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スライム
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街から数キロ離れた森の中
とはいえダンジョンが近くということで地上の生物はあまり近づいてこない。
ゆえにこの森周辺はイノシシなどに薬草を食われないため質のいい薬草が数多くある。
しかしやはりダンジョン近くということでダンジョンから魔物が間違って出てきてしまい、よく一般人が犠牲になる事件がある。
だから基本的にはダンジョンの外とはいえ危険を考慮し冒険者に頼むのが良いとされている。
今はステータスやスキルのことは忘れて人の役に立てるようなことをやっていこう。
そう思う事でこの薬草採取も自分のためになると思えた。
だがこの薬草採取はいろいろなことをアレンに考えさせた。
確かに重労働だが冒険者にとっては命の危険が少ないこの環境は遊んでいるといってもいいくらいだ。
集中していなくても、ボーとしてても手は勝手に動いた。
薬草は自然に集まる。
想像していた自分とのギャップに薬草をつかむ手に力が入った。
父や母には無理を言って出てきた。
裕福な家庭ではなかったが息子の門出に安くないお金を託してくれた。
いつかその両親に恩返しができればという思いがあった。
自分の活躍が小さな町ではあるがそこに届けば。
大きい活躍ではなくても、息子はたくましく成長したということを伝えることができれば。
どれほどアレンが救われただろうか。
おそらくこのステータスと職業だとそれは絶望的だろう。
ギルドで登録したのだから一応記録的には自分は冒険者にはなれた。しかしこれは真の冒険者がすることではない。
冒険こそ冒険者の使命であるはずなのに。
こんなクエストを受注しているのは自分だけじゃないだろうか?
皆、新しい武器を買い、食料を蓄えダンジョンに潜る。
こんなところで草をむしっているのは自分だけじゃないだろうか?
そんなことを考えると涙が止まらなくなった。
情けなくて、申し訳なくて、恥ずかしくて。
自信があった自分を軽蔑したい気持ちでいっぱいだった。
ひとしきり泣きながら薬草を集めたアレンは
冒険者はあきらめよう。
そう思った。
せっせとまじめに採取すれば1時間ほどで目標の量に達した。
この仕事量で1日暮らせるだけのお金がもらえる。アレン自身も戦闘力はなく危険を伴うが悪い話ではない。
この仕事で自分の生まれた村に戻るための旅費にしよう。
親から借りたお金も返そう。アレンはそう考えていた。
一応早く終わったので自分の分の薬草も多めに取り、来た道を帰ろうとした。
そのとき、数メートル離れた木の根元に何か水色のものが動いているのに気付いた。
「なんだあれ?」
ウネウネする水色のもの。
少し警戒したが好奇心が勝ってしまった。
武器も構えず得体のしれないもの日被くのは冒険者としてあるまじき行為だ。
だが今のアレンに冒険者の心などあるわけがない。
無防備に近づくアレン。
それが目視できたときアレンは自分の気持ちが高揚したのに気付いた。
「これって、、、」
そこには傷つき今にも絶命しかけているスライムの姿があった。
すでに虫の息でほっておいても死んでしまうだろう。
苦しそうに呼吸している。
アレンには気づいていないようだ。というか意識を失っている。
「初めて見た。スライムだ。ほんとにゼリーみたいだ。」
初めてのスライムをまじまじと見る。
そんな時、アレンは一つの事を考えた。
いまこのスライムを自分の手で殺せば、自分はレベルアップするのではないか。
スライムはダンジョンでもとびきり最弱なモンスターだがそれは冒険者基準での話。
一般人だとよほど大勢で戦わないと無傷ではすまない。ましてスライムの一撃などまともに受ければ
骨は折れ、内臓は損傷し、最悪絶命する。
それゆえスライムといえど油断は禁物なのだ。
アレンのステータスは一般人よりも劣る。
そんな彼がスライムを簡単に撃破するチャンスがあれば迷いなく実行した方がいい。
レベルが1でも上がれば倒せるモンスターも増え行動範囲は劇的に増える。
しかしアレンは首を振り自分を戒め、そのスライムの手当てを始めた。
「俺がお前のこと倒してレベルが上がったところで、ステータスが上がらないんじゃ何の意味もないもんな。」
幸い手持ちには大量に薬草がある。
ペタペタと薬草を手ですりつぶしてはスライムの傷に塗っていく。
「しかしスライムってこんなんで治るのかな?液体みたいだからよくわかんねぇーな。」
そう言いながら自分のために取った薬草をすべてスライムの傷口に塗ってやった。
アレンにとってはモンスターを倒す イコール 自らの名声という普通の冒険者の公式が成り立たなくなってしまった。
だからアレン自身、このスライムを殺してもメリットは何一つないのだ。
「加工してポーションにできればもっと効果があったんだけどな。でもこれでなんとか大丈夫だろう。」
薬草はポーションを作るための素材の一つだ。
アレンに【調合】のスキルはない。料理人の職業で経験を積めば【調合】は得ることができるがもう少し修業が必要だろう。
とはいえ薬草にも傷を癒す力はもちろん備わっている。
目立つ傷には一通り薬草は塗り終えた。
ここの薬草は本当にいい質のものなのだろう。酷かった傷もふさがってきている。
スライムの呼吸も楽になってきた。
「よかった。もう大丈夫そうだな。
じき目覚めるだろう。でも、元気になっても俺だけは襲うなよ。」
