ダンジョンはモンスターでいっぱい!! ~スライムと成り上がる最弱冒険者の物語〜

なか

文字の大きさ
上 下
57 / 58

最終ラウンド

しおりを挟む
丈夫丈夫じょうぶ じょうぶ。あなた丈夫ですね。」

 自己強化の副作用なのか? それともブルーノ本来の狂気性なのか? 目を見開いたような形相に空気が悪寒を感じたように震える。

 ビリビリと肌を突き刺す振動を受け ガラリ とガレキを押しのけアレンが立ち上がる。
 深刻ではないがダメージは受けている。口からペッと血を吐き出しブルーノを睨む。

「丈夫なあなたは何度叩いても壊れない。そうでしょう?」

 異常な興奮状態により言葉が乱れだしている。
 今の一瞬のやり取りでアレンより自分の方が数段実力が上なのを見抜いたようだ。
 人間相手に本気で戦うことなどもはやないと思っていたが、それに耐えうるこの男は間違いなく人類最強になる素質があるのだろう。私を除けばだが。

 最早もはや人類という認識はない。
 いうなれば”神”により近い生命体という認識なのだろう。

 とはいえ素質だけならあいつの方が......
 いやここで考えても仕方ない。
 この男を殺す。今はそれだけ......

 自らを狂信する男。それゆえに手に入れたこの力。
 おぞましい悪意の力に大気が震えをやめない。

 アレンもまだ力が足りていないことは感じた。
 今封印が解けた中、それでも一人ではこの男を倒せない。

 しかし不安はなかった。
 いつもアレンは一人では何もできなかった。
 今もそう。これは一人の力ではない。

 俺は一人で戦っているわけじゃない。

 強い気持ちが黒い瘴気を光に変えていく。

 光をおびだすアレンにブルーノはケラケラと笑っていた。
 笑うしかない。
 まだ何かあるのかと。まだ楽しませてくれるのかと。

 人類のためモンスターの研究を始めたブルーノ。
 彼の予想は正しくダンジョンとは外部からのいかなるものもモンスター化させてしまう作用があった。
 強靭な体とは裏腹に失っていく人間性。

 危機を感じたブルーノはそれを防ぐ研究を始める。
 しかしいつしか自身も力に浸食され、かつての使命を失念してしまった。

 彼は神ではない。もはや完全なモンスターと化してしまったのだろう。
 誰も彼を止めることはできない。

 なぜかそんな映像がアレンの頭に流れ込んできた。
 ダンジョンではしばしばみられる現象。ディアドラの時も。
 ただアレンも事の正しさを問うつもりはない。だがそれでも......

「ダンジョンのせいにするな!! モンスターのせいにするな!! お前がそこに堕ちたのはお前自身の弱さのせいだろ!!」

 あふれ出た気持だった。憧れていた冒険者。未知の世界ダンジョン。
 自らを試すための試練だと、何事もうまくいかないときはいつもそう考えていた。
 しかしその世界はブルーノから見れば真逆の世界。

 人を捕食する怪物のように映るダンジョン。
 しかし今やそれに最も近しい存在になりつつある。

「なら君ならどうしたというのだ。ある日気づいてしまったんだ。このダンジョンの本質に。初めは救おうとした人間の醜さに!!! 汚れていたのは人間だ!!! ここのモンスター共は実にシンプルで美しいルールしか持ち合わせていない。何かわかるか!? それは強さだ!! 強いモンスターはさらに下の階層で強い魔素を浴びさらに強くなれる。そうしてあいつらは下の階層へと潜っていくのだ!! しかし考えてもみたまえよ。モンスターが強くなり下の階を目指す。笑えるだろ。そうさ、人とモンスターの行動は同じだ。お前らはモンスターを殺す。モンスターは人を殺す。私も人とモンスターを殺す。それだけの事なのだよ!! だが人間は建前や理屈をこねる。ダンジョンにおいてそれは醜く無粋な物でしかない!! あぁ醜い人間どもよ。この世界では人間は必要としない。より強く魔素を求めた者がこの世界のルール。そしてそれはもう人間とは呼べない存在となるのだよ。わかるかアレン君!!!!」

 まくし立てるよう感情に任せて言葉をぶつけるブルーノ。
 その言葉と共にブルーノはその強靭すぎる脚力で地面を破壊しながらアレンの元へ走ってくる。

「お前は多くを殺し過ぎた。そして仲間を殺そうとした。ニアを殺そうとした。
 だから、ここで止まれよブルーノぉぉぉおおおお!!!!」

 アレンもブルーノに向かいまっすぐ走り出す。
 両者のスピードが触れ合い止まる。空気が歪み後から鈍い金属の衝突音が響く。

 ブルーノの拳とアレンの鬼丸がギリギリと押し合いをする。
 下からブルーノがケリを繰り出す。それをアレンは膝で受け止める。
 片足同士でさらに押す力は強くなる。

 しかし徐々に押し込まれるアレン。
 やはり総合的にブルーノの方が何枚も上手なのである。

「クックック......潰してやるぞ!!! アレンぐぅぅぅぅんんん!!!!!」
「うぐぐぐぐ。」

 地面に押し込まれながら必死に耐えるアレン。
 しかしこの力にあらがう手がない。

 すでに鬼丸の瘴気で地面を支えてはいるがそれすらも含めて押し込まれていく。

「主よ。まずいぞ。このままでは潰されてしまうぞ。」
「うぐぐぐぐぐぐ!!!」

 言葉を返す余裕がない。
 ブルーノは今にも食らいつくように口を開けながら恐ろしい力で押し込んでくる。


 くそ!! これでも足りないのか!!


