。
そこには微動だにしないエヴァルドとファビオがいた。
月光を受ける宙に舞う塵さえも、位置が固定されている。
「ときを止めてるんだ。だからぼくたちの会話は彼らには聞こえないよ」
「わかりました。では時間をかけても大丈夫ですね」
「うう、怒らないでね?」
「内容によります」
わかってやっているのか、瞳を潤ませながらクレアーレ神はあざとくイリアを見上げる。
「見た目の通り、ぼくは神として幼くてさ。存在を保つために世界を創造する必要があったんだけど、一から作り出すのは難しくて……」
だからファンタジアの世界観を真似たのだという。
というか、コピーした。
その際、イリアにGMが入っていたのは、クレアーレ神にとっても想定外だったらしい。
「現実での私はどうなっているんです?」
「それは安心して! 君はコピーされてここにいるから、元の君とは別の個体になってるんだ。コピー元は変わらない生活を送ってるよ」
「裏を返せば、私は戻れないんですね?」
「うう、ごめんなさい……」
案外、ログアウトできないと知ったときより衝撃は少なかった。
親を悲しませたり、迷惑をかける事態になっていないとわかったからだろうか。
「けど、あの、この世界での生活は保障するよ! というか、君はぼくたち神々よりも万能だからね!」
「どういうことですか?」
神々より万能だと言われて、首を傾げる。
普通に考えるとあり得ない。
しかしクレアーレ神は、よくぞ訊いてくれました! と言わんばかりに、月光で金髪を煌めかせながら大きく両手を開く。
「ぼくは世界を創造したけど、神のあり方はファンタジアに準ずるんだ! ぼくたちは人に加護を与えられても、接触することはできない。例外はきみとソトビトだね。ただし、ソトビトの場合も」
「イベント――条件を満たさなければ神とは会えない、ということですか?」
クレアーレ神の言葉をイリアが引き継ぐと、美少年姿の神は満足げに頷いた。
「流石GM、話が早いね! あとぼくたちは、手を貸せても自分が司る範囲に限定されるんだ。水の神アクアなら、火にまつわることには手出しできない。その点、君は違うでしょ?」
イリアは職業にとらわれずスキルが使える。
それこそ水であれ火の魔法であれ、何でも。
「だから万能なんですね」
「それだけじゃないよ! 管理画面を使えば、人々の行動ログも見られるでしょ? ぼくたち神も観察はできるけど、過去を遡れるのは時間の神テンポだけなんだ。他にもGMとしてシステムが扱えるから、きみは万能なんだよ」
だから生活は安心してね! とクレアーレ神は太鼓判を押した。
「『神子の守り人』も相性の良い人を選んだから、頼るといいよ!」
「体の?」
相性といわれ、つい聞き返してしまった。
クレアーレ神はきょとん、としたあとケラケラ笑う。
「魂のだよー!」
「……魂の概念があるんですね。どうして第一子のヴィルフレードは選ばれなかったんですか?」
笑われてから恥ずかしさがこみ上げ、誤魔化すように質問を重ねる。
「単純にヴィルフレードより弟のエヴァルドのほうが、きみと相性が良かったんだ。彼のこと嫌いじゃないでしょ?」
「そういうことなんですね……」
エヴァルドに嫌悪感を抱かない自分が不思議だったけれど、これで合点がいった。
けれど何故か心は晴れない。もやもやとしたものが胸に残る。
「結局、エヴァルドは私に付き合わされただけなんですね」
もしイリアが単なるNPCとしてコピーされていたら、「神子の守り人」は順当にヴィルフレードだったかもしれない。
GMとして巻き込まれてしまったために、エヴァルドの運命もねじ曲がってしまったのだ。
俯くイリアを見て、クレアーレ神は首を傾げる。
「それはちょっと違うかなー?」
「どうしてです? 私がいなければ……」
「んー、あり得た未来については、芸術と予言の神アポロの管轄だから、ぼくは答えを持たないけど……イリアのさっきの発言は、エヴァルドの意思を無視してない?」
聞き返されて、体が固まる。
辛うじて動いた口が、言葉を綴った。
「でも、魂の相性が良かったせいで」
「魂に心を操る強制力はないよ。あったらそれは、プログラミングされたものと何ら変わらないよね? 魂はあくまで、その人の一部に過ぎないんだ。まぁ、多少の影響はあるから、選んだんだけど」
イリアとエヴァルドの出会いは、神の思し召しに過ぎないんだとクレアーレ神は笑う。
「覚えておいて、ぼくは創造の神クレアーレ。この世界の神々が人に与える力は微々たるものなんだ。そしてきみは万能の神子。きみが会いに来てくれたら、神々は喜んで姿を現すよ」
そしてクレアーレ神は姿を消した。
止められていた時間が動き出す。
神に会えたら確認したかったこと。欲しかった答えを得られたのかは、イリアにもわからない。
けれど全ての答えをもらうには、管轄外だよ、とクレアーレ神に笑われる気がした。
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