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昔話

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 ダンジョンの外が夜になると自然と内部も夜なる。
 魔素の動きが鈍くなりヒカリゴケも出す光を弱めるせいだ。

 ただ当たり前の毎日が冒険者にとっては神秘的な光景に移るだろう。
 ここ20階層は初級冒険者が近づけない実力者だけのエリア。
 ゆえに神秘さはさらに精神に問いかけてくるだろう。


 柔く消えそうな月明かりにも似た光がアレンたちを包む。
 焚き火を囲みながら皆がそれぞれの時間に更けていた。
 唐突にアレンがクラウスに尋ねる。

「どうしてクラウスは冒険者になったんだ?」
「突然だね。いったいどうしたんだい?」
「いや、なんか気になってさ。」

 アレンは恥ずかしそうに目線を上げ答える。
 フッ と笑ったクラウスが焚き火を見つめながら小さめの声で話し出した。

「聞かせるような話でもないけどね......僕には兄がいてね。自慢の兄だったんだ。」

 カチャカチャと明日の準備をしていたニアも手を止めクラウスの言葉に耳を傾けた。

「僕の家は由緒正しき剣士の家系でね、父はこの街でも有名な【つるぎの会】っていう所の会長をしていたんだ。」




 ーーーーーーーー




 僕は兄が大好きだった。
 頭が良く 魔法の才能も有り 人望もある 剣の才能はおそらく歴史的な冒険者たちでも兄には敵わないと思う。才能だけならね。

 そんな兄と産まれたころから比べられてきた僕が言うんだから間違いないよ。

 ずっと比べられてきたんだけどね。不思議と嫉妬心はなかった。
 いつも優しくて強くて、憧れていた。

 父は昔は有名な冒険者だったらしく無理な戦闘が続いたせいで若くして戦えない体になってしまったらしい。そのせいか人への嫉妬心に強い人でね。いつも人の悪口を言っては怒っていたよ。
 剣術の稽古以外で父と話した覚えはない。そんな父親さ。
 母はそんな父のご機嫌取りばかりでいつも口酸っぱく 父のような立派な剣士になりなさい だった。

 剣士の家系に生まれた定めか小さいころから剣の稽古を父から受けていた。
 すごい厳しかったのは覚えてるよ。
 木刀で立てないくらいまで打たれて失神して稽古が終わる。そんな毎日だった。

 稽古中によく泣く僕とは対照的に兄は父に怒られてる姿を見たことがなかった。
 それもそのはずで兄は幼少のころには父より強かったんだと思う。それほど天才だった。

 兄は天才で僕は秀才 自分で言うのもなんだけど周りの子供たちに剣術で負けたことがなかったくらいは強かったんだ。それでも兄を見ていると自分のいる世界が止まっていて兄のいる世界だけが動いてるような気がしてくる。だけどそれが誇らしかった。

 兄が強いことが誇らしい。僕が守りと回復に特化した聖騎士になったのは必然かもしれないね。
 何をやっても兄には勝てなかった僕が兄と冒険するためにはね。
 昔から父に殴られて打たれ強くなったところも要因の一つだがね。

 兄の強さは異常だった。
 10歳の時にはもう兄に剣で勝てる大人なんていなかった。どんな冒険者も兄の前では子ども扱いだった。次第に父は兄にも嫉妬心を抱くようになった。しかし剣術ではもはやどうあがいても勝てない父は僕にその憂さを晴らすことが多くなってきた。

 過酷すぎる稽古。ついには意識を失いかけている僕を木刀で打ちのめし始めた。

 殺される

 そう思った時、兄が父の剣を自らの剣で絡めとるように奪った。
 それはまるで親が悪戯ばかりする子供のおもちゃを取り上げるようなそんなふうに父の剣を兄の剣で。

 兄は父に何か言っていた。すると父は稽古小屋にあった真剣を手に取り兄に斬りかかった。


 いつからだ.......いつから貴様は私をそんな目で見るようになったんだぁぁああああ!!!!!!


 気づいたときには兄は父を殺していた。
 真剣を使おうが木刀の兄に勝てるはずもなかった。
 その時の兄の顔は今でも忘れられないよ。

 兄は正当防衛で罪には問われなかった。
 そもそも、かねてより職権の乱用が見られた父を助けるものなど【つるぎの会】にもいなかったのだ。

 父が死んだあと母は心を病みすぐに死んでしまった。
 最後は悲惨だった。
 兄の事を【呪われた子】と呼び死んでいったんだ。

 僕らは両親を失った。

 そこから兄は変わってしまった。
 父を殺し母を死なせたのは自分だと心を追い込み僕を遠ざけるようになった。

 あれだけ美しかった剣は荒くなり、優しかった兄は無意味に人を傷つけるようになった。
 人を遠ざけるようになりダンジョンに潜る時間が長くなった。

 僕が兄をそうさせてしまったんだ。
 奇跡を具現化したような人間だった兄をここまで変えてしまった。

【呪われた子】は僕だったんだよ。
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