ダンジョンはモンスターでいっぱい!! ~スライムと成り上がる最弱冒険者の物語〜

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覚えていない

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「ブルーノ......」

 今にも飛びかかりそうな憎しみと、ここから逃げ出したくなる恐怖が混じり合いどうにかタヌキは感情の爆発を抑えることができた。

「お待ちしておりました。こんな場所ですからお客様というのは少なくてですね。歓迎しますよ。」

 きれいな言葉遣いだがとても本当の気持ちを言っている風には聞こえない。
 胡散臭さというのか、嘘を言っているというわけではないのだがただ言葉を言っているような感覚を覚えて耳障りに聞こえる。タヌキの先入観からなのかアレンたちはこの男を信用できないという気持ちを強くなる。

「あなたがブルーノさんですか?」

 ニアが警戒するパーティーを代表して話す。

「これは失礼。まだ名乗り出ていませんでしたね。私はブルーノ。ブルーノ・シュテルファイツ。冒険者にして、ここの研究所の持ち主といったところですかね。 ん? あなたは? クラウスではありませんか?」

 ニアの後ろに立っているクラウスを見つけると楽しそうな声を出してそう問いかけた。

「なぜ僕のことを?」

 怪訝に問うと

「もちろん若手有望株の君を知らない冒険者の方が少ない。クラウス・ジトー、その若さで聖騎士まで登りつめたのは異例のことだそうだ。私はこう見えても有望な若手は欠かさずチェックしている。そしてあなたはニア。職業診断士カレンの孫だ。まぁあなたの場合ギルドで働いていた経緯もありますから有名といえば有名でしたが。」

 アレンたちに緊張が走る。
 タヌキの話を聞いていなければ喜んでいたところだが。
 彼の興味があるという言葉に嫌悪感が漂う。

 そしてブルーノはアレンの方に顔を向けると怪訝そうに

「しかしそこの君は存じ上げませんね。こんなところまで潜れる力のある冒険者は全員チェック済みなはずなんですが。見た所そこまで強そうには見えませんが、何か持っているということなんでしょう。そして君の後ろにいるのは......。」

 アレンの後ろに隠れていたタヌキが姿を見せる。

「不思議な生き物を連れていますね。興味深い。 どこかで見たことがあるような気もしますが.......。」

 なんとブルーノはタヌキの事を覚えていない。そんな昔話の登場人物ではない。つい最近の話だ。それをもう覚えていない。
 話のトーンから冗談を言っているように聞こえない。
 なんなのだこのやりきれない思い。
 タヌキの恐怖心がみるみる怒りの炎に飲まれていく。

「クソ野郎が.......。」

 今にも飛びかかりそうなタヌキをアレンが制する。
 タヌキが抱えているリンもその息使いに反応しもぞもぞと動いている。

「それは......手に抱えてるその生き物......あーそうですか。あなたはいつかの実験体ですね。はははは!!! 興味深い。いちいち個別では覚えていませんが君が抱えてるペットはまさに実験の結果を表した姿だ。はははは!!!! 君たちは私の研究体だね。そういえば逃げ出した個体があった。それが君たちなのかな。まさか戻ってくるとは。」

 本気で笑っている声に聞こえる。一度興味をなくしたものは徹底的に記憶からなくなってしまうのだろう。病気とも思えるその笑い声がアレンたちを刺激する。
 クラウスやニアが歯噛みする中、不思議とアレンは落ち着いていた。

「あぁ捕まえてきた。こいつは話せるみたいで話を聞くとここから逃げてきたと言っていたから。」

 アレンが手筈通りに話を進める。
 昨夜の野営の時にブルーノに近づく為の作戦だ。
 リンとディアドラの呪いを解く方法を聞き出す為になんとしても。

「そうですか。それはよかった。一度研究所の外で生活をした個体など珍しい。あなたたちには是非お礼がしたいですね。立ち話もなんです。どうぞ中へお入りください。」

 これほどすんなり話が通るとは、逆に警戒心が強くなるクラウス。
 しかしブルーノは何事もなくアレンたちを研究所へ招き入れた。

 短い廊下に部屋が4~5個ほど。とてもタヌキが言っていたような施設ではないようにも思う。
 そのうちの一つの部屋に案内されたアレン達。
 食堂のような作りで長机が置かれ片方のサイドに7脚もう片方のサイドには1脚の椅子が並べられていた。

「さぁ座ってくれ。」

 ブルーノの声に反応し7脚ある椅子に腰かけだす。
 疑ってもしょうがない。何か仕掛けがあってもすぐに反応できるように気持ちだけでも整えておくアレン達。

「この度は我が研究所へようこそ。改めて私はブルーノ。研究体を連れ戻してくれて感謝する。」

 改まった挨拶に緊張が走る室内。

「いや、こちらもたまたま見つけたからよかった。おかしな生き物で言葉も話せるみたいだ。聞くとここに案内された。」

「ほう。知能があると。面白い......私はね、長らくこの研究所である研究をしているんだ。」
「そういうの俺らに話してもいいのかい?」
「もちろん。君たちは恩人だ。何ならすべてを共有するのもかまわないと思っている。」
「ずいぶんと俺らの事を信用してるんだね。」

「もちろんさ。クラウスと言えばこの界隈では知らないものはいないほどの冒険者だ。その彼がパーティーにいるんだ。信用がないわけないじゃないか。」

 ブルーノのこの自信、すでにすべて筒抜けになっているような会話内容。
 この研究所に入り込み何とかこの実験に関する資料を手に入れればという策略であったが。

「おほめに預かり光栄です。ですが僕はあなたとは初対面。あまりにも人を信用しすぎなのではないでしょうか?」

 クラウスはあくまで紳士的に言葉を並べる。

「うん。なにか全容を隠されているような会話内容。あなたたち面白いですね。気に入りました。もっとあなたたちとお話がしたい。よければ食事でもいかがかな?」

 ブルーノがパチンと指を鳴らすと食堂のドアが開き全身に鎧を着た者たちが入ってきた。
 クラウスとニアはすぐに武器を持ち戦闘態勢に入ろうとするが

「おやおや待ってください。あの子たちの手に持っているものを見てください。料理ですよ。料理。」

 鎧を着た者は手に料理の皿を持っておりそれが次々とテーブルに並べられていく。
 ニアとクラウスは構えを解き持っている武器を下に下げた。

「面白いですね。今の二人の反応。私がモンスターに襲われると思い守ってくれようとしたんですか? それともその逆なのでしょうか? 面白いですね。」

 ケタケタと笑うブルーノ。
 何から何まで見透かされているような感覚。

 今行くか? いやまだか? 
 二人の迷いが表情に浮かびだす。

「それにしても面白い。君だけはずっと私から目を離さなかった。そして君も。」

 初めにアレンを見てその後タヌキをじっと見据えるブルーノ。
 仮面から除く目は心の内側まで捕らえて引き抜かれそうになる感覚がある。

「なんだか尋問みたいな話が多いけど、飯食うんだろ? 早く食おうぜ。」

 アレンの言葉に先ほどまでの見透かすような雰囲気が パッ と消えて

「そうですね。食事にしましょう。」

 ブルーノは楽しい声でそう答えるとニアとクラウスを席につくように促し食事を始めてしまった。

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