 アレンが自身の力のなさを悔やむ顔を見せた時、突然ブルーノの顔が側面から吹き飛ばされてバコッバコッと地面に叩きつけられながら吹き飛ばされていった。

「うう.....なんだ? 何が起こったんだ?」

 鍔迫り合いの反動でまだあちこちが痺れているアレン。
 先ほどまでブルーノがいたところを見ると。

 気高い銀色のフサフサの毛並みは誇らしげなまでに今も敵を睨み油断のかけらもなくそこに立ち尽くす。
 狼の名に恥じぬ孤高の獣。


 狼王 ディアドラ 


 その姿が目の前にあった。


「待たせたな我が主よ。なにぶんしつこい敵だったものでな。力さえ戻れば何という事はないがな。」
「ディアドラ!! よかった。無事だったのか!!」


 ふふんと笑みを浮かべながらも目は鋭くブルーノの方へ向けられている。


「本気で蹴ったのだがな。なかなかタフな奴だ。」
「だろ、大変だったんだぜ。あいつメチャメチャ強えーんだよ。」



 アレンは急に心が軽くなった気がした。
 まさにアレン自身もマイナスの心で戦おうとしていたことに今気づいた。

 吹き飛ばした先でブルーノは大したダメージもなく立ち上がろうとしている。


「どこのどいつですか? 楽しい時間に横やりを入れたのは? なんだ犬っころじゃないですか。あの依代を見た時に何か関係しているとは思っていましたがね。ウォーウルフ.......。」

 ユラユラと立ち上がりうつむいていた顔が徐々に上がっていく。もはや人間のころの雰囲気はまるでない。
 瞬間、蹴りだした地面が爆発したように吹き飛びブルーノがアレン達に飛んでくる。

 恐るべきスピードにアレンもかわすのではなく受けを選ぶ。


「壊してやるぞぉぉぉおおお!!! アレンくぅぅぅうううんんん!!!!!」


 極度の興奮状態により理性が半壊しているブルーノ。
 守りも一切ない攻撃極ぶりの一撃が襲い掛かろうとしていたその時、ブルーノの真上から強烈な雷が落ちてきてその体を感電させた。
 コンマ何秒だがその隙にアレンはブルーノのわき腹に刀を通す。


 ブシュウウウウウ!!!!!!


 血が噴き出るがやはり体が硬く傷は浅い。感電の解けたブルーノがアレンを睨み顔を掴もうと手を伸ばす。
 そこにディアドラがケリを繰り出す。しかしそれもブルーノは首を強引に曲げ間一髪でかわす。
 だがその直後2発目の雷がブルーノを襲った。


「ぐぎぎぎぎぎぎいいいいい!!!!!!!」


 硬直する体ではガードもまともにできずアレンとディアドラの渾身の蹴りを腹部に受けてズサササササと足の裏を地面に引きずりながら後ろに下がっていく。


「マジか。直撃なのに。油断してないときの攻撃はあんまり通らないのか。にしてもナイスタイミングだったぞ。」

「きゅぴぴぴぴ!!!」

 そこには水色のスライムが身の丈以上もある刀  雷切 を振り回しながら嬉しそうに跳ねていた。
 まだ雷切にはピリリリと電気がほとばしっていた。

「これで戦力はそろったぜ。悪いがこっちは総力戦といかせてもらう。」

 不思議とアレンから先ほどの怒りや憎しみはなくなっていた。
 驚くほど冷静になっているアレン。知らず知らずとアレン自身もブルーノの闇に飲まれかかっていたという事に少し反省しながらもゴンゾウとディアドラに感謝を感じる。

 へんな感覚だ。こいつらとなら俺はダンジョンがどんなものだって自分を見失わずにやれる気がする。

 ブルーノの言うモンスターの純粋さ。人間の愚かさ。それを理解できないわけではない。
 だが人間の愚かさを体現してしまったのがブルーノである。奴も知らずに人の持つ闇に飲まれてしまった一人なのであろう。


 そんな中、蹴られたお腹をパタパタと手で払い、ブルーノがギロっとアレン達を睨む。


「おそろいのようで。それでは最終ラウンドと行きましょうか。」


 先ほどまでの異常な興奮状態が解け、また冷静な言葉遣いに戻ったブルーノ。
 鈍い闇が淡い光を喰らおうと強く大胆にうごめきだした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?

おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました! 皆様ありがとうございます。 「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」 眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。 「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」 ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇ 20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。 ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視 上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【商業企画進行中・取り下げ予定】さようなら、私の初恋。

ごろごろみかん。
ファンタジー
結婚式の夜、私はあなたに殺された。 彼に嫌悪されているのは知っていたけど、でも、殺されるほどだとは思っていなかった。 「誰も、お前なんか必要としていない」 最期の時に言われた言葉。彼に嫌われていても、彼にほかに愛するひとがいても、私は彼の婚約者であることをやめなかった。やめられなかった。私には責務があるから。 だけどそれも、意味のないことだったのだ。 彼に殺されて、気がつけば彼と結婚する半年前に戻っていた。 なぜ時が戻ったのかは分からない。 それでも、ひとつだけ確かなことがある。 あなたは私をいらないと言ったけど──私も、私の人生にあなたはいらない。 私は、私の生きたいように生きます。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

処理中です...