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その他

ぬるま湯は水に

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 読まれることのないLimeライムに、それでもメッセージを打つのはどうしてだろう。
 近況報告、心情、愚痴。何でもかんでも書くのは良くないことだと分かってる。
 分かってるのに、思い出したかのように連絡を取ってしまう。いわば心の安定をはかってしまっているのだと思う。
 だってもう、二度と読まれないのだから。読まれることのないメッセージを、送り続けてしまっている。まるで日記のように、利用している。
 もしかしたらそれは、やってはいけないことなのかもしれない。だけれどいつか、何かの拍子で既読がつくどうなるかもしれない。そんなありもしないことを考えるあたり、末期になってる。


『暇だよ。暇が長いって怖いな。嫌だな。嫌いだな。本当、本当…はあ』

『しんどいよ。辛いよ。ご飯を食べることも、彼氏と離れようとしている自分も全部全部、馬鹿なんじゃないのって思う』

『でもこういうの、焦れば焦るほど駄目なのも分かってるから…どうしたら、良いんだろうね』

『あの頃の私と比べたら、きっと驚くよ。滅茶苦茶今、落ち着いてるから。
 好きな人もね、なんていうか、傾向が変わったんだ。前の人とは打って変わって、穏やかな人なの。その人と付き合っていくうちに、自分がどんどん変わっていったの分かるの。
 自分のことを肯定し続けるって未だに難しいこともあるけど、でも、昔に比べたら出来る様になったよ』


「……懐かしいな」

 あれから何年経っただろう。記憶は薄れ、どんな顔で、どんな声をしていたのかも怪しい。
 覚えている物事といったら、あの人と私は似た者同士だったこと。馬が合ったこと。案外共通の知人がいて驚いたこと。そのくらいだろうか。
 悲しいかな、残酷なほどに時間という概念は私からかの人を奪っていっているようだ。
 人はそれを良きことと受け止めるんだろうけど、あいにく私はそう思えない。喪う恐怖を二度も味わうなんて勘弁してほしいくらいだ。
 だから時折私は見返す。思い出に浸り、生きていけるように。お湯が水となったとしても、そこに居続けることが出来るように。寒いと感じないように。
 寂しいと、思わないように。思い出した時、私は書き込む。

『久しぶり。元気にしてる?』
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