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その他
突き離していくんだね
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会いたかった、でも無理、会えないと嘆く声にげんなりする。子どものように暴れ回り泣き叫んでいた状態で人に会わせられるなんて誰が思うだろうか。それを分かってやっていた本人の言葉とは思えない。
まして、ここは病院なのだから。
☆
幼馴染みである彼女が栄養失調で倒れて運ばれてきた時は、あまりの痩せ具合にゾッとした。たった一年、お互いの仕事が忙しくて合わなくて会えなかったこの一年間だけで肋骨が浮き出るほど痩せた彼女。独特の名字でなかったら分からなかっただろう。
あまりの痩せ方に思わず、彼女の主治医にそのことを話せば摂食障害の可能性があると告げられた。それは看護と医療の知識を詰め込んだ、新人の僕でも浮かんだこと。だから栄養剤ではなく、なるべく食事療法で治療をしていく方針が決定された。
幸い胃腸には不具合が見当たらなかった為、お粥と普通飯の間、軟飯と呼ばれる状態からスタートした。最初のうちこそ一割も食べられなかったが、一ヶ月を過ぎた今は半分近く食べられるようになってきている。時間はかかっているが、食べられないよりは良い。
それもこれも、彼女に言わせると付き合っている彼のお陰だという。彼がいるから「ご飯を食べる」という恐怖心に打ち勝っていると。実際彼がいなければ胃腸機能は衰えていただろうから、こちらとしてもありがたい存在だ。
ただ、心の支えがあるのは良いことだと思う反面、何だかその言葉を話す彼女の様子に危うさが見えた。
☆
「────!!」
その予感が当たったのは、彼女が入院し始めて三ヶ月。彼女の想い人が出張で数ヶ月会えず、連絡もあまり取れていないといった時だった。
突然食べていたご飯を床へ払い落とし、その場で顔や頭を叩いたり殴ったり、髪を強く引き抜こうとしたりし始めた。奇声をあげ、涙を流しながら。
近くにいた別の看護師がすぐに応援と医師を呼んで、急遽拘束具と鎮静剤の使用が行われた。非常事態、万一の為にと同意書にサインをもらっていたのは僥倖、だったのだろうか。
折り合いが悪く、ゆえに実家暮らしでも痩せ細っていく彼女に気づかなかった家族へ連絡しない代わりに、その頃には婚約者となっていた彼氏さんへ連絡を入れた。
すぐに行きます、と返事をされた時には安堵したが、その頃彼女が落ち着いていれば面会は出来るだろう。だけど、もし出来なかったら。
考えるだけで少し憂鬱になってしまったのは、誰にも言えなかった。
☆
そうして案の定、三時間弱経っても暴れている彼女。鎮静剤のお陰で当初の勢いはないものの、元々精神剤を服用している関係もあり耐性があるのかあまり効果が出ているとは言えない様子だ。ようやく、頑張って到着してきてくれた彼には申し訳ないがこの状態での面会は出来ないことを伝えるしかなかった。
また来ます、よろしくお願いします。と頭を下げて帰ると同時に、まるで憑き物が落ちたかのように静かになった彼女は、今度はうわ言を言い始めた。
会いたかったと、会いたくないの言葉の繰り返しを。
その言葉で、変わり身の早さで、幼馴染みゆえの長さで、僕は分かってしまった。彼女が何を考えているのかを。
また悪い癖が出てきたと。親しくなればなるほど突き放す彼女の習癖が始まったと。……恋人から離れようとしていることを、知ってしまった。
「それで君は、後悔しないんだね?」
職員としては駄目だろうけど、友人としてはセーフだろうと都合のいい考えで話しかけると、
「するかもしれない。でも彼が生きてるならそれで良いよ」
半分投げやりの、夢現にいるような声音で返答が返ってきた。
