平安桃花繚乱薬事

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『桃……何故泣いているんだ?』
『可愛がっていた白犬が死んだの……』
『厚く弔おう』
『違う……怖いの』
『何が』
『知るのが……。身近な人の筈なの。人は嘘ばかり……もう心の声なんか聞きたくない』
 誰かが私を憎んでいる 誰があの子を 

(遠い……記憶) 
 
 未だ肩までの垂髪たれがみ。二人で遊んでいても誰からも見咎められなかった幼い頃だ。

「桃、力を制御する練習をしよう。強い力に翻弄されると自身を蝕む」
「“無能”の葵に何が分かるの?」 
「雨を降らす」 

 その言葉の通り、晴れた空にポツポツと天気雨が降り出した。 

「嘘……こんなこと。天候を変えるなんて、はじまりの天子様だけの言い伝えよ」
「そんな大層な力じゃない。ただ、“等分”しただけだ」

 何ともなく言って遠い青々とした山の向こうの積乱雲を指す。

「遠く離れれば雨雲がある。こちらの空と等しく分けただけだ。その分向こうより弱い雨になっている」
「ううん、それでもすごいことよ。きっと正六位は約束される」
「無冠でいい。六位になっても仕方がない」
「どうして葵はそんなに無欲なの」
「無欲じゃない……位を授かれば、従者をできなくなる」
「ふうん。従者でいいなんて気楽ね。それじゃあ私の犬にしてあげる」

「葵は私のものね」

 無表情の幼馴染は珍しくふっと吹き出して笑い、虹が、出来ていたっけ……



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