十人十色（旧題：短編集）

その他

☆空っぽの中身で

　虚しいだとか、辛いだとか、そんな気持ちはとうに失った。失わないとやってられないから。
　嫌悪も快楽もなく、ただからくり人形のように相手のあるがまま演じるだけ。それに騙される相手の、なんて多いことか。陰で笑っていることに気づいている人もいるだろうけど、笑わずにはいられない。言葉だって遊びなのだもの、それすら楽しめずにいるなら、その人は風俗に向いていない。男も、女も。
　人のことなんて笑える立場にあるわけないのに。
　それでもこの職に就いているのは収入が良くて、別にセックスが嫌いでないことと、学がないこと──何より、人の温もりが捨てがたいからなのかもしれない。
　つらつらと、馬鹿馬鹿しい考えをそんな風に頭で巡らせながら客相手をしていると知れば、どう思うのだろうとふと興味がわいた。そんなこと聞くなんてアホなこと、するわけもないけど。
　ああ、でもそろそろこの仕事も潮時なのかもしれない。指名も減って収入も徐々に減りつつある。今までの蓄えは十二分にある上、普通の、それこそ飲み屋のお姉さんをしても良い歳になった。いわゆる引退の時期に差し掛かっているのだろう。今度店長に話をしてみるか。

「で、でる……っ」

　その時ようやく男が果てて、長い時間が終わったことを告げる。気持ち良かったよと話す相手に私も、と返すことに白々しいと思いながら。