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番外編
さあ、飛び出そう
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いよいよ明日は王都から出る日。隣国か境目か、それはまだ決めかねているけど、分岐の街までは乗合馬車で五日かかる距離。自分達で借りたらそんなでもないんだけどね。
あいにく、馬を保有できるほどのチーム資金はまだない。いつか自分達の手で稼いだお金で買おうというのが目標だ。馬の手入れはいつか役立つだろうという神父様の計らいで、街にいた頃世話をさせてもらったから多少は出来るから無問題。
そんなこんなで準備日として今日は休み。全員で最後の確認と買い出しをしていると、あちらこちらから「気をつけて」と声をかけられた。
どうやら私達がここを出ると広まっているようだ。そんな大層なことはしてないけれど、ものによっては人と関わることの多かった依頼もあったから顔見知りは案外多い。特にアランとマリはその容姿からしてファンもいるらしく、行く先々で王都周辺の街で活動することがあれば是非寄ってください! と言われることの数多さ。耳にタコができるよ。
そうして、ようやく全てが終わったのも日が暮れ始める頃合いだった。疲れたーお腹空いたー。
「いや、まさかこんなに気にかけてもらえてたなんてね」
「ん? どうして?」
「冒険者ってさ、どうしても職業柄、街の人と仲良くなれないから。それに僕らの場合、身分差もあって今まで気さくに、何の裏もなく話しかけてくれる人なんて少なかったし」
「そうですね。私も、少し意外でした。このように皆さんと話せるようになるなんて思いもしておりませんでしたから」
「……そっか」
大分忘れてきたけど、二人は貴族。マリなんか箱入り娘状態でいたわけだし、余計こう、寂しいんじゃないかな。
……半分私が理由なのよね。申し訳ないな。
それが顔に出てたのか、二人から指摘された。また暗い表情をしてると。
「君のせいでも何でもないんだから、気にしなくていいんだよ」
「そうです。それに私、元々他国の王都や辺境街へ興味がありましたもの。丁度いい機会です。
それと、新人としては十全の力があると、先日宴の席で言われて自信に繋がってますから」
「ああ、言われたね。王都系統じゃなく辺境系統もやっていけるって」
そう笑い合う顔は、嘘なんかついてない真の笑み。気にしすぎだと言われているのは分かっているけど、その優しさに毎回私は甘え、救われてる。
鼻の奥がツンときたのは、内緒。
☆
翌日。程よく晴れた空はこれからの旅路に悪影響はなさそうだ。
馬車乗り場には幾人か、見送りのつもりだろうか。冒険者の人が来ていた。
「これから寂しくなるな、元気でやれよ」
「ええ、もちろん。貴方も元気で」
「マリーナちゃん、体に気をつけて。何なら俺もついていこうか?」
「まあ、ご冗談が上手ですね。手付きに手を出すのはいただけませんよ」
御者さんと話すことがあるから、と嘘をついて少し距離を置いた場所では最後の歓談をしている。……あいにく私にはそんな人がいない。いないわけじゃないけど、何というのだろう。どうしてもこの剣で引かれがちだ。
「おい、ラナ」
そんな中でも話しかけてくれた人もいた。古参だというビエムさんだ。
「なんですか? 私、道の確認をしてたところなんですけど」
「はいはい。影を薄くするのも大概にな。女だからって舐めてくる奴らなんざぶっ飛ばしちまえ。お前はお前だろうがよ」
「……私が勝手に線引きしてるだけですよ」
頭によぎるのはボロボロにされた衣装。あんな想いを抱いて、やり場のない気持ちがあったのは否定しない。でも犯人探しはご法度だとされて、あのゴタゴタが終わり、祭りの経緯を経てこれだ。
一人ならまだしも、二人まで一緒になってしまって。負い目になってないと言ったら嘘。
そんなことは分かってると言わんばかりに頭をぐっしゃぐしゃに撫でられる。髪の毛がボサボサにされてジト目で見れば、そんなの知らんって顔で更に撫で回された。
「お前は遠慮しすぎなんだよ。仲間にさえもな。実力もあるんだ、自信もって行ってこいや」
「はぁ……」
言いたいことだけ言って他冒険者達の元へ戻るビエムさん。全く、手向けの花にも程がある。これだから古参はお節介だと言われるのよ。……嬉しくないと言ったら違うのがまたムカつく反面嬉しいと思うのは内緒。
そうして別れの言葉をひとしきり言い終えると、水を打ったような静けさに包み込まれた。もうすぐ乗合が発車する合図が、小さなベルの音にも関わらず聞こえたくらい。
「じゃあ、行こうか」
