十人十色(旧題:短編集)

星野 夜空

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その他

「あるでしょ?」「ない」

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「どうしてそう言えるの? あり得るでしょ」
「いや、だから──」

 そんな雑談を繰り広げつつ、お互いの目はノートへ注がれる。勉強とも趣味ともいえることが何かを語り合うことというのは理解の範疇内だとしても、テーマが毎回変わることで納得はされにくい。とても何というか、奇妙な目で見られることが多い。
 それでも二人はとても楽しそうに、今回のテーマである数学について熱く語っていた。

「だからさっきのゲームはこの定理を踏まえておくと勝てるってわけだ」
「そんなん知ってる方が強いじゃん。負け続けるわけだ」

 天を仰ぐ様子を微笑ましそうに楽しそうに見つめながらそんなことないとフォローを入れるが、そんな慰めはいらないとばかりにどうしたら勝てるか思案顔へ変化した、と思いきや唐突に話は仕事へ飛んだ。
 相槌を打って聞くと、どうにも人間模様が面白いらしい。付かず離れずの距離を楽しんでいるとは性悪と言われてしまうだろうし実際そう思うだろうが、あいにくツッコミ不在。二人の会話は止まることを知らず、狭いコーヒーショップで一時間以上話し込んだ。
 朝早い時間から昼近くへ変化する時間帯。暇とはいえよくもまああんなに話せると店員は内心呆れてしまう。男女一緒、それも親密に話す様子から恋人関係だろうと当たりをつけるが、しかし時折耳に入ってくる内容がそれらしくない。
 なんとも不思議な二人組だと思いながらテーブルを拭いていくと、また話題は変わったらしい。今度の話も対人関係らしいが、専門用語らしい言葉が出てくるため一体何の話をしているか分からない。
 拭き進めていくとおもむろに女性が席を立つ。と同時に男性も立ったことから店を出るのだろう。
 二人はというと半刻も同じ場所へ居ることができたことへ笑いあう。様々な事情から同じ場所へ居続けることが難しい二人にとって、たとえ短い時間でも居たことは大変な進歩である、とは共通の認識だ。
 また今度もこんな会話をしようと話して、暑くなり始めた街で別れた。
 
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