本気なんだね、君。
あんなに、君が壊れたと知って遠くから急いで来てくれた彼を──君がまだ不安定状態だと告げた時、顔色を悪くしながら僕に詰め寄ってきた彼を。
君は──。
まして、ここは病院なのだから。
☆
幼馴染みである彼女が栄養失調で倒れて運ばれてきた時は、あまりの痩せ具合にゾッとした。たった一年、お互いの仕事が忙しくて合わなくて会えなかったこの一年間だけで肋骨が浮き出るほど痩せた彼女。独特の名字でなかったら分からなかっただろう。
あまりの痩せ方に思わず、彼女の主治医にそのことを話せば摂食障害の可能性があると告げられた。それは看護と医療の知識を詰め込んだ、新人の僕でも浮かんだこと。だから栄養剤ではなく、なるべく食事療法で治療をしていく方針が決定された。
幸い胃腸には不具合が見当たらなかった為、お粥と普通飯の間、軟飯と呼ばれる状態からスタートした。最初のうちこそ一割も食べられなかったが、一ヶ月を過ぎた今は半分近く食べられるようになってきている。時間はかかっているが、食べられないよりは良い。
それもこれも、彼女に言わせると付き合っている彼のお陰だという。彼がいるから「ご飯を食べる」という恐怖心に打ち勝っていると。実際彼がいなければ胃腸機能は衰えていただろうから、こちらとしてもありがたい存在だ。
ただ、心の支えがあるのは良いことだと思う反面、何だかその言葉を話す彼女の様子に危うさが見えた。
☆
「────!!」
その予感が当たったのは、彼女が入院し始めて三ヶ月。彼女の想い人が出張で数ヶ月会えず、連絡もあまり取れていないといった時だった。
突然食べていたご飯を床へ払い落とし、その場で顔や頭を叩いたり殴ったり、髪を強く引き抜こうとしたりし始めた。奇声をあげ、涙を流しながら。
近くにいた別の看護師がすぐに応援と医師を呼んで、急遽拘束具と鎮静剤の使用が行われた。非常事態、万一の為にと同意書にサインをもらっていたのは僥倖、だったのだろうか。
折り合いが悪く、ゆえに実家暮らしでも痩せ細っていく彼女に気づかなかった家族へ連絡しない代わりに、その頃には婚約者となっていた彼氏さんへ連絡を入れた。
すぐに行きます、と返事をされた時には安堵したが、その頃彼女が落ち着いていれば面会は出来るだろう。だけど、もし出来なかったら。
考えるだけで少し憂鬱になってしまったのは、誰にも言えなかった。
☆
そうして案の定、三時間弱経っても暴れている彼女。鎮静剤のお陰で当初の勢いはないものの、元々精神剤を服用している関係もあり耐性があるのかあまり効果が出ているとは言えない様子だ。ようやく、頑張って到着してきてくれた彼には申し訳ないがこの状態での面会は出来ないことを伝えるしかなかった。
また来ます、よろしくお願いします。と頭を下げて帰ると同時に、まるで憑き物が落ちたかのように静かになった彼女は、今度はうわ言を言い始めた。
会いたかったと、会いたくないの言葉の繰り返しを。
その言葉で、変わり身の早さで、幼馴染みゆえの長さで、僕は分かってしまった。彼女が何を考えているのかを。
また悪い癖が出てきたと。親しくなればなるほど突き放す彼女の習癖が始まったと。……恋人から離れようとしていることを、知ってしまった。
「それで君は、後悔しないんだね?」
職員としては駄目だろうけど、友人としてはセーフだろうと都合のいい考えで話しかけると、
「するかもしれない。でも彼が生きてるならそれで良いよ」
半分投げやりの、夢現にいるような声音で返答が返ってきた。
本気なんだね、君。
あんなに、君が壊れたと知って遠くから急いで来てくれた彼を──君がまだ不安定状態だと告げた時、顔色を悪くしながら僕に詰め寄ってきた彼を。
君は──。
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