とある天使の過去と今

星野 夜空

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 そうして彼──ルーラに引き取られて数十年。高等学校を無事に卒業した私は、天使なのに死神の仕事を手伝うという異例なことをしていた。
 一時期は天界に戻った方が良いとも言われたけど、今や家族となったルーラと離れるのは嫌だと抗議したらあっさりと許された。その理由の背景には、やっぱりというか天界に住む天使達が持つ私への悪感情。


──あの堕天使もどき、まだ生きてるんだって。

──しかも、地界で過ごしてるって話らしい。

──天使の恥よ、全く……。

──いい加減、消えてほしいな。


 今はともかく昔は幼かったのに、平気で罵倒や暴力をしてきたのだ。数十年程度で消える感情なら地界の人達も養子という形で保護はしないだろう。
 実際、私が生きてると知った天使達数人が連れ戻そうとして地界に来たけど、養子とされていると聞いた時愕然としていた。ただの保護なら引き取るのは容易だが──そして私はあの暴力と蔑みの暮らしに戻る──養子なら話は別となる。自ら進んで私を自分達の子としたのだ、そう簡単に手放しはしない。ましてや酷い扱いを受けると分かっているなら尚更だ。おまけに地位のある者から引きはがそうとするのは至難の業だろう。
 案の定、天使達はルーラに私がどんな存在か話したが「そんなの関係ない」ときっぱり言われすごすごと帰っていった。
 それで終わりだと思ったのは私達だけだったようで、数日後には思わぬ事態が起きた。
 天界の住民が地界の住民を襲い、私を奪おうと躍起になっていたのだ。

「まさか、彼等がここまで馬鹿だったとはね」

 苦い顔で呟くルーラに同意する。天界と地界の者が仲良くなり兄弟の契りを行なう事もあれば、喧嘩をする事だってある。それを取り締まるのが天界では上位天使、地界では赤鬼の役目なのだが……。
 その上位天使が地界の住民を襲い、目的が私を天界に悪い意味で連れ戻そうとしている。
 まさに、狂ってるとしか言えない行為だ。

「ねえルネ。年齢って、確か百は超えてるんだよね」

 その時、唐突といっていいほどルーラが脈絡のない話を振ってきた。歳なんて、聞いてどうするつもりなのだろう。

「……超えてる」
「二百は?」
「……分からないけど、まだだと思う」
「あとどれくらいで二百になる?」
「……多分、十年くらい」
「そっか……。長いな。それまで君を守らないと」
「……どういうことなの」

 答える代わりに見せた妖艶な笑みの意味を知ったのは、私が二百歳に──地界では成人とされる年齢になってからだった。
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