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第2話 異世界へようこそ

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「起きて!! ねぇ!! お願い、目を開けて!!!」


もう朝か? 今日は「マキシム」でなんかイベントあったっけ?
てか俺、一人暮らしなのに誰の声だ?


寝ぼけながら薄目を開けるとそこには絵に描いたような美しい少女が涙目で必死に俺に声をかけていた。


「ねぇ!! 死んじゃダメ!! お願いシュタルケ!! 目を覚まして!!!」


んん? シュタルケ? 誰だそれ? まぁいいか。
かわいい子に起こされて起きてやりたいけど体が動かない。
マブタもこれ以上開かないし、頭がグワングワンしてきた。


あぁだめだ。目が回るぅーーーー。









「おい! 早く起きん.....これ! この戯け.......起きん......」



また声が聞こえる。あの娘まだそばにいてくれてるのか?
目まいはおさまっているし体の調子も先ほどよりいい。



ガバッと飛び起きた。目の前には先ほどの美少女.....ではなくシワシワの溝だらけの顔がそこにあった。


「ぎゃあぁぁぁ!!!!」

「うぎゃあぁぁぁ!! 驚かすなバカ者! それに ぎゃあ とは失礼な! せっかく看病してやったのに。」


そこには小汚い婆さんが一人立っていた。
周りを見渡すが美少女の姿はどこにもない。


「アレ? ここどこ? さっきいた女の子は?」

「いるじゃろここに! 女の子が! 」


溝だらけのバアさんは薄いローブをたくし上げてガリガリの皮膚が垂れまくった汚いケツをプリンプリンと俺の目の前で左右に振る。きつい香辛料のような香りに目が染みた。


「うぎゃあぁぁ!!! 目が!! 目がぁぁああああ!!!」

「お主、失礼な奴じゃな。軽いジョークじゃろうが。」

「ホントに目が染みたんだよ!! ちくしょう。」


染みる目をゴシゴシ手で拭いてバアさんに向き直る。


「てかよく自分で女の子とか言えるな。年齢考えろよ。もう一人いただろ。俺の事看病してくれてた娘が。」


ずっと看病してくれてたことのお礼とか言いたい。
そして普通にお近づきになりたい。


「お主、目が覚めておったのか。やらしい奴じゃの。こっそりパンツとか覗こうとしておったんじゃろ。ワシの。」

「お前の香辛料パンツなんか覗かねぇよ!!」

「だ、誰が香辛料じゃ!! セクハラじゃ!! 今の発言。誰かー!! 大人の人呼んでー!! この人捕まえてー!!」

「もう! だから、もう一人いた女の子はどこだよ!!」

「そんなもんおらんぞ。ずっとお主を看病してたのはわし一人じゃ。」

「はぁ? じゃあんたと入れ違いか? 必死に声かけてくれてたのに。」

「じゃからそんなもんはおらん。お主が死んで目が覚めるまでずっと横におったのはわしだけじゃ。」


「ずっと......ってちょっと待てよ。俺たしか杖で殴られて.....意識が......あれ? んん!!? あんたどっかで会ったことあるよな? 確か......お前!! あの時の、マキシムの時のババアじゃねぇか!!」

「うるさいのぉ。死んでも全く変わっとらん。ほんとうに男のくせにグチグチうるさい。」

「なんだと。元はといえばお前が俺の台に座るから......って......おい、今なんて言った?」

「あぁん!? うるさいといったんじゃよゴミムシ。臭い口を早く閉じてくれんか。」

「ムシ!? 俺が!? っていや、違う。今はそこじゃない。あんた俺の事......今.....死んだって......」

「はぁぁぁんん!!!! 何回もおんなじこと聞くんじゃないわい!! また殺されてぇのか!?」

「いや、めっちゃ短気。それこそパワハラ。ってまさか俺、あの時、杖で殴られて死んじゃったのか!?」

「次から次へとまくしたてるでないわ。今答えるじゃろうが。せっかちな奴じゃ。早い男はがっかりされるだけじゃぞ。」

「は、早、、お、、、俺はそうろうじゃね......」

「うるさいんじゃ!! 童貞!! 一回周りの景色でも見て落ち着かんか!!」


ど、ど、どどど......落ち着け。まぁいい。今はそれどころじゃない。
確かに興奮しすぎて周りが見えてないようだ。
落ち着いてみて思ったけど、外にいるのはわかってたんだが俺んちの近所にこんな草っぱらのところ......って......

