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しおりを挟む涼やかな風が吹き込むここアースグラッド。
冒険者で賑わうこの街は年中気候が安定しているゆえに様々な生物が生息しており
多種多様なクエストがギルドから発行されることで有名なエリアである。
しかし冒険者が集まる真の目的はこれ。
そうダンジョン。
ダンジョンとはある日突然出現し、外の世界とはかけ離れた環境、生物体系を有し、そこで手に入る素材は地上ではまず見られない希少性や純度、そして有用性をかねそろえている。
しかし特殊な環境で成長したダンジョン内生物は地上の生物とは比べ物にならないほど狂暴に進化しておりそれゆえ地上の生物とは違う生命、モンスターと呼ばれていた。
冒険者は希少な素材を手に入れるため、自身の実力を示し名誉を勝ち取るため、日々ダンジョンに潜り命を削っている。
そしてこの少年。名はアレン。
彼もこの街で一旗揚げようと息を巻きこの街へやってきた。
「でけー。家が山ぐらいでけー。これが天下のアースグラッドかー。」
アレンはまるで自らを田舎者と公表するかのように街を見回す。
「おっと。こうしちゃいられない。早く冒険者手続きをしないと。
俺はこの街で円卓の騎士のようなスゲー武勇伝を残すんだ。
そのためにもダンジョンで自分を鍛えて名のある冒険者にならないとな。」
円卓の騎士とはこの街の伝説。この街の名のある冒険者が大国リッドギアの国王直属の騎士になった話はあまりにも有名だ。
このように冒険者とは名誉でいかようにも自分の未来を変えられる夢のある仕事となっていた。
どれだけ命の危険があろうとも子供のころに一度は夢見るのが冒険者なのである。
アレンも幼いころから冒険者にあこがれ自らの生きる道と決めてきた。
そしてついに今日その日がやってきたのである。
しかしこの15分後にこの夢はまるで中空を飛ぶ泡のようにパチンと冷めてしまうことになる。
「何ですって? もう一度お願いします。」
アレンは目の前の老婆にそう聞き返す。
「何度も言わせるな! おぬしは戦士の資質もなければ魔法使いの資質もない。
かといって鍛冶屋や錬金術師の資質もないといったんじゃ!」
老婆は手加減なくアレンにそう伝える。
アレンは言葉の暴力に意識が何度も飛びそうになる。
”資質がない”
今から冒険者になろうとしてる人に絶対言ってはいけない言葉だ。
なぜこんなことに。
これはそんな死の宣告にも似た言葉を告げられる15分前。
まだアレンが夢と希望に満ち溢れていた時。
一人の少年の夢がもろく崩れるまでの15分。
アレンはアースグラッドを迷いなくまっすぐにあるところに向かった。
それはギルド。
もちろんアースグラッドには初めて来る。
ではなぜ迷いなくこの少年はギルドに向かえているのだろうか?
それは彼が小さい頃から欠かさず冒険者になる日をシミュレーションしていたからに他ならない。
アースグラッドの地図を引っ張り出し空想の中でその道を歩く。
彼にとってアースグラッドという町は幼い頃からの庭であり遊び場だったのである。
ではなぜ彼が真っ先にギルドに向かうかというと、
ギルドとはその街の冒険者の活動を統括する組合である。
冒険者とは希少な素材をもたらし街の繁栄に協力したり街の人々から依頼を受け危険な仕事を肩代わりする仕事である。
ゆえに実力がものをいう世界であり功績を上げれば先ほども言った通り平民出身のものが国王直属の騎士団に配属されることもある。
迷いのない足取りでアレンはギルドへの道を進んだ。
ギルドには多くの冒険者がクエストの受注や達成報酬を受け取っていた。
アレンの目にはそのむさくるしい光景が輝くヒーローのように見えたことであろう。
一刻も早く冒険者へ。アレンの心は焦るばかりであった。
賑わうギルド内。まずは冒険者登録をしなくてはダンジョンに進むことはできない。
アレンは登録の申請を行うため受付カウンターに足を運ぶ。
「うわー、、、、、」
カウンターの前でぽかんと口を開けたまま、間抜けな言葉を出すアレン。
それも仕方ない。なぜならカウンターに立っていた女性がとんでもない美少女だったからである。
美しい金色の髪を肩まで伸ばし、気の強そうな少し吊りあがった目をしているがとても清楚な顔立ちをしている。
「何か御用でしょうか?」
透き通る女性らしい声からでもわかる気の強そうな性格。
少し怒っているのかと感じてしまう人も多いだろう。
ボーと立っているだけのアレンに受付の少女は事務的な言葉を投げかけた。
「えっ!いや、あのー、すいません。俺アレンって言います。冒険者になりたいんですが。」
慌てて答えるアレン。
街の地図を見てシミュレーションは散々とやってきたつもりだが実際にどうやって冒険者になればいいのかアレンはまったくわかっていなかった。
ギルドの制服なのだろう、それをビシッと着こなし、見た目からお堅い感じがする女性はマニュアル通りであろう言葉でアレンに対応する。
「申請ですか?それでは適性証明をお出しください。」
「あ、す、すいません。まだこの街についたばかりで、、あの、、何も用意してないんです!」
アレンは緊張し上ずった声で答える。最後の方は声が裏返ってしまった。
「そうなんですね。では隣の建物が職業診断所になります。装備は適性が決まってから購入なされたほうがよろしいかと思います。その後のステータス診断も職業診断所で行いますのでマップリストに入れていた方がよろしいかと思います。ほかの説明は以上のことがお済みになってからの方がよろしいですね。」
アレンの目を見ずに話す女性、おそらく今のアレンのような若者への受け答えを何万回もしてきたのだろうか。
恐ろしくつまらなそうに見える彼女に見とれていると
「他に何かご用件はございますか?」
矢継ぎ早にまくしたてる彼女にあたふたと情けない姿を見せてしまう。
「い、いえ!何にもありません。俺アレンって言います。またすぐ帰ってきますんで!!!」
業務的に話されはしたが親切に教えてくれたギルドの女性に一礼してアレンはギルドを飛び出していった。
「アレン、、、」
彼女はそう小さくつぶやくとすぐにいつもの業務に戻っていった。
「かぁー緊張したー。あんなきれいな人が毎回受付にいるのかな?俺緊張して話せなくなりそう、、、」
先ほどのギルドの受付嬢、あの事務的な話し方さえなければ、、、
なぜかアレンがもったいない。と受付嬢の将来の心配をし、ため息を漏らした。
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