殺し屋『死神』の不殺の物語

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1話 愚者

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鼻を突く生ゴミの臭い、久しく感じる重力の重み、僕は帰ってきたのだこの『現実』と言うどうしようもない地獄に。

────クソッタレ

壁を拳で叩いた。


さてと、干渉に浸っている場合では無いか。


ここは何処だ?そして──彼等は誰だ?

こちらを見下す二人の男。

背が高いな、いや……俺が腰をついているだけか。

眼前に突き付けられたナイフ、逃げ場の無い路地道、下卑た顔、品格の『ひ』の字もないような容姿───あぁ、なるほど。



───ホモセクシュアルか。


「違ぇわ!!ぶっ殺すぞ!!」

一人は高身長で筋肉質、頭にバンダナを巻いた褐色の男、一見して野蛮そうだ。もう一人は低身長、猫背、後顔色が悪い、こっちが権威的には上か。

「ふむ、ホモセクシュアルでないのならば、押し倒されている意味が分からないな、まさか、なんていう低俗な事をする人間だとは思わないし…」。

男のナイフを握る拳が力む。

「さっさと、金目の物を出せや、殺すぞ」。

流石に筋肉ダルマとは違って考える知能はあるか、コイツは人を目をしている、これは何人か殺しているな。

「おっと、待ってくれ、見ての通り金目の物どころか一銭すらも持っていない、只、そこで提案がある───」。


「?何だ、言ってみろ」。


「────君等が持っている銭を全て置いて行け、そうしたらを向けた事を許してやる」。
 
冷笑的シニカルな笑みを浮かべ、彼奴等に嘲笑を向けた。その行いは反面教師であり、因果応報、当然のごとく男の右肩に刺し出されたナイフ。距離にして六寸、ほぼゼロ距離。只、男が無抵抗に刃渡り五センチのナイフを右肩に受けたかというと─────





────否である。

狭い路地の壁面を使い滑空する。突発的な急動に怯む男の手の甲に蹴りを入れる。堪らずナイフ握る手を緩めた。瞬間、一切の間髪入れずにくうでナイフを拾い曲芸師の如く男の首の脈を断つ。

膝から崩れ落ちる男を傍目で見た肉ダルマはその刹那に起きた出来事を呑み込めずにいた……いや、呑み込むことが出来なかった。

血を垂れ流しピクリとも動かない同胞、壁面に飛び散った血汚れ、それらを目視したのちゆっくりと先程まで弱者だった者へと目を向けた。

放ったナイフのキンという鋭いノイズを最後に男が一瞬にして殺された事を悟る。

「う、う、うわぁ゛ぁぁあ!!」

腰を抜かし忽ち失禁をした。後退りする手が震えで思うように動かない。

「やるなら、そのナイフを拾え、を使っていいのは死ぬ覚悟がある奴だけだ、お前はまだ、それを取っていない」。

首を大きく横に振った。例え自分がソレを取ったとして抵抗虚しく殺されるのが目に見えていたからだ。

大柄な男は尻尾を巻いて逃げて行く。結局の所、皆自分が可愛いのだ。

復讐とか敵討ちとか、そんな一時の感情や気の迷いで人生を棒に振るなど無駄遣いにも程がある。死んだのが同胞であろうと家族であろうと、自分の人生を天秤に掛けたらどう考えたって自分の人生を取る。だから『殺し屋』なんて仕事があるのだ。
どちらも欲しい『我儘』な奴らは文字通りどちらも取る。自分の復讐、かたきという怨むべき相手の生殺与奪を赤の他人に放棄する。他人の手を介したソレは復讐なんていう大義じみたもの等では無い。


それは只の──






───殺人だ。


    
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