5 / 16
5
しおりを挟む
「なまえ……ない」
「……そうか。じゃあナナシと当面は呼ぶか」
それから彼は頻繁に会いに来て、私にとって兄であり先生となった。学校の行けない私に様々な知識を教えてくれた。
読み書き、計算、家族や友達と触れあうことで知る道徳や常識。教え方が上手で、まるで砂が水を吸い込むように沢山のことを覚えることが出来た。
本人は謙遜してか「お前は飲み込みが早い」と言っていたけど。
でも、それをよく思わない人物がいた。今までずっと私に暴力を振るっていた天使達だ。
生意気だとか、要らない知識だろとか。口汚く罵りながら力を使う彼等は、今でも醜いと思えるくらい歪んでいた。
たまたまそれを見て止めようとしたアキに対して、上位天使しか扱えず、大きな争い──大昔にあった戦争でしか使われたことのない、攻撃呪文を唱えたくらいなのだから。
そうして一つの決意を秘めて、後日会いに来てくれた彼に私は伝えた。
もう、来なくていいと。これ以上、私と関わって傷つけるようなことをしたくないと。
酷くその言葉に目を見開いた彼に後ろめたさを感じた。こんな私に関わって重傷を負って、それでもなお会いに来てくれたのに……。
いたたまれなくなって、私は駆け出した。追いかけてくる気配はなかった。
それがより一層悲しくて、気づけば町外れにいた。よくアキが勉強を教えてくれた、大樹のある広場のような場所だ。
不思議と涙は出てこなかった。辛くて悲しくて、出るかと思ったのに。いつから泣かなくなったか思い返して止めた。そんなの、考えたところで意味がない。
「……これからどーしよ」
言葉がつい出てきてしまう。町に戻るなんて出来ない。戻れば住んでいる人達からまた酷いことをされる。でも、行くあてもない。
途方に暮れていると、誰かが通りかかったみたいで影がちらりと見えた。隠れる場所もない、もうどうにでもなれとやけっぱちになっていた。
「やあ、こんにちは。迫害されてる幼い天使は、君で合っているかな?」
ルーラ・エスペラル。魂の運搬や管理の総監督者にして死神の長。そして私の、育ての親と出会った。
「……そうか。じゃあナナシと当面は呼ぶか」
それから彼は頻繁に会いに来て、私にとって兄であり先生となった。学校の行けない私に様々な知識を教えてくれた。
読み書き、計算、家族や友達と触れあうことで知る道徳や常識。教え方が上手で、まるで砂が水を吸い込むように沢山のことを覚えることが出来た。
本人は謙遜してか「お前は飲み込みが早い」と言っていたけど。
でも、それをよく思わない人物がいた。今までずっと私に暴力を振るっていた天使達だ。
生意気だとか、要らない知識だろとか。口汚く罵りながら力を使う彼等は、今でも醜いと思えるくらい歪んでいた。
たまたまそれを見て止めようとしたアキに対して、上位天使しか扱えず、大きな争い──大昔にあった戦争でしか使われたことのない、攻撃呪文を唱えたくらいなのだから。
そうして一つの決意を秘めて、後日会いに来てくれた彼に私は伝えた。
もう、来なくていいと。これ以上、私と関わって傷つけるようなことをしたくないと。
酷くその言葉に目を見開いた彼に後ろめたさを感じた。こんな私に関わって重傷を負って、それでもなお会いに来てくれたのに……。
いたたまれなくなって、私は駆け出した。追いかけてくる気配はなかった。
それがより一層悲しくて、気づけば町外れにいた。よくアキが勉強を教えてくれた、大樹のある広場のような場所だ。
不思議と涙は出てこなかった。辛くて悲しくて、出るかと思ったのに。いつから泣かなくなったか思い返して止めた。そんなの、考えたところで意味がない。
「……これからどーしよ」
言葉がつい出てきてしまう。町に戻るなんて出来ない。戻れば住んでいる人達からまた酷いことをされる。でも、行くあてもない。
途方に暮れていると、誰かが通りかかったみたいで影がちらりと見えた。隠れる場所もない、もうどうにでもなれとやけっぱちになっていた。
「やあ、こんにちは。迫害されてる幼い天使は、君で合っているかな?」
ルーラ・エスペラル。魂の運搬や管理の総監督者にして死神の長。そして私の、育ての親と出会った。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】仰る通り、貴方の子ではありません
ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは
私に似た待望の男児だった。
なのに認められず、
不貞の濡れ衣を着せられ、
追い出されてしまった。
実家からも勘当され
息子と2人で生きていくことにした。
* 作り話です
* 暇つぶしにどうぞ
* 4万文字未満
* 完結保証付き
* 少し大人表現あり
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
愛する貴方の心から消えた私は…
矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。
周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。
…彼は絶対に生きている。
そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。
だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。
「すまない、君を愛せない」
そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。
*設定はゆるいです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる