ダンジョンはモンスターでいっぱい!! ~スライムと成り上がる最弱冒険者の物語〜

なか

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最終ラウンド

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丈夫丈夫じょうぶ じょうぶ。あなた丈夫ですね。」

 自己強化の副作用なのか? それともブルーノ本来の狂気性なのか? 目を見開いたような形相に空気が悪寒を感じたように震える。

 ビリビリと肌を突き刺す振動を受け ガラリ とガレキを押しのけアレンが立ち上がる。
 深刻ではないがダメージは受けている。口からペッと血を吐き出しブルーノを睨む。

「丈夫なあなたは何度叩いても壊れない。そうでしょう?」

 異常な興奮状態により言葉が乱れだしている。
 今の一瞬のやり取りでアレンより自分の方が数段実力が上なのを見抜いたようだ。
 人間相手に本気で戦うことなどもはやないと思っていたが、それに耐えうるこの男は間違いなく人類最強になる素質があるのだろう。私を除けばだが。

 最早もはや人類という認識はない。
 いうなれば”神”により近い生命体という認識なのだろう。

 とはいえ素質だけならあいつの方が......
 いやここで考えても仕方ない。
 この男を殺す。今はそれだけ......

 自らを狂信する男。それゆえに手に入れたこの力。
 おぞましい悪意の力に大気が震えをやめない。

 アレンもまだ力が足りていないことは感じた。
 今封印が解けた中、それでも一人ではこの男を倒せない。

 しかし不安はなかった。
 いつもアレンは一人では何もできなかった。
 今もそう。これは一人の力ではない。

 俺は一人で戦っているわけじゃない。

 強い気持ちが黒い瘴気を光に変えていく。

 光をおびだすアレンにブルーノはケラケラと笑っていた。
 笑うしかない。
 まだ何かあるのかと。まだ楽しませてくれるのかと。

 人類のためモンスターの研究を始めたブルーノ。
 彼の予想は正しくダンジョンとは外部からのいかなるものもモンスター化させてしまう作用があった。
 強靭な体とは裏腹に失っていく人間性。

 危機を感じたブルーノはそれを防ぐ研究を始める。
 しかしいつしか自身も力に浸食され、かつての使命を失念してしまった。

 彼は神ではない。もはや完全なモンスターと化してしまったのだろう。
 誰も彼を止めることはできない。

 なぜかそんな映像がアレンの頭に流れ込んできた。
 ダンジョンではしばしばみられる現象。ディアドラの時も。
 ただアレンも事の正しさを問うつもりはない。だがそれでも......

「ダンジョンのせいにするな!! モンスターのせいにするな!! お前がそこに堕ちたのはお前自身の弱さのせいだろ!!」

 あふれ出た気持だった。憧れていた冒険者。未知の世界ダンジョン。
 自らを試すための試練だと、何事もうまくいかないときはいつもそう考えていた。
 しかしその世界はブルーノから見れば真逆の世界。

 人を捕食する怪物のように映るダンジョン。
 しかし今やそれに最も近しい存在になりつつある。

「なら君ならどうしたというのだ。ある日気づいてしまったんだ。このダンジョンの本質に。初めは救おうとした人間の醜さに!!! 汚れていたのは人間だ!!! ここのモンスター共は実にシンプルで美しいルールしか持ち合わせていない。何かわかるか!? それは強さだ!! 強いモンスターはさらに下の階層で強い魔素を浴びさらに強くなれる。そうしてあいつらは下の階層へと潜っていくのだ!! しかし考えてもみたまえよ。モンスターが強くなり下の階を目指す。笑えるだろ。そうさ、人とモンスターの行動は同じだ。お前らはモンスターを殺す。モンスターは人を殺す。私も人とモンスターを殺す。それだけの事なのだよ!! だが人間は建前や理屈をこねる。ダンジョンにおいてそれは醜く無粋な物でしかない!! あぁ醜い人間どもよ。この世界では人間は必要としない。より強く魔素を求めた者がこの世界のルール。そしてそれはもう人間とは呼べない存在となるのだよ。わかるかアレン君!!!!」

 まくし立てるよう感情に任せて言葉をぶつけるブルーノ。
 その言葉と共にブルーノはその強靭すぎる脚力で地面を破壊しながらアレンの元へ走ってくる。

「お前は多くを殺し過ぎた。そして仲間を殺そうとした。ニアを殺そうとした。
 だから、ここで止まれよブルーノぉぉぉおおおお!!!!」

 アレンもブルーノに向かいまっすぐ走り出す。
 両者のスピードが触れ合い止まる。空気が歪み後から鈍い金属の衝突音が響く。

 ブルーノの拳とアレンの鬼丸がギリギリと押し合いをする。
 下からブルーノがケリを繰り出す。それをアレンは膝で受け止める。
 片足同士でさらに押す力は強くなる。

 しかし徐々に押し込まれるアレン。
 やはり総合的にブルーノの方が何枚も上手なのである。

「クックック......潰してやるぞ!!! アレンぐぅぅぅぅんんん!!!!!」
「うぐぐぐぐ。」

 地面に押し込まれながら必死に耐えるアレン。
 しかしこの力にあらがう手がない。

 すでに鬼丸の瘴気で地面を支えてはいるがそれすらも含めて押し込まれていく。

「主よ。まずいぞ。このままでは潰されてしまうぞ。」
「うぐぐぐぐぐぐ!!!」

 言葉を返す余裕がない。
 ブルーノは今にも食らいつくように口を開けながら恐ろしい力で押し込んでくる。


 くそ!! これでも足りないのか!!


