とある天使の過去と今

星野 夜空

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 ──本当のことを言えば許したいと思った。上辺の中に、確かに罪悪感があったから。

 だけど、地界の皆から赦すなと言われていた。

 曰く、本来なら天界で勉強できたことを、地界で勉強した。曰く、家族の中で生まれる知識や道徳を、ルーラを代表とする死神皆から学んだ。何より……彼等は一生、知ることがないものを私は負ったから、たとえ私が許しても、赦せないそうだ。
 死ぬまで治ることのない、傷跡を背負ってしまったから。
 それは痣だったり、火傷だったり、武器の痕だったり、様々ではあるけど。女ということを除いても酷いものだそう。
 治療をしなかった故に、全て残ってしまった。
 だから、決して当時の天使を赦すなと言われた。正直彼等のことは許すも許さないもないとは思ってるのが本音。そこまで考えたことがないというのもそうだが、理解したからもうどうでもいい存在だと思ってる。向こうがきちんと反省しているのなら許す、これはどんな事柄に通じること。
 私にとっての天使とは、その程度の存在。例外は、ザレブさんとアーオンさん……部下となった二人くらいか。
 アーオンさんは当時一般天使、私の幼少時代を知らない。つまり元から対象外。ザレブさんは助けようとしてくれた。だから多分、ルーラ達の説得も大丈夫だろう。
 ……というか、部下の選別でさえ何か関わりがあるようで怖い。溺愛とはまた違うが、可愛がってもらっている自覚はある。そして死神の仕事上、天使と提携することもあるから……つまりはそういうことである。


 そんな、ある意味濃い初日を終えて着替える。天使の服装は苦手。ゆったりとしてるし、白いから髪と合わないし。
 体にフィットした黒い私服に落ち着いて吐息を吐くと扉を叩く音がして、返事をすれば音を立てて開いた。

「ルネ、地界に帰るなら急いだ方がいいよ? 閉門時間が……」

 部屋に入ってきたザレブさんが固まる。着替えは済ませているから変なものはないはずだけど……。

「……どうかなさいましたか?」
「あ、いや……。気を悪くしたらごめんね? それ、似合ってるなって思って」

 言われて自分の服装を見る。別段いつもと変わらない、体に合う服。見慣れていないだけなのかもしれない。でも、ザレブさんは長い間上位天使だから地界とかにも行ったことありそうだからそんなことはない、と思う。

「……別に、悪い気はしませんが」
「そう? 天使だから、やっぱりそういうこと言われるのは嫌なのかなって思って」
「……好きで着ていますから」

 容姿は確かに気にしてる。でももう、変えられるわけじゃない。ならそれに見合う服装をすればいいと思ったから着てる。
 天使だから地界の服なんてって、古株の地界住民には結構言われてはいる。でもそれが天界に戻った時への配慮と知ったときの気持ちを思い出して、思わず口元が緩んだ。
 二人に別れの挨拶を交わし扉を潜り抜けた途端閉まり始める。大きな音を立てて閉じたのを確認して、帰り道を歩こうとして足を止めた。


 ずっと避けていたアキが目の前にいた。
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