おいおい。これって......俺は周囲を見渡す。今の会話の流れ、見渡す限り地平線の彼方まで続くような草原、そして先ほどからチラチラと視界に入る普段では見たことがないような奇妙な生き物たち。


馬なのかキリンなのかわからない首の長い動物。
顔はネズミだが体が鳥みたいな生き物。
空には水族館で小さい時に見たエイみたいなのが飛んでいる。


俺、マジで天国に来ちゃったのか!?


「おい、聞いておるのか!?」

「へ?」


考えすぎていてババアの説明を全く聞いていなかった。


「せっかく説明してやったのに。わしは同じことを2回言うのが大嫌いなんじゃ。」

「あ、すまん、ばあさん。今の状況に混乱してて......ちゃんと聞くからもう一度説明してくれないか?」

「ああん!? なんだって!?」

「いや、もう一度説明を......」

「ああ? 聞こえんぞ。最近の若いもんは声が小さくてかなわん。」

「このババア。今度は俺が殺してやろうか?」


ババアの舐めた態度に苛立ちを覚える。


そもそもこんなことになったのは、このババアのせいだ。
それなのに謝罪の一つもなくこうやって高圧的な態度で接してくる。
不安が心を侵食しているのを感じる。


「まぁ時間とともに理解できてくるものもあるよ。急いですべてを知ろうとした者はすべからず不幸も一緒に呼び寄せる。歴史がそう証明しとるよ。」


こうなった原因がよくもぬけぬけと。
意味が解らないし良いようにあしらわれてる気もする。


「それに......」


一度間を置きババアが答える。


「周りを見てみい。ここはフィールドじゃ。村や町みたいな安全地帯じゃないぞい。すでに囲まれておる。」


フィールド?......聞きなれない言葉に首をかしげる。


「おい、フィール.......」
「小僧、黙っとれ!!」


突然の怒声に一瞬ビクッとしたがその声のおかげで感覚が敏感になった。
今まで感じたことのない気配が辺りかしこに感じられハッと周りを見渡す、先ほどまで呑気に歩いていた奇妙な野生動物はどこを探しても見当たらず、当たりは俺ら二人だけが広大な草原にポツンと立っていた。


何も見えないのに何かいる。
確かに感じる気配に冷汗が頬を伝う。


「何かいる!! なんかいるぞバアさん!!」
「ほう、危機察知能力は合格点じゃの。」


ホエッホエっと怪鳥のような不気味な笑い声を発し、ババアは持っていた身の丈ほどもある杖を地面にトンっとついた。
すると地面からババアを中心に波紋のように光の輪が広がり、今まで綺麗な青空だった空は紫色に変わっていった。


「天国やべぇ......」


俺はただただ事の変化についていけず唖然と立ち尽くしていた。
見える範囲の空が紫色になった時、突然奴らは姿を現した。


地面に円形の影が俺らの周りを囲んでいた。影を作るようなもの何もなくなぜそこが黒くなっているのかわからない。その影は不気味に前後左右に動き俺たちを威嚇しているように見えた。


「なぁに。あの闇の濃度では大したもんは出てこんよ。」


その言葉を皮切りにウヨウヨとその影から全身真っ黒な人型の何かが這い出てきた


「なんだこいつら!!」


動揺からか声がいつもより大きく出ている気がする。
しかしババアは冷静に


「わしらとは生きてる世界が違う者たち、簡単に言えば魔物になれんかった者じゃ。といっても今の世界で魔物のなるだけの闇の魔力を集めるなんてことは不可能に近いがな。」


訳のわからん説明をしたと思えばホゲホゲと笑い声を上げ、ババアは左手を前にかざす。すると手の平に光の粒子のようなものが舞い出し一点に集まっていく。そしてそれは辞典のような分厚い本の形になり光は消えていった。