そんな冗談を言いつつ本当に回復してしまったら襲われかねない。
少し心配だが薬草も集まったし街へ帰ることにした。
とはいえダンジョンが近くということで地上の生物はあまり近づいてこない。
ゆえにこの森周辺はイノシシなどに薬草を食われないため質のいい薬草が数多くある。
しかしやはりダンジョン近くということでダンジョンから魔物が間違って出てきてしまい、よく一般人が犠牲になる事件がある。
だから基本的にはダンジョンの外とはいえ危険を考慮し冒険者に頼むのが良いとされている。
今はステータスやスキルのことは忘れて人の役に立てるようなことをやっていこう。
そう思う事でこの薬草採取も自分のためになると思えた。
だがこの薬草採取はいろいろなことをアレンに考えさせた。
確かに重労働だが冒険者にとっては命の危険が少ないこの環境は遊んでいるといってもいいくらいだ。
集中していなくても、ボーとしてても手は勝手に動いた。
薬草は自然に集まる。
想像していた自分とのギャップに薬草をつかむ手に力が入った。
父や母には無理を言って出てきた。
裕福な家庭ではなかったが息子の門出に安くないお金を託してくれた。
いつかその両親に恩返しができればという思いがあった。
自分の活躍が小さな町ではあるがそこに届けば。
大きい活躍ではなくても、息子はたくましく成長したということを伝えることができれば。
どれほどアレンが救われただろうか。
おそらくこのステータスと職業だとそれは絶望的だろう。
ギルドで登録したのだから一応記録的には自分は冒険者にはなれた。しかしこれは真の冒険者がすることではない。
冒険こそ冒険者の使命であるはずなのに。
こんなクエストを受注しているのは自分だけじゃないだろうか?
皆、新しい武器を買い、食料を蓄えダンジョンに潜る。
こんなところで草をむしっているのは自分だけじゃないだろうか?
そんなことを考えると涙が止まらなくなった。
情けなくて、申し訳なくて、恥ずかしくて。
自信があった自分を軽蔑したい気持ちでいっぱいだった。
ひとしきり泣きながら薬草を集めたアレンは
冒険者はあきらめよう。
そう思った。
せっせとまじめに採取すれば1時間ほどで目標の量に達した。
この仕事量で1日暮らせるだけのお金がもらえる。アレン自身も戦闘力はなく危険を伴うが悪い話ではない。
この仕事で自分の生まれた村に戻るための旅費にしよう。
親から借りたお金も返そう。アレンはそう考えていた。
一応早く終わったので自分の分の薬草も多めに取り、来た道を帰ろうとした。
そのとき、数メートル離れた木の根元に何か水色のものが動いているのに気付いた。
「なんだあれ?」
ウネウネする水色のもの。
少し警戒したが好奇心が勝ってしまった。
武器も構えず得体のしれないもの日被くのは冒険者としてあるまじき行為だ。
だが今のアレンに冒険者の心などあるわけがない。
無防備に近づくアレン。
それが目視できたときアレンは自分の気持ちが高揚したのに気付いた。
「これって、、、」
そこには傷つき今にも絶命しかけているスライムの姿があった。
すでに虫の息でほっておいても死んでしまうだろう。
苦しそうに呼吸している。
アレンには気づいていないようだ。というか意識を失っている。
「初めて見た。スライムだ。ほんとにゼリーみたいだ。」
初めてのスライムをまじまじと見る。
そんな時、アレンは一つの事を考えた。
いまこのスライムを自分の手で殺せば、自分はレベルアップするのではないか。
スライムはダンジョンでもとびきり最弱なモンスターだがそれは冒険者基準での話。
一般人だとよほど大勢で戦わないと無傷ではすまない。ましてスライムの一撃などまともに受ければ
骨は折れ、内臓は損傷し、最悪絶命する。
それゆえスライムといえど油断は禁物なのだ。
アレンのステータスは一般人よりも劣る。
そんな彼がスライムを簡単に撃破するチャンスがあれば迷いなく実行した方がいい。
レベルが1でも上がれば倒せるモンスターも増え行動範囲は劇的に増える。
しかしアレンは首を振り自分を戒め、そのスライムの手当てを始めた。
「俺がお前のこと倒してレベルが上がったところで、ステータスが上がらないんじゃ何の意味もないもんな。」
幸い手持ちには大量に薬草がある。
ペタペタと薬草を手ですりつぶしてはスライムの傷に塗っていく。
「しかしスライムってこんなんで治るのかな?液体みたいだからよくわかんねぇーな。」
そう言いながら自分のために取った薬草をすべてスライムの傷口に塗ってやった。
アレンにとってはモンスターを倒す イコール 自らの名声という普通の冒険者の公式が成り立たなくなってしまった。
だからアレン自身、このスライムを殺してもメリットは何一つないのだ。
「加工してポーションにできればもっと効果があったんだけどな。でもこれでなんとか大丈夫だろう。」
薬草はポーションを作るための素材の一つだ。
アレンに【調合】のスキルはない。料理人の職業で経験を積めば【調合】は得ることができるがもう少し修業が必要だろう。
とはいえ薬草にも傷を癒す力はもちろん備わっている。
目立つ傷には一通り薬草は塗り終えた。
ここの薬草は本当にいい質のものなのだろう。酷かった傷もふさがってきている。
スライムの呼吸も楽になってきた。
「よかった。もう大丈夫そうだな。
じき目覚めるだろう。でも、元気になっても俺だけは襲うなよ。」
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