ダンジョンはモンスターでいっぱい!! ~スライムと成り上がる最弱冒険者の物語〜

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 アレンと黒の瘴気の波状攻撃。
 息つく暇さえない連続技だがブルーノにはかすりもしない。

 アレンの斬撃はともかく黒の瘴気の速さは遅くはない。
 アレンの攻撃も相まって普通の相手なら当たらずまでも受けくらいはしていいもの。
 しかしここまで美しく当たらないのだからもはや実力の桁が違うとしか言いようがない。

 この時ブルーノは自らにいくつもの身体強化の呪術をかけていた。
 力増強、防御力増強、反応速度増強 それらすべてが魔力増強により超強化され前線の戦闘職をはるかに凌駕する戦闘力を手にしているのだった。もともと呪術は反動が大きいため他の魔法より扱いが難しい分その性能は魔法の比ではないところがある。それをブルーノはリスクゼロで乱発できるあたり想像するだけで背筋が凍る。

 いまやブルーノは一線級の身体能力を持ちながら大魔導士にも匹敵する魔力を持ち合わせた言わば勇者という職業に一番近い性質を備えているのかもしれない。ブルーノの目的は不明だ。真理の探究という名目なのだろうがそれを使って実際何をするのかという行動目的がはっきりしていない。だがその目的が国家に害する者であればこれはもはやアレン達の戦力云々ではなく国家を上げてブルーノを何とかしないといけない事態に陥っている可能性もある。たった一人で国家を滅ぼしかねない戦闘力を持つ伝説の職業『勇者』。今世界を燃やし尽くそうとしているくすぶった種火に遭遇してしまったのかもしれない恐怖にニアもクラウスも戦うというより何とか生き延びて地上に知らせるという考えにシフトしてしまうのは自然な事なのだろう。

 ブルーノからすれば止まって見えるアレンの攻撃をかいくぐりついにはその胸ぐらをつかみ上げ

「燃え尽きろ......」

 胸ぐらをつかむ手のひらから黒い炎があふれ出し瞬く間にアレンを飲み込んでいった。
 しかしその炎はアレンを包む黒の瘴気がすぐに喰らいつき炎ごと呪術を消し去ってしまった。
 その一瞬をつきアレンの懐に強烈なケリをお見舞いするブルーノ。

 ドギャ!!!!!

 すごいスピードで吹き飛ばされ先ほどからタヌキが寝転がっている場所に受け身も取れず床に叩きつけられながら隣の部屋の壁際でやっとその勢いを止めた。

「やはり......その黒いの、その物の絶対量は少ないみたいですね。私の呪術と似たような特性を持った何か。私に試すには少々早すぎたという事ですね。」

 一つ受ければ一つは受けれない。
 ブルーノの攻撃力が強すぎるが故全力で受けきらなければダメージを負ってしまうということだ。

 とはいえそれでも薄くはガードが間に合い直撃だけは避けたがアレンは口から血を噴き出し立ち上がることができなくなってしまった。即死さえ免れたが致命傷である。

「ぐ、ぐふ!!」

 苦しそうに息をしその度に口から少なくない量の血を吐き出していた。

 ”やはり無理か。まだ力が足りぬ。あるいはその眠る力が解放されれば......„

 アレンから黒の瘴気が消えていき刀の中へ吸い込まれるようになくなっていった。

「アレン!! アレン!! うそ、アレンが!!」
「くそ!! アレン君!! しっかりしろ!! こんなもの!! こんなものぉぉぉ!!!」

 クラウスは必死でブルーノの呪術を破ろうとしている。
 ニアは泣きながらただ叫ぶばかり。
 勝敗はここに決しようとしていた。

 ブルーノは汗一つかかず、息さえ乱れず、圧倒的戦力で心さえ挫くほどの差を皆に与えてしまった。

「なかなか面白かったのですが、あなたの欠点はどうしようもなく弱いことです。能力は面白かったですが、その力では何物にもその手は届きはしない。」

 アレンが吹き飛ばされた方を見ながらブルーノは静かに語る。

「もうやめて!! もういいでしょ?! 私たちはもうあなたには関わらない。あなたの研究の事も誰にも言ったりしないわ。だからもう......」

 ニアが懇願する中、ブルーノはその言葉に全く興味を示さずクラウスの方へ歩いていく。

「クラウス、あなたはあの女とは違いまだ心が折れてないようですね。人の心というものは大変興味深い。」

 その言葉を言い終わると同時にブルーノはクラウスの右手の人差し指を掴み本来曲がらない方向へ簡単に曲げきってしまった。

 パキッ

 乾いたまるで枯れ木を踏みつけた時のような音が響く。
 その繊細で不快な音にクラウスは ぐうぅ!! とうめくような声を上げ歯を強く食いしばった。

「お願い。もうやめて......もう傷つけないで.......」

 涙で大きな声が出せなくなっているニア。
 ブルーノはそんなニアを見て自分が守るといったそばからこの始末に情けなさを感じた。
 少しでもニアの負担を軽くしたい。そう思いニアの目を見ながらにっこりと笑い 「僕は平気だ。」そう答えた時、さらに2本目の指から乾いた音が響き渡った。
 その音についには限界だったニアの精神もボロボロと崩れていき、ついには何も聞こえなくなった。
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