なにもない所から突然本が出てきた。それはそれでまたびっくりしてしまいギャーと大きな声を出してしまう。


「本当にうるさい奴じゃな。ひとまず黙って見ておれ。」


一喝するとすぐさま宙に浮いている本を手に取りページをめくっていく。
その光景に影たちは一瞬たじろいだ様子があったがすぐにターゲットをババアに絞り一斉に襲い掛かってきた。


「最近のやつらはみんなせっかちじゃのー。女にはもっと優しく接っせないかんぞ。」


迫る来る影に目もくれずババアは目を閉じ何やらブツブツと独り言を言い始めた。
なにしてんだバアさん。やばい! このままじゃ!!


「おい!! バアさ......」
「だからうるさいっと言っとるじゃろ!!!!」


ババアの怒声と同時に辺りの地面がひび割れ、そこからものすごい勢いの炎が壁のように立ち上った。炎はゆうに5メートル近い高さにまで登っている。

そのとんでもない勢いの炎に影たちは巻き込まれ、瞬く間に黒い体が塵散りとなり跡形もなく消えてしまった。


爆風に俺も吹き飛ばされコロコロと地面を転がり、ベチャと潰れたように地面に仰向けに転がる。まるで爆発に巻き込まれたような勢いだった。


しだいに風が収まり壁のように反りかえっていた炎が小さくなっっていった。まだ周囲は熱く中に見えるババアの姿はユラユラと蜃気楼のように揺らめいていた。すでに分厚い辞典は持っておらず何食わぬ顔でまだ燃えている草の中をまっすぐに歩き俺の方へ近づいてきた。


物凄い火力だったことは見てわかる。黒い影が消し飛んでしまった。
しかしどう考えてもこれは火薬による爆発でもなければ燃料を燃やしたような炎でもないと思う。匂いとかそういうのもあるけどなぜだか違う気がする。そして俺はこの炎の答えに当てはまるかもしれない知識を一つだけ知っていた。おそらく俺の知識が正しければこれは......


「魔法という代物じゃ。おぬしにはなじみのないものじゃろ。まぁなんじゃ、ここにおるとまた変な輩に絡まれるでな。場所を変えるぞい。」


気づけば空の色は元の澄み切った青色に戻っており空をエイが無尽に飛んでいる。


「これ何なんだよ......」


長年のギャンブルで培った感覚からこの状態はいい状況ではないという事だけはわかった。でもここで説明を催促するとまたあのおっかないスカ―とかいうのが襲ってくるかもしれない。ましてやこの状況で俺にはババアについていくしか選択肢がない。


そしてそんなことをわかっているように説明もないままトコトコと先へ歩いて行ってしまうババア。


こんなの後ろをついていくだけしかできないじゃないか。
今の現状に理不尽なんかでは到底表現できない憤りを感じる。
とはいえ悔しいが今は仕方ない。


少し不貞腐れるようにだらけた歩き方でババアの跡を追いかける。
今できる、最大の反抗だ。我ながら情けないが。


「あっそうじゃ。おぬしにこれを渡しとくぞい。」


突然ババアは俺の方を振り返り小さな小瓶を投げてきた。
一瞬取り損ねそうになり


「おっとっと。あぶねぇな。なんだよこれ?」


「さっきの魔法のようなものが入っておる。瓶が割れると発動するようになっておるから気を付けるんじゃぞ。」

「おい......んじゃさっき投げた時、落として割ってたら俺は丸焼きになってたって事か!?]


「はよ行くぞブサイク。日が暮れてまうわい。」


ぐぬぬぬぬ......お前に使ってやろうかこの小瓶.......


「てか待って。これって俺も戦うことになるって事? ねぇ? 聞いてる?」

「.........。」


自己中ババアの後ろをついていくのは癪だがひとまずどうすることもできないので小走りでババアの後ろをついていくことにした。


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