ダンジョンはモンスターでいっぱい!! ~スライムと成り上がる最弱冒険者の物語〜

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圧倒的な力の差にたじろぐブルーノ。
何もできないというより理解すらできない絶対攻撃に防御すら伴わない。

「ぐっ!! 私が!! この私が!! 」

あまりの腹立たしさに子供のように地団駄を踏む。

「貴様という人間はその皮をたった1枚剥がせばこの通りだな。私に楯突いた無礼、死を持って償うが......。」

言葉の途中でニアは体をガクっと落とし膝をついてしまった。

「ニア!!」

クラウスが叫ぶ。
形勢は圧倒的にニアだったのだが、ブルーノの何かしらの呪印にかかったのだろうか?
何もできない自分に苛立ち拳を強く握る。

ニアは自分の手の平や体を見回し

「この体ではここまでという事か。 惜しいな。貴様の断末魔はさぞ醜いのだろうと楽しみにしていたのに。」

何が起こったのか理解できなかったブルーノだが大まかに現状を理解すると

「何がどうなのかはわからないですが、あなたの力は大きすぎるが故に長く扱うことができないというわけですね。やられっぱなしは腹立たしいですが弱ったあなたをここで始末するのは私の最重要課題というわけです。殺し合いの場だ。恨まないでくださいよ。」

「まぁそう焦るな。確かに私の時代はとうに終わっている。だが新しい時代の到来はこの目で確認したいのだよ。」

そういうとニアは汗ばむ額をぬぐいもせずに手のひらをブルーノに向け風の衝撃波をブルーノにぶつける。

「ぐう!! 氷だけじゃなかったのか!? クソ虫が!! 油断したスキを狙いやがって!!」

憤怒するブルーノにニアは

「そう怒るな。これはこの娘の魔法だ。この先偉大な魔法使いとなるこの娘のな。だが今はその時ではない。そして今は.......そろそろ起きんか小僧!! こやつは貴様らの時代の産物だ。貴様らの時代でケリをつけろ。」

ニアがある方向に向いて大声を出す。

「おい、お前大丈夫なのかよ。」

タヌキが心配するのをよそにかけられていた回復魔法の手をさえぎり


「あぁ......もう大丈夫だ。」

そういうとフラフラと立ち上がろうとするアレン。
しかし致命傷まで届いていたダメージはもちろん回復しておらず今も重症であることには変わりない。

「さぁもうすぐ来るぞ。小僧の力が。」

ニアが部屋の入り口に目線を向けた時を同じく。

「きゅぴ―!!!!!!!」

黒い塊を咥えたゴンゾウが猛スピードで部屋へ突っ込んできた。
そのまま黒い塊をアレンに向けて投げつける。

瞬時にブルーノはそれが何か理解し、

「あれは!! ウジ虫共が!!」

ゴンゾウが投げつけるより早いスピードでアレンにまっすぐ向かってくる。
ニアにもはや自分を防ぐ力は残っていないと踏んだのだろう。
あれをこいつらに渡してもどうにかできるとは思わない。
それほど強い呪いをあれにかけてある。

しかしなんだ? あいつはやばい。あの剣、先ほど奴と対峙した時に呪術ではないが似た力を感じた。
あれに近づけさせてはいけない。

ブルーノの危機察知能力が警笛を鳴らしている。
普通の冒険者の何十倍にも強化された肉体で爆発させたように地面をけりつけアレンにまっすぐ向かうブルーノだが

「選別だ小僧。受け取れ。」

荒い息の中、ニアは先ほどよりさらい弱くなった風魔法をブルーノにぶつけた。
空中で踏ん張りの利かないブルーノは簡単に真横に吹き飛ばされる。

「ぐうううう!!! この蛆虫がぁぁぁぁああああ!!!!!」

吹き飛ばされながら恐ろしい形相でニアを睨む。
そのまま真横の壁に激突していく。

黒い塊はアレンにぶつかるその瞬間、アレンの体を先ほどまで纏っていた黒い瘴気が包みだしアレンの体を操作する。瞬きすら許されないその一瞬で、刀は鞘から抜かれ流れるような軌道を描きまた元の鞘へと戻っていった。

「貸しだぞ。これで心置きなく我を使えるであろう。」

鬼丸の言葉がアレンの頭に流れ込む。

「あぁ、ありがとう。」

アレンにぶつかった瞬間、まるで元から形のない煙玉だったかのように霧になり形をなくし、ボフっとその周囲を黒い紫色で包んだ。

「新しい時代か......面白い。また会おう、勇者の末裔よ。」

ニアはその言葉をつぶやきその場にバタリと倒れ気を失ってしまった。

あたりの黒紫色の霧は急速に回転し始めある一点に集まって消えていく。
そこに立っていたのはブルーノだった。
倒れたニアの方へ歩いていくとニアに強烈なケリをお見舞いする。

しかしケリは途中で止まる。その理由を確認しながらもブルーノはニアから目を離さず平然とした表情で話す。

「この蛆虫の始末をつけようと思ったのですが、邪魔しないでもらえますか?」

ブルーノのケリは一瞬で間合いを詰めたアレンが片手で差し出した鞘に入ったままの刀と交差しその動きを止めている。

「ゴンゾウ!!」

アレンはそう叫ぶとゴンゾウはすぐさまニアを担いでタヌキの元へ運ぶ。
ブルーノの足とアレンの刀がギリギリとせめぎあっている。

「あれにはウォーウルフの力を抑える呪印しか身代わりさせてなかったんですが、なぜかあなたの力が先ほどと比にならないほど上昇している。本当に不快な連中ですね。訳の分からない力ばかり目にする。私は自分で理解できないものが嫌いでね。そういうものは全部解明するかそれが無理なら壊したくなるんですよ。あなたとあの蛆虫はここで必ず殺す!! お前を必ず今殺して蛆虫はその後だ!! 他のゴミも絶対にこの研究所から出さない!! わかったかゴミ共!! これは絶対だ!! 」

空気が震えるような怒号にタヌキもクラウスも呼吸ができないほどのプレッシャーに押しつぶされそうになる。

「うぅぅぅ......ここまでとは.......がが.......」
「ひ、ひぃぃぃいい!! うっ!! 息が.......」

自分がどういう奴を敵に回したのかをここで初めて理解してしまうタヌキとクラウス。
レベルが違うというような生易しいものじゃない。
初めから、生まれた時から決まっているような、そういう同じ土俵に立っていない、奴はもはや人間単体にどうこうできるようなレベルではないのかもしれない。

先ほどまでの戦いも理解しがたかったが、今その殺気が自分たちに向けられ始めて己の場違い感を感じてしまった。
それほどまでにブルーノという男は人の理解を超えている力を手にしていた。

しかしここにも一人、人の理解を超えた力を手にしている少年がいる。
ブルーノの殺気にも意を解せず、体に先ほどの何倍もの濃密な瘴気をまとっているこの少年が。

「ブルーノ、終わりにしよう。ここでお前を止める。」

アレンは静かに鬼丸を鞘から抜き取り刀を下段に構える。
ブルーノとの間の土ぼこりが地面で震えている。

頂上同士の戦いが今始まろうとしていた。

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