 アレンが自身の力のなさを悔やむ顔を見せた時、突然ブルーノの顔が側面から吹き飛ばされてバコッバコッと地面に叩きつけられながら吹き飛ばされていった。

「うう.....なんだ? 何が起こったんだ?」

 鍔迫り合いの反動でまだあちこちが痺れているアレン。
 先ほどまでブルーノがいたところを見ると。

 気高い銀色のフサフサの毛並みは誇らしげなまでに今も敵を睨み油断のかけらもなくそこに立ち尽くす。
 狼の名に恥じぬ孤高の獣。


 狼王 ディアドラ 


 その姿が目の前にあった。


「待たせたな我が主よ。なにぶんしつこい敵だったものでな。力さえ戻れば何という事はないがな。」
「ディアドラ!! よかった。無事だったのか!!」


 ふふんと笑みを浮かべながらも目は鋭くブルーノの方へ向けられている。


「本気で蹴ったのだがな。なかなかタフな奴だ。」
「だろ、大変だったんだぜ。あいつメチャメチャ強えーんだよ。」



 アレンは急に心が軽くなった気がした。
 まさにアレン自身もマイナスの心で戦おうとしていたことに今気づいた。

 吹き飛ばした先でブルーノは大したダメージもなく立ち上がろうとしている。


「どこのどいつですか? 楽しい時間に横やりを入れたのは? なんだ犬っころじゃないですか。あの依代を見た時に何か関係しているとは思っていましたがね。ウォーウルフ.......。」

 ユラユラと立ち上がりうつむいていた顔が徐々に上がっていく。もはや人間のころの雰囲気はまるでない。
 瞬間、蹴りだした地面が爆発したように吹き飛びブルーノがアレン達に飛んでくる。

 恐るべきスピードにアレンもかわすのではなく受けを選ぶ。


「壊してやるぞぉぉぉおおお!!! アレンくぅぅぅうううんんん!!!!!」


 極度の興奮状態により理性が半壊しているブルーノ。
 守りも一切ない攻撃極ぶりの一撃が襲い掛かろうとしていたその時、ブルーノの真上から強烈な雷が落ちてきてその体を感電させた。
 コンマ何秒だがその隙にアレンはブルーノのわき腹に刀を通す。


 ブシュウウウウウ!!!!!!


 血が噴き出るがやはり体が硬く傷は浅い。感電の解けたブルーノがアレンを睨み顔を掴もうと手を伸ばす。
 そこにディアドラがケリを繰り出す。しかしそれもブルーノは首を強引に曲げ間一髪でかわす。
 だがその直後2発目の雷がブルーノを襲った。


「ぐぎぎぎぎぎぎいいいいい!!!!!!!」


 硬直する体ではガードもまともにできずアレンとディアドラの渾身の蹴りを腹部に受けてズサササササと足の裏を地面に引きずりながら後ろに下がっていく。


「マジか。直撃なのに。油断してないときの攻撃はあんまり通らないのか。にしてもナイスタイミングだったぞ。」

「きゅぴぴぴぴ!!!」

 そこには水色のスライムが身の丈以上もある刀  雷切 を振り回しながら嬉しそうに跳ねていた。
 まだ雷切にはピリリリと電気がほとばしっていた。

「これで戦力はそろったぜ。悪いがこっちは総力戦といかせてもらう。」

 不思議とアレンから先ほどの怒りや憎しみはなくなっていた。
 驚くほど冷静になっているアレン。知らず知らずとアレン自身もブルーノの闇に飲まれかかっていたという事に少し反省しながらもゴンゾウとディアドラに感謝を感じる。

 へんな感覚だ。こいつらとなら俺はダンジョンがどんなものだって自分を見失わずにやれる気がする。

 ブルーノの言うモンスターの純粋さ。人間の愚かさ。それを理解できないわけではない。
 だが人間の愚かさを体現してしまったのがブルーノである。奴も知らずに人の持つ闇に飲まれてしまった一人なのであろう。


 そんな中、蹴られたお腹をパタパタと手で払い、ブルーノがギロっとアレン達を睨む。


「おそろいのようで。それでは最終ラウンドと行きましょうか。」


 先ほどまでの異常な興奮状態が解け、また冷静な言葉遣いに戻ったブルーノ。
 鈍い闇が淡い光を喰らおうと強く大胆にうごめきだした。
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