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本編
どうして?
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そんなこんなも話し終わり、パートナーである二人はダンスをするために中央へ向かっていった。主役とその婚約者が踊るとあるためか、区切りのいい部分で止める人が多い。そんな中で踊るのって緊張しないのかな。それとも慣れとか?
優雅な曲調に合わせてゆったり動きながらターンやステップをする様が綺麗で思わず息を吐く。とっても素敵だ。まるで次元の違う人達を見ているかのよう。まあ、違うのだけど。
そんな風に二人を見つつ人の陰に隠れながら壁際へ下がっていく。場違い退散、はしないけど、こういう場に私がいるのがおかしい気がしてならないから。チキンハートは相変わらず健在なのです。
おまけにこのドレス、既製品だとしても生地が軽いし肌触りは良いしで、庶民には手が届かない代物なんだよね。結婚式でしか着られないような物で凄く落ち着かない。何かあったらと思うと気が気でなくなる。
それはきっと、駄目なことだと思う。誘ってもらった身としても、友人としても。イヤイヤ来たならともかく、そうでないなら楽しまないと、ね。
踊り終わると自然と拍手がうまれ、それに礼をする二人を見ていると、不意に後ろから声をかけられた。
「ラナ嬢、少しよろしいだろうか?」
「え? えぇ、構いませんよ」
ここでする話ではないからと、小声で話しかけてきたマリのお父さん──トラクル爵と、側に控えるように立つトラクル夫人についていくと、パーティ会場からほど近い、控え室と思われる場所へ連れてこられた。
一体何を話されるのだろうかと内心恐々としながら促されてふかふかのソファに座ると、香り高いお茶が運ばれてきた。
その香りに少し和んでいると、おもむろに口を開いたのは夫人だった。
「突然にごめんなさいね、でもあの子達の目を盗むなら丁度良いと思って」
「いえ、その、大丈夫、ですけど」
「ふふ、そんなに緊張しないでちょうだい。お友達の家族に話すような感覚で良いのよ?」
いやいやいや、そういうわけにもいかないだろう。色々あった上に、やっぱり根っこの部分は違うんだってことを分かってしまったから。
「……そのね、ラナさんは今後、国人になるのでしょう? でも、同時に天から祝福があったと聞いているわ」
「え、えぇ。はい」
えーと、剣舞祭のこと、で合ってるよね? そんな大層なものでもないと思ってるんだけど、先生といい、何か周りが大袈裟に捉えすぎてるような気もする。
まあ、神様から認めてもらえたようなものだし、気持ちは分からなくもないんだけどね。こっち側からすると、正直どうでもいい、というか……そんなに気にすることなのって考えちゃうかな。
「気を悪くしないでちょうだいね。……この国から逃げなさい」
「え……な、何でですか?」
でも、それは。
「国が貴方を利用しないように。引いては、貴方自身を守る為に」
思った以上に、陰では大変な騒ぎになっていたようだ。
優雅な曲調に合わせてゆったり動きながらターンやステップをする様が綺麗で思わず息を吐く。とっても素敵だ。まるで次元の違う人達を見ているかのよう。まあ、違うのだけど。
そんな風に二人を見つつ人の陰に隠れながら壁際へ下がっていく。場違い退散、はしないけど、こういう場に私がいるのがおかしい気がしてならないから。チキンハートは相変わらず健在なのです。
おまけにこのドレス、既製品だとしても生地が軽いし肌触りは良いしで、庶民には手が届かない代物なんだよね。結婚式でしか着られないような物で凄く落ち着かない。何かあったらと思うと気が気でなくなる。
それはきっと、駄目なことだと思う。誘ってもらった身としても、友人としても。イヤイヤ来たならともかく、そうでないなら楽しまないと、ね。
踊り終わると自然と拍手がうまれ、それに礼をする二人を見ていると、不意に後ろから声をかけられた。
「ラナ嬢、少しよろしいだろうか?」
「え? えぇ、構いませんよ」
ここでする話ではないからと、小声で話しかけてきたマリのお父さん──トラクル爵と、側に控えるように立つトラクル夫人についていくと、パーティ会場からほど近い、控え室と思われる場所へ連れてこられた。
一体何を話されるのだろうかと内心恐々としながら促されてふかふかのソファに座ると、香り高いお茶が運ばれてきた。
その香りに少し和んでいると、おもむろに口を開いたのは夫人だった。
「突然にごめんなさいね、でもあの子達の目を盗むなら丁度良いと思って」
「いえ、その、大丈夫、ですけど」
「ふふ、そんなに緊張しないでちょうだい。お友達の家族に話すような感覚で良いのよ?」
いやいやいや、そういうわけにもいかないだろう。色々あった上に、やっぱり根っこの部分は違うんだってことを分かってしまったから。
「……そのね、ラナさんは今後、国人になるのでしょう? でも、同時に天から祝福があったと聞いているわ」
「え、えぇ。はい」
えーと、剣舞祭のこと、で合ってるよね? そんな大層なものでもないと思ってるんだけど、先生といい、何か周りが大袈裟に捉えすぎてるような気もする。
まあ、神様から認めてもらえたようなものだし、気持ちは分からなくもないんだけどね。こっち側からすると、正直どうでもいい、というか……そんなに気にすることなのって考えちゃうかな。
「気を悪くしないでちょうだいね。……この国から逃げなさい」
「え……な、何でですか?」
でも、それは。
「国が貴方を利用しないように。引いては、貴方自身を守る為に」
思った以上に、陰では大変な騒ぎになっていたようだ。
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