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エピローグ
なぜに
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「よし、そろそろ行こっと」
今日は新学期。先生から諸々の説明をされただろう頃合いになって、私は寮を出た。本当は昨夜出ていこうと思ったんだけど、もしそうしたら勘の良い二人のこと、絶対に逃がされない気がしてならない。なので確実に大丈夫だろうという時間と日付を狙ったらこうなった。
マリの両親から告知された時から、徐々に荷物を片付けていたせいか、荷造りも楽だったのも幸いした。といっても元々寮に付属で付いていた物が多くて、増えていった服を片してただけなんだけど。これから旅立つ身としては随分身軽な方だろう。
☆
あの夜、パーティが終わってすぐ私は着替えて実家へ帰った。一晩中馬で走ったお陰か、早朝には着くことができた。
いきなり帰ってきたことに驚く両親へ話された内容を話し、今後の考えを伝えると泣かれた。それはもう盛大に泣かれた。お父さんなんか男泣きし始める始末で流石に困ったほどだ。
私が攻撃系統として産まれたのは二人のせいじゃない。それに私を育てるということは、二人も後ろ指を指されかねないのに育ててくれた。感謝してもしきれない、と伝えたのが悪かったのか、ますます泣かれてしまった。
『貴方が今後、どこに行ったとしても帰ってくる場所はここなんだからね。いつでも帰ってきなさいよ』
『たとえどんなに離れても家族なんだ。頼れないとか思うな。何でも頼ってこい』
私なんぞにはもったいない親だ。恵まれている。
もしかしたら両親自身、儀式を受けた時に覚悟していたのかもしれないけど。
まあ、理解があるから学園を辞めることもできるし、他国へ流れることもできるわけだし。説得するのに時間がかかるかも……って思ってた分、ありがたいというか何というか。
ああ、でもマリに、友達に別れは告げるのか聞かれて言わないよって話した時にはちょっと揉めたっけ。追うように辞めそうで、それは嫌だからってようやく納得してくれたけど。
☆
「ラ──ナ──!!」
怒涛の日々を思い返していると、背中にきた衝撃と同じタイミングでその叫び声は耳に届いた。
いつぞやのタックルを思い出すなあと思いながら、でもあの頃とは違って声を出すことも倒れかけることもなく、その人を受け止めた。
「酷いじゃないですか、一人でどこかへ行くなんて! 相談くらいしてくださいよ! 私、この三人以外の方とチームなんてもう考えられません!」
「あー、うん。分かったから、その、泣かないで?」
「泣いていません!」
いや明らかに声が泣いてますよマリさんや。そう言いたくて後ろを向くと、見たくないものが視界に入った。……アランのニッコニコ笑顔、目が笑ってないバージョンを。
「ラァナァ? なぁにマリを泣かせてるのかな?」
「泣かせてない! 不可抗力! 気のせい!」
「君が僕らに話してたらこうはならなかったのに?」
うぐ、と言葉に詰まる。一人で何もかも決めた自覚は確かにある。反面、そんなに怒られるようなことをしたか、と問われると人によるのではなかろうか。少なくともこんなに責められるほどのことはしたつもりないのだけど。
「あのね、気づいてなさそうだから言うけどさ。君が思ってる以上に僕らは君と一緒にいるのが楽しいし、好きなんだよ。庶民であるからこそ何の打算もなく僕らと話してくれる上に、接してくれるだろ。それってとても貴重なことなんだからね?」
「そうですよ。私の事情を知って受け入れてくれたことも、アランとの婚約を心から祝福してくれたことも、ラナ、貴方しかいないのです」
それは二人の身分が貴族としか知らなくて、まさかそんなに良い地位にいるなんて思いもよらなかっただけなんだけど。マリの事情だって庶民だとなくはない話だったからすんなりと頭に入ってきたし、婚約自体は驚いたけど二人が幸せになるならむしろお祝いしないのって聞きたくなるだけ。
早い話、「庶民」と「貴族」の常識違いでここまでやってこれたようなものなのにここまで好意的に受け止めてもらえてるとなると、照れくさいやら申し訳ないやら、複雑。そんなご大層なことしたつもりがない分、余計にね。
……てか待って。そもそも何で二人ともいるのよ。学校、まだ終わってないよね?
