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そうした過程で入った上位天使の仕事場。初めての時は緊張はもちろん、自分に関することへの不安があった。
迫害されてきた身だ、いじめられたとしても気にはしない。ただしそれはあくまでも自分のことだけ。地界のことを考えると足枷となってしまう。思わずため息が出た。
その時玄関から、綺麗な白金の髪と瞳を持つ天使が現れ、私を見ると一直線に来た。
「おい、あんたか? 異端の天使ってやつは」
「……他におりませんのでしたら、私のことでしょう」
「ふーん……。色以外違いはねぇんだろ?」
「……そのはずですが」
じろじろ見られるのも長年の地界生活で慣れてしまった辺り、皮肉を感じる。
「……あの。貴方は私の上司でしょうか?」
「俺はアーオン。あんたの部下だ」
この発言で度肝を抜かれたが。
聞けば彼も最近上位天使になり、私より五十年ほど歳が上なのだという。門番は元より志望していたから異端の、また年齢が低い私でも気にしないと言われた。
安心したのもつかの間、話はまだあった。
「それともう一人、あんたに仕える。そいつはもう中にいるぜ」
「……案内してもらえますか?」
「あぁ」
くるりと方向転換し来た道を戻るのについていく。ドアをくぐりエントランスを抜け、最上階に近い会議室になんの躊躇いもなく入る。続いて入ろうとして、私は目を見開いた。
明らかに歳上……少なくとも、アーオンさんみたく歳が近しい者ではないことが一目で分かるくらい風格がある。
私の部下になんて、冗談にしか聞こえないくらい。
「初めまして、黒き者。そして新人さん。今日は顔合わせとちょっとした打ち合わせだから、各々楽な態度で良いんだって」
にこにこ長机に座り足を組む様は似合っていて、思わず見とれてしまい、言われた言葉にはっとなって慌てて中に入り扉を閉めた。
アーオンさんは既に離れたところで腕組みをして壁によりかかっていた。足を組んだ人は私が動かないのを見て一度頷き、では、と前置きして互いの名前を、つまりは自己紹介をした。
「僕の名前はザレブ。ザレブ・ユントスト」
「アーオン・ミカルネだ。アーオンと呼んでくれ」
「……ルネ・エスペラル」
「……エスペラル? エスペラルって、死神のかい?」
座った人──ユントストさんが驚きを隠せないといった表情で私を見る。ルーラは死神の長だから、天使に知られているのだろう。
私が地界に居て、かつ育てたのが彼だと知られていないのか判断できず、とりあえず頷くしかなかった。
「へぇ……死神の長が君を……天使をね」
今の言い方と表情からして、まるで仲が悪いみたい。皆私に良くしてくれていたのに、内心はそうじゃなかったってこと?
訝しげに見る私に気づいたのか、苦笑しながら説明してくれた。
「百年くらい前かな? いきなり『君達天使と今まで仲良くやっていた。だけどこれからは仕事のみとしたい。理由は言わずもがなだよ』って言ってきたんだよ」
……違ったのに安堵したのも一瞬。時期と発言で間違いなく私に起因してる可能性が高いものだった。
そしてこれは天使では有名な話なのだろうか。アーオンさんも驚き顔で私を凝視していた。
迫害されてきた身だ、いじめられたとしても気にはしない。ただしそれはあくまでも自分のことだけ。地界のことを考えると足枷となってしまう。思わずため息が出た。
その時玄関から、綺麗な白金の髪と瞳を持つ天使が現れ、私を見ると一直線に来た。
「おい、あんたか? 異端の天使ってやつは」
「……他におりませんのでしたら、私のことでしょう」
「ふーん……。色以外違いはねぇんだろ?」
「……そのはずですが」
じろじろ見られるのも長年の地界生活で慣れてしまった辺り、皮肉を感じる。
「……あの。貴方は私の上司でしょうか?」
「俺はアーオン。あんたの部下だ」
この発言で度肝を抜かれたが。
聞けば彼も最近上位天使になり、私より五十年ほど歳が上なのだという。門番は元より志望していたから異端の、また年齢が低い私でも気にしないと言われた。
安心したのもつかの間、話はまだあった。
「それともう一人、あんたに仕える。そいつはもう中にいるぜ」
「……案内してもらえますか?」
「あぁ」
くるりと方向転換し来た道を戻るのについていく。ドアをくぐりエントランスを抜け、最上階に近い会議室になんの躊躇いもなく入る。続いて入ろうとして、私は目を見開いた。
明らかに歳上……少なくとも、アーオンさんみたく歳が近しい者ではないことが一目で分かるくらい風格がある。
私の部下になんて、冗談にしか聞こえないくらい。
「初めまして、黒き者。そして新人さん。今日は顔合わせとちょっとした打ち合わせだから、各々楽な態度で良いんだって」
にこにこ長机に座り足を組む様は似合っていて、思わず見とれてしまい、言われた言葉にはっとなって慌てて中に入り扉を閉めた。
アーオンさんは既に離れたところで腕組みをして壁によりかかっていた。足を組んだ人は私が動かないのを見て一度頷き、では、と前置きして互いの名前を、つまりは自己紹介をした。
「僕の名前はザレブ。ザレブ・ユントスト」
「アーオン・ミカルネだ。アーオンと呼んでくれ」
「……ルネ・エスペラル」
「……エスペラル? エスペラルって、死神のかい?」
座った人──ユントストさんが驚きを隠せないといった表情で私を見る。ルーラは死神の長だから、天使に知られているのだろう。
私が地界に居て、かつ育てたのが彼だと知られていないのか判断できず、とりあえず頷くしかなかった。
「へぇ……死神の長が君を……天使をね」
今の言い方と表情からして、まるで仲が悪いみたい。皆私に良くしてくれていたのに、内心はそうじゃなかったってこと?
訝しげに見る私に気づいたのか、苦笑しながら説明してくれた。
「百年くらい前かな? いきなり『君達天使と今まで仲良くやっていた。だけどこれからは仕事のみとしたい。理由は言わずもがなだよ』って言ってきたんだよ」
……違ったのに安堵したのも一瞬。時期と発言で間違いなく私に起因してる可能性が高いものだった。
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