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帰路
しおりを挟むいくらゴンゾウが【自動修復】で回復できるとはいえ精神的なものまで回復はできない。さすがにみんな体力がなくなっていて危険であったが逆に長く5階層にとどまる方が危険という判断をニアは下した。
ひとまず4階層に行けば強いモンスターはいなくなる。
そう考え一同は休まず4階層へ向かった。
道中ディアドラが現れた影響もあってモンスターはどこかに隠れてしまったのか1度も遭遇することはなかった。
そして予定よりはるかに早く4階層へたどり着くことができた。
さすがにここから一気に帰るのは体力的にも危険と考え少し休み3階層までたどり着き1同は野営することにした。
3階層まで来ればもう脅威になるモンスターはいないだろう。
明日までに帰れるめどのついたアレンとニアはどっと疲れたのか腰を下ろししばらく動けなくなってしまった。
「もうだめ。魔力も全く残ってないし。足にも力が入らない。」
「腹減った。もう限界だ。飯にしよう。」
ゴンゾウにも疲労が見える。
さすがにあの戦いの後では冒険に無理があったとみるべきか。
少し休みアレンは調理器具や調味料を魔晶石から取り出し料理の支度をする。
ゴンゾウは自身の【採取】のスキルを使い食材を集めて行っていた。
ゴンゾウがベチョと体にためていた食材を吐出しアレンに食事をせがむ。
集めてきた食材は
・赤ナツメ草
・剛力キノコ
・陸わかめ
・壁殻貝
ニアは うえぇぇ と苦い顔でこちらを見ている。
今日は貝とキノコの炒め物と陸わかめで出汁を取った赤ナツメ汁にしよう。
アレンはニアの冷たい目などお構いなしに料理を作るのだった。
一通り料理を食べ終わりおちついてきたときにアレンは魔晶石からディアドラを出した。
ディアドラの姿は先ほどの巨大なものではなくアレンより少し小さいくらいの狼の姿になっていた。
「あら、なんだかかわいくなってるわね。」
ニアが笑みを浮かべディアドラに話しかける。
「体力がないからな。温存するために消費の少ない姿をしている。」
すました顔で答えるディアドラ。
先ほどと違いちゃんと口でしゃべっている。
喋れんじゃねーかと思う一同。
アレンは魔晶石から干し肉の塊を出しディアドラに投げる。
ディアドラは器用に口でキャッチし足元に干し肉を置いた。
「でかいままだったら食費どうしようかと思ってたけどその姿なら心配いらなさそうだな。それ食えよ。」
ディアドラはその言葉を聞いて足元の干し肉を食べ始める。
「オヌシに手を触れられたとき懐かしい感覚があった。感謝している。忘れていたものを思い出した。」
おそらく群れにいたときの感覚を言っているのだろう。
あの時流れ込んできた感覚でその映像を見ていたニアはそう思った。
「俺は深階層に行ってこのダンジョンの奥底を見てみたいんだ。」
ゴロンと床に寝そべり天井を覗くアレン。
「お前の力が必要だ。俺は一人じゃ何もできない。だから……」
ふざけることなくまじめに問うアレン。
「お前の仲間も探しに行こう。俺の夢もかなえよう。」
「ふん。もとよりおぬしをアルジと見込んでついてきている。いらぬ気を回すな。
私の仲間の子孫になるだろうか?そやつらは存在してるかもわからん。」
「大丈夫。探しに行こう。」
「面白い人間だな貴様は。 ……承知した。ではまず私は体を休めることから始めんとな。」
暖かな会話はみんなのすり減った心を癒していった。
ーーーーーー
「私の体は魔力封じの呪縛をかけられている。
ゆえにすべての能力は使えず、身体能力も制限されている。今のところ主の役には立たないかもしれん。」
冷静に自分の体を見て答えるディアドラ。
「ウソでしょ!!ほんとはもっと強いってこと?化け物じゃない!!」
ニアは驚きを隠せない。
「おぬしらと戦った時、私は魔力を封じられ冒険者たちの猛攻に深刻なダメージを与えられ瀕死の状態だった。」
「そりゃそうだろうな。どう考えても無理だろ?70階層のヌシだぜこいつ。俺たちが普通にやって勝てるわけないよな。」
納得する一同。
「いや、おぬしらは確かに強かった。だが深淵に向かうのならば私の力では及ばないことが多いだろう。」
「てことは、私たちが深層階を目指すにあたってディアドラの力の解放は必須って事ね。」
「でも呪縛の解放ってどうするんだ?」
「使った本人に説いてもらうかそのものを殺すか……」
平然と答えるディアドラ。
「殺すのはさすがにまずいな。」
「解除してもらうにもウォーウルフの呪縛を解除してくださいとは行かないわよ。ディアちゃんを見せるわけにもいかないでしょうし。」
「ディアちゃん……」
呼ばれたことのない呼び方をされて少し困惑するディアドラ。
「お婆ちゃんなら何か知ってるかもしれないわね。」
カレンは冒険者ではないにしろ冒険者のスキルに関しては莫大な知識がある。
解除法を知っている可能性は高い。
「そうだな。ひとまずアークグラッドへ戻ろう。」
アレンはさすがに疲れたと背筋を伸ばし、考えるのは戻ってからにとそのまま寝ようとする。
「なんかとんでもない日だったわ。お婆ちゃんに何から話せばいいのやら。」
ニアも焚火のそばでへたり込む。
それをよそにディアドラは焚火の日の向こうでスヤスヤと眠るゴンゾウを見ていた。
「しかしこのスライム、、私と戦った時の強さは異常だ。スライムの限界を超えているように思う……
アレンという男の力なのか。それとも……」
ディアドラ深くなる闇の中で一抹の懸念を考えるのであった。
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