「だって、君が辞めるなら僕らも辞めようと思っていたから」
「はい!?」
今日は新学期。先生から諸々の説明をされただろう頃合いになって、私は寮を出た。本当は昨夜出ていこうと思ったんだけど、もしそうしたら勘の良い二人のこと、絶対に逃がされない気がしてならない。なので確実に大丈夫だろうという時間と日付を狙ったらこうなった。
マリの両親から告知された時から、徐々に荷物を片付けていたせいか、荷造りも楽だったのも幸いした。といっても元々寮に付属で付いていた物が多くて、増えていった服を片してただけなんだけど。これから旅立つ身としては随分身軽な方だろう。
☆
あの夜、パーティが終わってすぐ私は着替えて実家へ帰った。一晩中馬で走ったお陰か、早朝には着くことができた。
いきなり帰ってきたことに驚く両親へ話された内容を話し、今後の考えを伝えると泣かれた。それはもう盛大に泣かれた。お父さんなんか男泣きし始める始末で流石に困ったほどだ。
私が攻撃系統として産まれたのは二人のせいじゃない。それに私を育てるということは、二人も後ろ指を指されかねないのに育ててくれた。感謝してもしきれない、と伝えたのが悪かったのか、ますます泣かれてしまった。
『貴方が今後、どこに行ったとしても帰ってくる場所はここなんだからね。いつでも帰ってきなさいよ』
『たとえどんなに離れても家族なんだ。頼れないとか思うな。何でも頼ってこい』
私なんぞにはもったいない親だ。恵まれている。
もしかしたら両親自身、儀式を受けた時に覚悟していたのかもしれないけど。
まあ、理解があるから学園を辞めることもできるし、他国へ流れることもできるわけだし。説得するのに時間がかかるかも……って思ってた分、ありがたいというか何というか。
ああ、でもマリに、友達に別れは告げるのか聞かれて言わないよって話した時にはちょっと揉めたっけ。追うように辞めそうで、それは嫌だからってようやく納得してくれたけど。
☆
「ラ──ナ──!!」
怒涛の日々を思い返していると、背中にきた衝撃と同じタイミングでその叫び声は耳に届いた。
いつぞやのタックルを思い出すなあと思いながら、でもあの頃とは違って声を出すことも倒れかけることもなく、その人を受け止めた。
「酷いじゃないですか、一人でどこかへ行くなんて! 相談くらいしてくださいよ! 私、この三人以外の方とチームなんてもう考えられません!」
「あー、うん。分かったから、その、泣かないで?」
「泣いていません!」
いや明らかに声が泣いてますよマリさんや。そう言いたくて後ろを向くと、見たくないものが視界に入った。……アランのニッコニコ笑顔、目が笑ってないバージョンを。
「ラァナァ? なぁにマリを泣かせてるのかな?」
「泣かせてない! 不可抗力! 気のせい!」
「君が僕らに話してたらこうはならなかったのに?」
うぐ、と言葉に詰まる。一人で何もかも決めた自覚は確かにある。反面、そんなに怒られるようなことをしたか、と問われると人によるのではなかろうか。少なくともこんなに責められるほどのことはしたつもりないのだけど。
「あのね、気づいてなさそうだから言うけどさ。君が思ってる以上に僕らは君と一緒にいるのが楽しいし、好きなんだよ。庶民であるからこそ何の打算もなく僕らと話してくれる上に、接してくれるだろ。それってとても貴重なことなんだからね?」
「そうですよ。私の事情を知って受け入れてくれたことも、アランとの婚約を心から祝福してくれたことも、ラナ、貴方しかいないのです」
それは二人の身分が貴族としか知らなくて、まさかそんなに良い地位にいるなんて思いもよらなかっただけなんだけど。マリの事情だって庶民だとなくはない話だったからすんなりと頭に入ってきたし、婚約自体は驚いたけど二人が幸せになるならむしろお祝いしないのって聞きたくなるだけ。
早い話、「庶民」と「貴族」の常識違いでここまでやってこれたようなものなのにここまで好意的に受け止めてもらえてるとなると、照れくさいやら申し訳ないやら、複雑。そんなご大層なことしたつもりがない分、余計にね。
……てか待って。そもそも何で二人ともいるのよ。学校、まだ終わってないよね?
「だって、君が辞めるなら僕らも辞めようと思っていたから」
「はい!?」
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