そっと笑みを浮かべて促してきたアランへ私達二人は頷く。時間なんてあってないようなもの。それに今生の別れでもなんでもない。
だから、前を向こう。道はあの時と違って示されているのだから。
あいにく、馬を保有できるほどのチーム資金はまだない。いつか自分達の手で稼いだお金で買おうというのが目標だ。馬の手入れはいつか役立つだろうという神父様の計らいで、街にいた頃世話をさせてもらったから多少は出来るから無問題。
そんなこんなで準備日として今日は休み。全員で最後の確認と買い出しをしていると、あちらこちらから「気をつけて」と声をかけられた。
どうやら私達がここを出ると広まっているようだ。そんな大層なことはしてないけれど、ものによっては人と関わることの多かった依頼もあったから顔見知りは案外多い。特にアランとマリはその容姿からしてファンもいるらしく、行く先々で王都周辺の街で活動することがあれば是非寄ってください! と言われることの数多さ。耳にタコができるよ。
そうして、ようやく全てが終わったのも日が暮れ始める頃合いだった。疲れたーお腹空いたー。
「いや、まさかこんなに気にかけてもらえてたなんてね」
「ん? どうして?」
「冒険者ってさ、どうしても職業柄、街の人と仲良くなれないから。それに僕らの場合、身分差もあって今まで気さくに、何の裏もなく話しかけてくれる人なんて少なかったし」
「そうですね。私も、少し意外でした。このように皆さんと話せるようになるなんて思いもしておりませんでしたから」
「……そっか」
大分忘れてきたけど、二人は貴族。マリなんか箱入り娘状態でいたわけだし、余計こう、寂しいんじゃないかな。
……半分私が理由なのよね。申し訳ないな。
それが顔に出てたのか、二人から指摘された。また暗い表情をしてると。
「君のせいでも何でもないんだから、気にしなくていいんだよ」
「そうです。それに私、元々他国の王都や辺境街へ興味がありましたもの。丁度いい機会です。
それと、新人としては十全の力があると、先日宴の席で言われて自信に繋がってますから」
「ああ、言われたね。王都系統じゃなく辺境系統もやっていけるって」
そう笑い合う顔は、嘘なんかついてない真の笑み。気にしすぎだと言われているのは分かっているけど、その優しさに毎回私は甘え、救われてる。
鼻の奥がツンときたのは、内緒。
☆
翌日。程よく晴れた空はこれからの旅路に悪影響はなさそうだ。
馬車乗り場には幾人か、見送りのつもりだろうか。冒険者の人が来ていた。
「これから寂しくなるな、元気でやれよ」
「ええ、もちろん。貴方も元気で」
「マリーナちゃん、体に気をつけて。何なら俺もついていこうか?」
「まあ、ご冗談が上手ですね。手付きに手を出すのはいただけませんよ」
御者さんと話すことがあるから、と嘘をついて少し距離を置いた場所では最後の歓談をしている。……あいにく私にはそんな人がいない。いないわけじゃないけど、何というのだろう。どうしてもこの剣で引かれがちだ。
「おい、ラナ」
そんな中でも話しかけてくれた人もいた。古参だというビエムさんだ。
「なんですか? 私、道の確認をしてたところなんですけど」
「はいはい。影を薄くするのも大概にな。女だからって舐めてくる奴らなんざぶっ飛ばしちまえ。お前はお前だろうがよ」
「……私が勝手に線引きしてるだけですよ」
頭によぎるのはボロボロにされた衣装。あんな想いを抱いて、やり場のない気持ちがあったのは否定しない。でも犯人探しはご法度だとされて、あのゴタゴタが終わり、祭りの経緯を経てこれだ。
一人ならまだしも、二人まで一緒になってしまって。負い目になってないと言ったら嘘。
そんなことは分かってると言わんばかりに頭をぐっしゃぐしゃに撫でられる。髪の毛がボサボサにされてジト目で見れば、そんなの知らんって顔で更に撫で回された。
「お前は遠慮しすぎなんだよ。仲間にさえもな。実力もあるんだ、自信もって行ってこいや」
「はぁ……」
言いたいことだけ言って他冒険者達の元へ戻るビエムさん。全く、手向けの花にも程がある。これだから古参はお節介だと言われるのよ。……嬉しくないと言ったら違うのがまたムカつく反面嬉しいと思うのは内緒。
そうして別れの言葉をひとしきり言い終えると、水を打ったような静けさに包み込まれた。もうすぐ乗合が発車する合図が、小さなベルの音にも関わらず聞こえたくらい。
「じゃあ、行こうか」
そっと笑みを浮かべて促してきたアランへ私達二人は頷く。時間なんてあってないようなもの。それに今生の別れでもなんでもない。
だから、前を向こう。道はあの時と違って示されているのだから。
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