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第8話 まほまほ

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「で、今日から本格的に魔法を学ぶわけだが、まず何をすればいいんだ?」


 アナスタシアはリントブルムに尋ねる。
 今日からアナスタシアはリントブルムから本格的な魔法を学ぶわけだが、黒いドラゴンはいつものように鼻をフンフン鳴らしながら――


「えっとー、魔素マナはもう見えるんだよね。ならもう教える事なんて何もないよ。」


 フンフンと鼻を鳴らしながら答えるリントブルム。
 しばしの沈黙があった後、アナスタシアが口を開いた。


「いや......リントブルム。私はまだ何の魔法も使えないのだ。まだ光が見えるようになっただけだ。いくら何でもそれでは魔法とは呼べないだろう!? めんどくさいのは承知している。だが頼む、何でもいいんだ。何かやれることはないのか?」


 必死に懇願するアナスタシア。
 今まで魔法の ”ま” の字も使えなかった彼女にとってこれはおそらく魔法を会得できる人生最後のチャンスとなりえる可能性があるのだ。
 だがリントブルムももったいぶっているつもりはない。


「だってもう見えるんでしょ? 後は動かすだけだよ。」


 さも、当たり前だよと言わんばかりの言葉。


「動かす? この光をか? そうか、動かすのか!! よーし......えーと.............ん?......リントブルム......で、どうやって動かすのだ?」

「えぇ? どうやって? そんなの動けーってすると動くんだよ。それ以外にどうやって動かすの? 変なこと聞くアナスタシア。」


 首をかしげ、頭大丈夫? と言わんばかりの顔をしている。
 確かにリントブルムに教わろうとした自分が愚かだったと感じるアナスタシア。
 彼にとっては魔法とは息をする事と同じレベルなのだろう。


「そうだなー。......あっそうだ!! ねぇねぇ、アナスタシアは魔法が使いたいんでしょ。なら僕がいろんな魔法を見せてあげようか? それをマネすればいいんだよ。これならすぐに使えるようになるよ。」


 リントブルムはいい提案だろと言わんばかりに胸を張りながら答える。。
 親切な申し出なのだがアナスタシアはブンブンと首を横に振りその申し出を音速で断った。


(ひぇぇぇ!! 以前放ったあのとんでもない魔法みたいなのをいくつも使われてはこっちの身が持たん!!)


 前回の暗黒火炎波動砲ヘルフレアの余波だけで全身大やけどを負ってしまったアナスタシアにとってリントブルムの魔法はトラウマでしかない。
 この謎の魔法陣がなければあの時の火傷で死んでもなんらおかしくはなかったわけだ。
 いや、次は死ねる自信がある。


「わかった!! リントブルム......では魔素マナを動け―っていうのか? それを一度見せてもらえないだろうか? 魔法じゃなくて動かすだけ。魔法は絶対使わなくていいが動かすところだけ見てみたいんだが......。」

「えぇ? そんなのでいいの? だってビームとか撃ちたいんじゃないの?」


 本当に驚いた顔をしているリントブルム。
 自分がおかしい事を聞いているのか? と心配になるアナスタシアだが――


(あんな威力のものを教えられる方が怖い。私にあれが撃てるようになるとも思えんがな。)


 やはりリントブルムの考えがズレていると認識を改める。
 だがストレートにそのことを言えないアナスタシアは――


「物事には順番があるんだ。私は如何いかんせん才能がないのでな。まず動かすところから始めないといけないみたいだ。それができたらまたビームだったか? それを教えてもらうとしよう。それでどうだ?」


 苦笑いを浮かべ答えるアナスタシア。
 リントブルムは絶対わかってないのだが、わかったような顔をして「わかったよ!!」とフンフン鼻を鳴らす。

 そして彼は勢いよく2本の後ろ足で立ち上がった。
 10mは下らないたくましい巨体を見上げるアナスタシア。


(この巨体であの俊敏さ、攻撃力も申し分ない。そして魔法も天才的。そもそもこのドラゴンの弱点など探る方が愚かだったな。)


 アナスタシアは改めて目の前の黒いドラゴンに圧倒的な実力差を感じてしまった。
 だがネガティブな意味はない。むしろポジティブな意味合いでの感情だ。


(この者に教えを乞えるのは勇者の端くれとして幸せ者なのだろうな。私は......。)


 いつもの苦笑いを浮かべながら大きなリントブルムを見上げているアナスタシア。

 するとリントブルムが「始めるよー。」と気楽な言葉をアナスタシアにかけ、短い腕をピコピコと上下左右に動かし始めた。
 はたから見れば大怪獣が犬かきしてるようにしか見えないのだが、アナスタシアはすぐさま当たりの状況の変化に絶句する。


「まさかこんな事が......。」


 今まで見ていた光がまるで星空なら、今見ているのは数多の流星群であろうか。
 光が線を引き流れるその光景はまた新たな感動をアナスタシアへ刻み込んだ。

 何千、何万とある光が一斉にいろいろな方向へ向きを変えたりしながら飛び交う。


「なんと美しい......。」

「フンフン。こんなのアナスタシアもすぐ出来るようになるよ。」


 その言葉に少し驚くアナスタシア。
 こんな事が私にもできるようになるのか!? そんな表情をしていたのだろう。
 だがすぐにリントブルムにとっては簡単という意味なのだとその言葉を置きなおし――


「ハハハ......だといいのだがな。」


 とおなじみの苦笑いを浮かべる。


 だが彼はその返事の真意には気づくことなく「えい!! えい!!」と、魔素マナを動かしながら続けてアナスタシアに話しかけた。


「それにしてもアナスタシアは、魔素マナが好きなんだね。ずっと見ていて退屈じゃないの?」


 この光景を退屈というのかと、また一瞬驚いてしまったが毎日この光景を見続けていれば飽きてしまうのも無理はないのかもしれないと思う反面――


(女ならこれを見て心を奪われない者はいないぞ。)


 とも思ってしまう。
 だがそんな事を考える自分に笑えてしまい――


「フフフ、そうだな。そう言われると自分が女なのだと自覚させられるな。だが君も男なら知っておいた方がいいぞ。女は光物ひかりものにはめっぽう弱いのだ。」 

「ふーん、よくわからないけどそうなんだね。覚えておくよ。」


 線引く流星に心を震わされたアナスタシアはその後、一層マナ操作の会得に打ち込む決心を固めるのだった。



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