ダンジョンはモンスターでいっぱい!! ~スライムと成り上がる最弱冒険者の物語〜

なか

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うめき

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 そんな中、タヌキはひっそりと意識を取り戻し、あやふやな意識で現在の状況を確認するため周りを見渡し始めた。

「俺はいったい......。うっ!!」

 動こうとして腹部に鈍い痛みがあることに気が付いた。
 記憶はないがおそらくブルーノにやられたものなのだろう。
 離れたところでクラウスのうめき声が聞こえていた。ニアは椅子に座ったまま動けないようだ。
 ブルーノが何やら話しているようだが内容は聞き取れない。

「うぅ......頭がぼんやりする。俺はたしか......目の前に飯が並んでて、そうだ! ブルーノに術をかけられたんだ。動けなくなって......そうか、俺気づかない間にやられてたのか。」

 徐々にはっきりしだした記憶を探りながら現状の理解に努める。

「ごふっ!! ぐふっ!!」

 突然近くで苦しそうな息遣いが聞こえてきた。
 何が起きているのかとタヌキは周囲を再度見渡す。
 聞こえるのはタヌキがいたガレキではなくもう一つのがれきの山だった。
 よく見るとガレキの山から手だけかろうじて見えていた。

「まさか......アレンか!!」

 タヌキは痛む体をかえりみずにアレンの元へ急ぐ。
 ガレキを押しのけアレンの体を起こすと......

 それはひどいありさまだった。
 ヒーラーという職業からすぐに内臓がひどく損傷していることに気づく。
 骨は内臓に突き刺さり急な外部からの圧迫に耐え切れず破裂しているところもあるだろう。
 口から黒い血を吐いているのがその証拠だ。

「これは......まずい......すぐに治療しないと。だがみんなが......」

 アレンを治療しなくてはいけないのはわかっている。
 しかしその間にもニアとクラウスは命の危機にさらされている。

「どうすれば......」

 その時タヌキはひどく寒気を感じることに気づいた。
 悪寒などではなく、この部屋の気温が低くなっていることに。

 そしてすぐにその正体に気づく。
 ニアの足元のじゅうたんが霜で覆いつくされている。

 何が起こっているのかも全く理解できないが今はニアを信じよう!
 この男は死なせてはいけない。
 仲間だからというのもある。いい奴だからというのもある。
 しかしそれだけではない。それだけではない何かを期待させるこの男を自分たちとの冒険で死なしてしまえるわけがない。それはおそらくニアもクラウスも同じ考えなのではないだろうか。

 今はこの男を復活させることが一番、この危機を脱することにつながるはず。
 タヌキは己の全魔力を注ぎ込むイメージでアレンに回復魔法をかける。
 致命傷を受けたこの状態でどれほど救える可能性があるのか不明だがやるしかない。

 アレンを救う。それがみんなを救うことになり、リンを救う事にもつながるのだと自分に言い聞かせて。





 ーーーーーーーーーーー






 ゴンゾウとディアドラは黒い球体を持ってアレンの元へ向かう。
 不死の再生力があるこの球体の呪いを二匹が解くことはできない。
 庫の封印が解けなければアレン達の勝利の可能性は限りなく低い。
 1度ブルーノと戦っているディアドラはブルーノの力の恐ろしさをわかっているつもりだ。

「急ぐぞ青いの。主(あるじ)の元へ。」

 急ぎ向かう道中。ゴンゾウを乗せながらものすごいスピードでかけていくディアドラ。元来た道をかけていく。

「きゅぴぴ!!」

 間もなく来た道の階段が見えてくるはず。しかしその先に見える何かにゴンゾウが慌ただしく叫び出す。

 階段の前が妙に暗く映った。
 地面が黒く動いている。
 それは波打つようにモゾモゾと。

「あれは......」

 ディアドラも気づきその足を止める。
 それは不快感を煽るような黒い色。そうあの蜘蛛のモンスターであった。
 1匹や2匹ではない。何百匹と群れをなし出口の階段を塞いでいる。

「きゅぴぴぷぷ!!!!」
「ええいわかっている!! しかしあの群れを相手にしている時間はない!」

 今にも襲ってきそうな蜘蛛の群れ。いくらディアドラとゴンゾウとはいえこの数では骨が折れる。

「仕方ない。おい青いの!! お前ではあいつらと相性というものが悪い。ここは私に任せて先に行け。道は作る。」
「きゅぴぴぴ!!!!」
「ははは、見くびるな。あの程度のモンスターもどきなど何匹いようが関係ない。」

 ディアドラは咥えていた黒い球体を頭の上のゴンゾウに投げ渡し、そのままゴンゾウを咥え大きく振りかぶって階段へぶん投げる。

「きゅぴぴ!!」

 投げ出されたゴンゾウ。しかしそのゴンゾウに向けて蜘蛛たちが黒い波のようになって壁を作り飲み込もうとした。

「なめるな!!!」

 ディアドラは大きく息を吸い込みその波に向かって強烈な咆哮をぶつける。
 恐ろしい振動を含んだ音の砲弾。ゴンゾウをかすめて飛んでいき黒い波の中心に当たると バン!! と波の中心がはじけ飛び大きく穴が開いた。

 そこに飛び込むようにゴンゾウが穴を潜ろうとする。
 しかし波を作っている以外の蜘蛛たちが更なる追い打ちをゴンゾウにけしかける。
 しかしゴンゾウは一瞬の間に雷切に【帯電】をすませ空中で回転しながら溜めた電撃を放出する。

『スライム一刀流広範囲戦術 【 磁気嵐(じきあらし 】』

 回転するゴンゾウを中心に電撃の嵐が巻き起こり飛びつこうとした蜘蛛たちがのきなみ黒ずみになっていった。

「きゅぴ!」

 そのままゴンゾウは中心の黒い穴に吸い込まれるように入っていきその先の階段のあたりで着地したのを最後に黒い波は修復しその姿が見えることはなかった。

「ああ、任せたぞ。相棒。」

 ディアドラはすでに蜘蛛たちに囲まれ逃げ場を失っていた。

「ふざけたやつらだ。いいだろう。お前たちも冒険者の端くれ。その誇りに免じて私も本気で相手をしよう。それがお前たちへのせめてもの手向けだ。」

 ディアドラは グルルルルゥゥゥゥゥ と毛を逆立てていき徐々にその体を大きくしていく。
 そして終いには黒い波と同じくらいの大きさまでになりそしてそれは目の前の蜘蛛たちを強烈な威圧感が襲った。

 ディアドラは上を向き大きく遠吠えのような恰好を見せるが、発した音は考えるような遠吠えではなく爆発音にも似た言葉で表現できないほどの衝撃音だった。

 それが合図と言わんばかりに黒い波はディアドラに襲い掛かる。
 哀れな冒険者たちの怨念を乗せて。
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