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エルゼビュートの牢

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ツギハギだらけの右腕、首から項にかけて包帯がかかり、血色の悪い面持、生きてるのが不思議な位、傷だらけだ。

「で───今更で悪いんだが、なんで俺こんな所いんの?」。

「……知らないけど、ここにいる人は基本的に人攫いにあったか親に売られた人、だからきっと……えっと」。

「ゾラ、ゾラ=エルトダウン」。

「ゾラ君は人攫いにあったんだと思う」。

全く持って記憶に無い、というか人攫い、如きに遅れを取る程やわな身体はしていない。

「う~ん」。

「砂漠かどっかで爆睡でもしてたんじゃないの……はは、そんな訳無いか」。

「あ──それだ」。

「それなんだ」。

鎖の外れた足枷、鎖を引きずりながら歩くとカラカラと石床を跳ねる。

「これ、何の意味があんの」。

「無理矢理外そうとすると爆発する……事になってる」。

「事になってる?」。

少女の不思議な言い回しに疑問を持った。

「うん、反逆者を出さない為の脅しみたいな物、この質量の火薬を内蔵するのにも、魔術様の刻印を彫るのにもお金が掛かり過ぎる。何百人も居るのにそんな高価な物つけられない」。

「やけに饒舌だな」。

「うん、魔法とか推理とか好きだから、ダメ?」。

「別に駄目じゃねぇよ──まぁ、爆発しようがしまいが関係ないんだが」。

「何か言った?」。

「別に何も」。

ゾラは辺りを見回す。不衛生な牢の中、従属し支配された奴隷しょゆうぶつ。どれも死んだ様な目をしていた。

酷いもンだ、昔は俺も化物なんて言われたか、人間の方がよっぽど悪魔的じゃねぇか。    

その酷い有様に苛立ちを覚えた、そんな時だ。

「ねぇねぇゾラ君、一つ聞いてもいい?」。

「なんだよ、改まって」。

真剣な面持で彼女は口にする。

「──貴方は私が怖くないの?」。

普段の俺ならここは茶化している場面だ、只、コイツのこの真剣な顔を見るにそういう話では無いのだろう。もっと、なんというか根の深そうな感じだ。

ゾラはルピシアの顔を険しい表情でじっと見つめた。ルピシアはそれにたじろぐ。

透き通った白肌に琥珀色の瞳、乱れてはいるもののこれ程までに劣悪な環境下の中その銀髪は気品すら感じさせた。

若干の時間を置きゾラは吹っ切れた様にうんと頷く。



「────タイプじゃねぇわ」。


───結局茶化した。

彼女の瞳から光が消えた。元々表情の変化が乏しい彼女だが今回に関しては全くの無表情、人間が石ころに向けるそれであった。

流石に地雷を踏んだと反省したゾラは

「大剣抱えたウルフマンにロケットモヒカンのトゲトゲ肩パットがそこら中に歩いてんのに何処を怖がれと」。

自らの発言をフォローした。

「そういう事じゃ……まぁいいか」。

その問いの本質はそこには無い。でも彼女は自身に掛けられた長年の間忘れかけていた、優しい言葉が只々嬉しかった。
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