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その他
疑似恋愛の果て
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「知ってたんだよ。俺らがあの子に対してやってたこと」
いつも集まっている店で遅れたそいつの、伏せ目がちに言われたその言葉に俺らは沈黙した。何だ、知ってたのかって笑い飛ばせることのはずなのに。
いや、本当は分かってる。人として、恋する相手に対して、心を弄ぶなんてやっちゃいけないことくらい。二十歳もとうに越して、来年はいよいよ働く。そんな年齢で分からないはずもない。
いつも先輩先輩と、子どものようにひっついてくるあいつが鬱陶しいと目線を下に下げたままの奴から相談されたことをきっかけに、逆に気のあるような態度を取ったらどうかと言ってしまった。
そしたら面白いくらい狼狽えて、怖いくらい静かになって、その様子が楽しくて。告白したらどうなるんだろうなと酔いの席で話して、その場で通話させて、告白させた。
そっからはそいつの反応を聞いて楽しむようになった。「お遊び」の恋愛だと気づかないそいつが滑稽で面白かった。いつも一緒にいるグループの、特に酒の場ではネタになった。
まさか全部分かってたなんて、分かってて付き合ってたなんて気づかなかった。
「昨日、飯食いに行ったらあいつ酒が駄目なのに飲んでさ。珍しいなって思ってたら、帰りに別れよって……もう疲れたでしょって言ってきたんだ」
付き合い始めてからのあいつは、今までひっついてきたのが嘘のように引いた。周りはそれを見て諦めたのだろうと思い、本人は欝陶しくなくなったと喜び、俺達は本当のことも知らないでしおらしくなったなと嗤った。
まさか、告白したことが転換する理由だったなんて誰が分かるだろう。
「その夜に、あいつから紹介された友人から連絡きてさ。別れた理由聞かれるかと思ったら、人を笑うなんて最低だって言われたんだ」
そいつ曰く、あいつがひっついてた理由は一昨年事故死した、年の離れた兄にこいつがそっくりだったらしい。見た目も、中身も。恋人だと紹介された時、あまりの瓜二つさに驚いたそうだ。
だからつい懐かしくて、退行するかのように近くにいたかったらしい。別人だと分かっていても、どこかで兄と重ねていたらしい。
告白されて、ようやく「兄」と「先輩」は分離したそうだ。
「思わせぶりな態度を取ってたのはあいつだからと、責任感じて付き合ってたんだと。……あいつは、俺と一緒にいて罪悪感しかなかったんだと。この恋愛がお遊びだって話してるのを他の奴から聞いて、気は楽になったらしいがな」
だけれどその頃には、罪悪感と同じくらい愛しい気持ちが現れていた、らしい。そして昨日、ずっと縛っているのも耐えられなくて別れた、と。
事の顛末を聞いて、どれだけ俺達は阿保なことをしたのだろうかと思う他なかった。
何でそんなにひっつきたがるのか、理由を聞けば良かった。ただそれだけのことだったのにこんなことをしてしまった。
店のBGMが、人のざわめきが、普段なら気にもしないことがやけに大きく聞こえた。
いつも集まっている店で遅れたそいつの、伏せ目がちに言われたその言葉に俺らは沈黙した。何だ、知ってたのかって笑い飛ばせることのはずなのに。
いや、本当は分かってる。人として、恋する相手に対して、心を弄ぶなんてやっちゃいけないことくらい。二十歳もとうに越して、来年はいよいよ働く。そんな年齢で分からないはずもない。
いつも先輩先輩と、子どものようにひっついてくるあいつが鬱陶しいと目線を下に下げたままの奴から相談されたことをきっかけに、逆に気のあるような態度を取ったらどうかと言ってしまった。
そしたら面白いくらい狼狽えて、怖いくらい静かになって、その様子が楽しくて。告白したらどうなるんだろうなと酔いの席で話して、その場で通話させて、告白させた。
そっからはそいつの反応を聞いて楽しむようになった。「お遊び」の恋愛だと気づかないそいつが滑稽で面白かった。いつも一緒にいるグループの、特に酒の場ではネタになった。
まさか全部分かってたなんて、分かってて付き合ってたなんて気づかなかった。
「昨日、飯食いに行ったらあいつ酒が駄目なのに飲んでさ。珍しいなって思ってたら、帰りに別れよって……もう疲れたでしょって言ってきたんだ」
付き合い始めてからのあいつは、今までひっついてきたのが嘘のように引いた。周りはそれを見て諦めたのだろうと思い、本人は欝陶しくなくなったと喜び、俺達は本当のことも知らないでしおらしくなったなと嗤った。
まさか、告白したことが転換する理由だったなんて誰が分かるだろう。
「その夜に、あいつから紹介された友人から連絡きてさ。別れた理由聞かれるかと思ったら、人を笑うなんて最低だって言われたんだ」
そいつ曰く、あいつがひっついてた理由は一昨年事故死した、年の離れた兄にこいつがそっくりだったらしい。見た目も、中身も。恋人だと紹介された時、あまりの瓜二つさに驚いたそうだ。
だからつい懐かしくて、退行するかのように近くにいたかったらしい。別人だと分かっていても、どこかで兄と重ねていたらしい。
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「思わせぶりな態度を取ってたのはあいつだからと、責任感じて付き合ってたんだと。……あいつは、俺と一緒にいて罪悪感しかなかったんだと。この恋愛がお遊びだって話してるのを他の奴から聞いて、気は楽になったらしいがな」
だけれどその頃には、罪悪感と同じくらい愛しい気持ちが現れていた、らしい。そして昨日、ずっと縛っているのも耐えられなくて別れた、と。
事の顛末を聞いて、どれだけ俺達は阿保なことをしたのだろうかと思う他なかった。
何でそんなにひっつきたがるのか、理由を聞けば良かった。ただそれだけのことだったのにこんなことをしてしまった。
店のBGMが、人のざわめきが、普段なら気にもしないことがやけに大きく聞こえた。
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